3話 昭和16年12月7日その1
「む? 突然現れた可愛らしいお嬢さん、君は誰かな?」
「えーと、高性能座敷わらしみたいな感じ?」
「なんとも面妖な」
なんかどこかで見たことがあるようなオジサンが私の目の前に居るのですけど。
「もしかして、貴方は昭和天皇ですか?」
「昭和天皇? 確かに僕は天皇だけど、その言い方は過去形だよね」
「ですよねー」
なんてこったい!
異世界転生だと思ったら、私の目の前に昭和天皇が居るだなんて……
それにしても、この昭和天皇は若いですね。三十後半から四十ぐらいでしょうか?
どうしてこうなった?
これは神さまに聞くしかありませんね。
「もしもし、神さま?」
『はいはーい。どうしましたか? いきなりトラブったのかな?』
おろ? 本当に天界か神界に通じてしまったよ。これは便利ですね。
『貴女は私の眷属なのだから、私と通信できて当然です』
なるほど、それもそうか。それはそうと。
「異世界じゃなくて、なんか戦前の日本に来ちゃったみたいなんですけど?」
『あら? ふむふむ…… なるほど。どうやら転送先の座標を間違えてしまったみたいでしたね』
「ファンタジー世界、剣と魔法の世界で俺TUEEの約束は?」
『………………』
「もしもーし、おーい女神さま~?」
『平行世界なんだから、その世界もファンタジーみたいなものよ。だから頑張って!』
「そ、そんな~」
神さまのクセに無責任な……
『グッドラック! 幸運を祈る!』
「あ、切りやがった……」
都合が悪くなって逃げやがったな。
それにしても女神様との会話は、電話か無線みたいなモノと思えばいいのかな?
「今、聞こえたのは神の声?」
「あ、陛下にも聞こえてました?」
「うん」
「さすがは現人神ですね」
「現人神とか祭り上げられてるけど、僕は普通の人間だよ」
うん、知ってた。
「ところで、今日は何年の何月何日でしょうか?」
「昭和16年の12月7日の夜だよ」
「もしかして、御前会議で対米英開戦がもう既に決定しちゃったりしてます?」
「不本意ながらも、その通りだね」
なんてこったい!
異世界転生だと思ったら、真珠湾攻撃の前日だっただなんて……
「今から第一航空艦隊に真珠湾攻撃を中止させることってできます?」
「残念ながら、たぶんもう無理だと思うよ」
「お、終わった……」
せめて大恐慌か満州事変の前に転生しなきゃ、日米開戦を回避させることは難しいはずだし、これはゲーム開始前から詰んでいて、もう既にゲーム終了ってヤツですよ!
転生直後なのに、何もしないうちから真っ白に燃え尽きてしまったよ。
つまり、終わった……
「ま、まあ、とりあえず、羊羹でも食べて落ち着こうか」
「あ、いただきます」
こうなったら、羊羹でも食わなきゃやっとれんわい!
※※※※※※
もぐもぐ……
昭和天皇と羊羹をつつきながら、お茶をいただいております。この空間は和みますね。
といいますか、天皇陛下を相手にしているのに緊張しないのはなんでだろう?
もしかして、私の前世って皇族だったのかな?
……さすがにそれはないわな。
私も神さまの眷属みたいなモノだから、もしかしたら前世に比べて魂の位階とかが上がったから、緊張しないで平然としていられるのかも知れませんね。
「この羊羹、美味しいですね」
この身体にも、ちゃんと味覚があって助かりました。
まあ、女神様謹製の身体ですから当たり前なのかも知れません。
「それは良かった。この羊羹は海軍の給糧艦である間宮で作っている羊羹なんだよ」
「間宮の羊羹といったら、未来でも知る人ぞ知る一品として、その筋では有名でしたよ」
でも、間宮の羊羹って手に入りにくいとか言ってませんでしたっけ?
まあ、天皇陛下なんだから、海軍から献上されたのかも知れませんね。
「その筋?」
「軍事オタクとかミリタリーマニアとか呼ばれているマニアの人たちのことです」
「なるほど、マニアね。マニアックな人の略かな?」
「そのとおりです」
「それで、そろそろ君の名を教えてはくれはいかな?」
「私の名前ですか? えーと……」
そういえば、自己紹介をするのを忘れてたよ。前世の記憶を消されたから、自分の名前も忘れてしまってたから、自己紹介も忘れていたのだと言い訳をしておきましょう。
「自分の名前を忘れてしまったのかい?」
「ここに送られてくる前に、神さまが私の前世の記憶を消去してしまったのですよ」
「ふーむ……」
「知識とかは残っているけど、自分の過去は思い出せません」
「なるほどね。でも名前が無いのは不便だよね」
「うーん、自分で名前を付けるにしてもネーミングセンスがなぁ」
玉とか環希とかが思い浮かぶのはナゼでしょうかね?
