4話 昭和16年12月7日その2
ずずぅ~…… もぐもぐ…… ずずぅ~…… もぐもぐ……
引き続き、昭和天皇と羊羹をつつきながら、お茶をいただきながら駄弁っております。この空間は和みますね。
「それはそうと、桜子さんは未来から来たのかい?」
「陛下はお気づきでしたか」
「いや、桜子さんが自分で未来とか言っていたし、機密であるはずのアメリカと戦争になることや、海軍が真珠湾を攻撃することも知っていたから」
「そういえば、そうでしたね」
女神様が座標を間違えて、この世界に転送されただけの気もしますけど。
それにしても、天皇陛下は頭が柔らかいですね。どっかの軍人たちには、陛下の爪の垢でも煎じて飲ませたい気分にさせられるよ。
「そうであるのならば、桜子さんはこの先の未来も知っているのだろ?」
「まあ、知っているといっても、平行世界の未来の歴史ですけどね」
こんなピコマシンなんて、オーパーツもいいところの身体のアンドロイドが出現した時点で、私が前世で生きていた時代とは歴史は分離していますしね。
だから私の主観では、この世界はパラレルワールドということになります。
「その平行世界の我が国はどうなったのかな?」
「アメリカに負けましたね」
日本の主要都市は焼け野原になって、広島と長崎に原爆が落とされると知ったら、卒倒しちゃいそうですよね。
「はぁ~、やっぱりそうなるよなぁ」
「負けると予想はしていたのですね」
「僕は我が国がアメリカに勝てると思うほど、お気楽ではないよ。あの国はそれほどまでに強大だよ。それに海軍の図上演習でも勝てたためしがないしね」
ちゃんと現実が見えているのに、なんで最後まで戦争に反対しなかったんだろ?
和平工作を途中で諦めちゃったのかな?
もしかしたら、日本人特有の集団自殺願望。みんなで仲良くお手手を繋いで断崖絶壁の崖から集団ジャンプするという、病魔に侵されてしまったのかも知れないですね。
でも、そこで思考停止して諦めたら、そこまでだと思います。試合終了です。
「どんな感じで日本が負けたのか、詳しく知りたいですか?」
「知りたいような、知るのが恐ろしいような」
「もっとも、この世界が私が生きてきた世界の歴史と同じ道を辿る。そうとは限りませんけれども」
「それは、桜子さんが存在するからと、そう受け取ってもいいのかな?」
陛下の目がキラッと輝いたように見えましたよ。
まあ、神の眷属なんて存在が、こんなタイミングで現れでもすれば、期待しちゃうのは仕方ないとは思います。
溺れる者は藁をもつかむともいいますしね。
あー、だから、怪しげな宗教の勧誘に引っ掛かる人間が後を絶たないのか。
私なんて、その怪しげな宗教の勧誘者そのままみたいなモノですしね。
「陛下は、日本人が300万人死ぬのと、3万人死ぬのどっちを選びますか?」
「それは当然、少ないほうがいいに決まっているよ。もしかして、その300万というのは桜子さんの歴史で死んだ人数なのかい?」
「そのとおりです」
250万~300万の間で正確な数字までは分からないけど、誤算範囲としておきましょう。
ドイツやソ連、中国の死者数は、もっと範囲がバラバラですしね。
時代が下がるにつれて、過去の死者の数が数百万から一千万単位で増大して行くだなんて、神さまもビックリだよ。
「そんなにも大勢の日本人が死ぬのか……」
「だから私はアメリカとの戦争に反対なんですよ」
「三万人という数字のほうは、どこから出た数字なんだい?」
「好戦派の軍国主義者や共産主義者とかを粛清したり、日本国内が内戦になった場合とかですね」
「なるほど、内戦の可能性も捨てきれないのは確かだね」
「もしかしたら、一桁多くなるかも知れないですけど、アメリカと戦争するよりもまだマシではないでしょうか?」
政治家というのは、百人を生かすために一人を殺す覚悟が無ければ、政治家失格だと思いますしね。
まあ、私の個人的な感想なので、全員を助けられる自信があるのであれば、助ければいいとは思うけどさ。
でも、こういう場合って一人を助けたために、余分に十人が死ぬ可能性が高かったりもするのですよね。
「皇軍相打つか……」
「二・二六事件の時も、その寸前まで行きましたよね」
「あれは朕が股肱の老臣が殺されて、痛恨の極みであった」
ん? 今チラッと君主としての顔が覗きましたよね。
でも、それだけ二・二六事件というのは、昭和天皇のトラウマになっているのかも知れません。
まあ、高橋是清に斎藤実という総理大臣経験者二人に、教育総監の渡辺錠太郎という大物ばかりが殺されたのだから、トラウマにもなるよなぁ。
「貫太郎さんだけでも助かったのが、せめてもの慰めでしょう」
あの当時、本当に殺されるべき人間だったのは、精神主義に凝り固まった過激な軍国主義者や、自分の欲や利益の為に日本が大陸にのめり込んでいくのを煽る人間、アジア主義者や共産主義者とかだと思います。
青年将校は殺す相手を最初から間違えてましたね。事件を起こした青年将校たちって現実の政治を理解していなかったのでしょうね。
どうせ誰かを殺すのであれば、統帥権を政治の道具にした犬養某や鳩山某とか、天皇機関説をキャンキャンと攻撃した連中を殺せば良かったのにとか思わなくもない。
あ、犬養某は五・一五事件で暗殺されてましたか。
「うん、桜子さんは事情を分かっているみたいだね」
「まあ、上っ面の事情だけですけど。私にとっては歴史上の出来事ですから」
「歴史、歴史か……」
そう考えると、私は歴史の立会人みたいな立場とも取れるわけでして。
私は滅多なことでは死ねないから、どうしても傍観者的な視点になってしまうのかも知れません。
私がチートを使って歴史に介入しすぎたら、万が一にも日本がアメリカに勝ってしまうとかの事態になったら、軍国主義が続きそうな気がして、それはそれで嫌ですしね。
まあ、さすがにネットショッピングで現代兵器までは買えないと思いますので、そこまで心配しなくても大丈夫な気もしますが。
私がチートを使ったとしても、日本がボロ負けしない程度に援助するぐらいが、関の山かな?
それに、用兵側が兵器を理解していないと、猫に小判になりかねません。
日本の将兵って地味な仕事や泥臭い仕事をやりたがらない人たちばっかりだったと記憶にありますので、いくら私がチートをしても軍人の意識改革なしには、アメリカと引き分けにすら持ち込めない気がしますね。
私にはそんな権限もありませんし、価値観の違う戦前の日本人に私が口を酸っぱくして苦言を呈するとか、そこまでしてあげる義理もありませんので。
といいますか、スタンドプレーをして目立ってしまうと、日本人って直ぐに嫉妬して足を引っ張るんだよなぁ。
出る杭は打たれるとかいう諺が大昔から残っているのは、伊達ではないのだよ。
だから、適当にやってお茶を濁しておきましょうか。
今週は毎日昼の12時に予約投稿してあります。




