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第十二話 意気

 次の日、夕方まで川島には大学の授業があったため、それを受けて家に帰ってきた。夕方からの時間は深沢の時間であったため体は深沢のものへと変わる。


 深沢はいつもあまり外をうろうろとせず、家でテレビを見たりしてゆったりとした時間を過ごすのがパターンだった。しかし、この日は外へ出かけて行った。




「おい、真也。どこ行くんだ?」




 川島の声が頭に響く。その声を無視して深沢は街中を歩く。


 店のネオンが輝き、街は相変わらずにぎやかだ。


 深沢は三時間程度、街をふらつき家に戻った。川島はこの深沢の行動が何を示すのか今はまだわからなかった。こうして、この日も静かに幕を閉じた。


 次の日は川島のバイトが入っていたりして、川島が一日を過ごした。その次の日は金曜日で川島が唯一、休める日だった。映画を観たり、ネットサーフィンをしたりして体を休めた。


気づけば、土曜日で木村が朝から晩まで一日使う日だった。


例の件があってから初めて木村が体を使う番だった。木村は九時頃に朝食を取り、いつものように化粧をする。


 そして、川島に向かって呟く。




「健太、あたし決めたから」




 そう言って電話を手に取り、例の高木の名刺を取り出す。


 そして、事務所の番号を押していく。何回かのコール音の後、応答がある。




「はい。スーパーノヴァプロダクションです」




 木村は一呼吸おいてから話を始める。




「あの、高木さんをお願い出来ますか?」




 すると、オペレーターが返事をする。




「はい、高木ですね。少々お待ち下さい」




 その後、ありきたりな保留音に切り替わった。




「真衣、やる気なんだな?」




 その間に川島の声がこだましてくる。木村は何も言わずに高木が出るのを待った。




「お待たせして申し訳ありません。高木です。どちら様でしょうか?」




 聞き覚えのある高木の声が受話器から聞こえてくる。木村はまた一呼吸おいて言った。




「あの、あたし木村といいます。先日、声をかけていただいた」




「木村さん? 真衣ちゃん?」




 高木は近所のおばさんのようにお客様用の声から認識のある人用の声に変わった。




「はい。今日これからお会いできますか?」




 木村は答えて、今日会えるかどうかを尋ねた。高木は少し間をあけてから答える。




「えーと、今日だとこの後、昼の二時からなら空いてるけど」




「構いません。ぜひお願いします」




 木村はホッとしながら言った。今日中なら一日体を使えるので問題ない。




「わかったわ。場所はこの間の喫茶店でいいかしら?」



 高木はスカウトの話をした喫茶店を指定した。




「はい。では、後ほど。よろしくお願いします」




 木村はそう言って電話を切った。昼の二時まであと四時間近くあった。木村はその四時間、そわそわと落ち着かない様子だった。


 そして、約束の時間になった。木村は例の喫茶店へ向かった。


 喫茶店に着くと、木村は辺りを見回して高木の姿を探したが、まだ着いていないようだった。木村はわかりやすく窓際の席を選んだ。


 確か、前に話をした席もこの席だったはずだ。二時を過ぎて十分後ぐらいに高木は現れた。




「ごめん。ごめん。ちょっと仕事が落ち着かなくて、遅れたわ」




 木村は少し笑みを浮かべて、気にしていない素振りを見せる。


 そして、高木は木村の前に座った。




「それで、決心してくれた?」




 高木は早速、本題に入った。木村は少し悩んだ表情を一瞬見せたが、笑みを浮かべて高木の顔を見る。




「はい、決めました」




 高木はその言葉を聞いて、少し姿勢を変えて真剣な眼差しを木村に向けた。




「モデルの仕事、あたしにやらせて下さい!」




 木村の声は力強く、決意も固かった。その意気込みや決意をしっかり高木は読み取った。




「本気でやってくれるのね。この仕事は華やかに見えてそれなりにしんどい仕事よ。覚悟は出来てる?」




「はい!」




 木村は即答した。そして、自分が大学生であり、仕事が出来る日が限られていることを告げた。




「わかったわ。うちは学業優先をモットーにしてるから安心して。それとマネージャーは私が務めさせてもらうから」




 高木は自分が発掘した原石を手放したくなかったようだった。


 木村は川島や深沢のこともしっかり考えて自分が使える時間のみをモデルとしての仕事に費やせるようにした。


 今後、モデルの仕事が決まり次第、高木から連絡するということになった。


 こうして、木村はモデルとして働くことが決まった。


 木村は自分が大好きなファッションのリーダーになれたらいいなと胸を弾ませていた。

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