「じゃあ、僕が君に名前を付けてあげようか?」
「あまりダサくないのでお願いします」
そっか、名前って親とかに付けてもらうのが普通なんだから、自分で考えなくてもよかったんだ。
でも、トメ子とかだったら却下するからな!
「そのワンピースが桜色だから、桜子とかどうだろう?」
「桜子ですか…… わかりました。今日から桜子と名乗ります」
桜子も既視感がある名前だけど、まあそれでいいかな。
「名字も作らないとね」
「もしかして、竹山とか言っちゃいます?」
「……僕が竹山って考えてたのを読めたのかな?」
「陛下が学習院時代に竹山って呼んでくれとか言ったの有名ですから」
高貴な身分の人って、自由豁達に見える庶民に憧れを持ったりするんですよね。
まあ、私から言わせてもらえれば、隣の芝生は青く見えるってヤツの気がしないでもないのですが。
「なるほど。僕と違って本当の神の眷属は伊達ではないってことだね」
「陛下だってアマテラスの末裔じゃないですか」
「本当に神の末裔だったとしても、桜子さんと違って僕は普通の人間だよ」
「私も普通の人間のつもりなんですけど」
まあ、この身体はピコマシンで作られているみたいですけど、それを言ったところで誰も信じないでしょうしね。
ピコという単位自体、この時代にはまだなかったはずですし。
「いや、普通の人間はいきなり姿を現すとかできないし、神とも会話なんかできないから」
「私が此処に来たのは、神さまの手違いなんですけどね」
「それでもだよ。僕はこの奇跡ともいえる巡り合わせを神に感謝するよ」
いや、貴方も一応は、神様ってことになってますやん。
現人神として、それでいいのか?
「それで、名字は竹山でいいのかな?」
竹山桜子…… 竹山に桜は咲かない気がしますね。だから、いまいちパッとしない組み合わせの気がしないでもない。
まあ、せっかく天皇陛下が名前を付けてくれているのだから、ありがたく頂戴しときますか。
個人的には、藤宮とかいう名字が頭に浮かんだけど、藤宮ってなんとなく名字とは違う気もするしね。
「そうですね。竹山桜子でお願いします」
「戸籍もないと不便だから、伏見宮か閑院宮の庶子、隠し子ってことにして捏造しておくよ」
「助かります」
これからの時代、戸籍が無いとスパイとか思われて特高や憲兵から追いかけられそうですもんね。
戸籍を作ってもらって更に後ろ盾が天皇陛下とか、これって最強じゃね?
まあその分、あれやこれや色々と聞いてきそうだし、あまり自由に出歩けなさそうなのは痛し痒しといったところでしょうか。
それにしても、伏見宮さんか閑院宮さんは、とんだとばっちりですね。ごめんなさい。
でも、私は無実ですので。犯人は現人神さまですから、文句は私の目の前にいる人に言ってくださいませ。
「それじゃあ、名前は竹山桜子で決定と。生年月日は昭和2年4月1日でいいか」
「エイプリルフールですか? 洒落が効いてますね」
「それもあるけど、四月の初めは桜の季節でもあるからね」
「ああ、なるほど。後付けだけど、確かに四月生まれの女の子だから、桜子って分かりやすくて良いと思います」
三月生まれで桃や桃子とか、藤子、百合子、小百合、杏子、梓などなど……
また、秋なら秋で季節ににちなんだ名前とかありますもんね。
「そうでしょ? それで父親は、どっちに頼もうか悩むな。うーん……」
「対米戦が回避できないのであれば、メインは海軍になりますので、伏見宮さまにお願いしたほうが良さそうな感じでしょうか?」
「ふむ? そういった視点も大切だね。では、伏見宮にお願いしてみます」
「伏見宮殿下に断られた場合は、どうしましょう?」
「なに、僕が朕が何々とか言えば、伏見宮でも僕には逆らえないから大丈夫だよ。それに桜子さんの二重まぶたで少しタレ目なところなんか、伏見宮にそっくりだから本当の親子と言っても過言ではなさそうだしさ」
陛下ってば、皇族には強い子だったんですね……
伏見宮さん、顔が似てしまってごめんなさい。文句なら、私を創った女神様に言ってくださいませ。
それと、伏見桜子のほうが良さげな気がしないでもないのは秘密です。
玉や環希に桜子って誰なんだろう?(棒




