18話 昭和16年12月中旬その5
「陛下、海防艦を大量に建造しなければ、日本のシーレーンは守り切れません」
「大量とはいっても、具体的な数は?」
「最低でも300隻以上ですね」
日本が戦時中に建造した海防艦の中で、量産性と攻守のバランスに優れていたのは、鵜来型でしょうか?
この鵜来型に海防艦を統一して今から建造すれば、300隻以上の建造も可能だと思います。
「我が国の国力で、そんなにも大量の海防艦を建造できるものなのかね? 空母や駆逐艦に商船も建造しなければならないのだろう?」
「私の歴史でも、昭和18年から敗戦までの二年半で海防艦だけでも170隻以上就役させてますので、今から建造すれば海防艦300隻も可能だと思いますよ」
つまり、二年半で170隻ということは、毎週日本の何処かで海防艦が就役していたのと同じ数以上なのだから、日本もアメリカの週刊護衛空母までは行かないにしても、週刊海防艦は可能だったということです。
この当時の日本は貧乏国とはいっても、世界で五番目か六番目の工業国だったのです。
戦前の日本もなかなかやるじゃん!
腐っても列強の末席、腐っても大日本帝国を名乗るだけの国力はあったのだと思います。
またそうでなくては、アメリカとの戦争なんかやろうとは思わないでしょうしね。
海防艦はブロック工法を採用して、船体も曲線を使わずに直線的な形状の簡易な構造にして、工数を削減すれば起工から竣工まで最短で、二ヶ月半の工期で完成させることができたと記憶にあります。
まあ、二ヶ月半で完成させたのは鵜来型ではなくて、それよりも小ぶりで更に簡素な作りであった丁型海防艦だったのですが。
「なるほどね。アメリカの物量に対抗するのに個艦性能を重視するのではなくて、こちらも数を重視するのか」
「ほどほどの性能でも数というのは、それだけで力になります」
まあ、日本の週刊海防艦で喜んでみたはいいけど、アメリカは日刊駆逐艦なんぞもやっていたりもするのですよね……
アメリカには一体、どれだけの数の造船所があるんだ? きっと数えるのも馬鹿らしいぐらいの造船所があるんだろうなぁ。
物量チートの米帝様に張り合おうなど、虚しくなってきた……
「個艦性能を重視した駆逐艦を作っている海軍には、桜子さんの言葉は耳が痛いだろうね」
まあ、物量には物量で対抗するなんて発想は、貧乏な日本ではなかなか出てこない発想だとは思いますので、個艦性能を重視したのも同情の余地はあるのですがね。
でも、魚雷や爆雷を積み過ぎて、機銃弾一発で轟沈なんてやらかしたりもしていますので、もう少しなんとかならなかったのかとは思いますね。
つまり、もう少し対空戦闘に気を配って頂けたらなぁと。
あと、対潜戦闘もでしたか。潜水艦ハンターでもある駆逐艦が、太平洋戦争後半以降は、逆にアメリカの潜水艦に狩られて撃沈されるという場面が多々見られましたので、笑えない冗談だよ。
まあ、私もサイレントハンターで駆逐艦やコルベットを狩るのは得意でしたので、やろうと思えば潜水艦でも駆逐艦に対抗できるのは分かるのですよ。
それでも、日本海軍の対潜戦闘は、ちょっとお粗末すぎの気がしますね。
対潜水艦戦闘というと、潜水艦を発見するためのソナーが重要でしたか。
でも、この時代のソナーって、かなり精度が悪かったはずですよね?
未来の魚群探知機って潜水艦の探査に使えないかな? ちゃんと使えるかどうか、ちょっとピコちゃんに聞いてみましょう。
『ピコちゃん、ソナーの代わりに魚群探知機を使って潜水艦って発見できる?』
『マスター、魚群探知機はソナーと同じですよ』
『そっか、つまり未来から魚群探知機を取り寄せれば、潜水艦を発見できるということだね』
『この時代のソナーよりも楽に発見できますけど、21世紀の魚群探知機は完全なオーパーツですよ? 万が一にも敵に鹵獲された場合はどうするのですか?』
『あー、そりゃ言い訳もできないか…… スペックを落としたモンキーモデルで、この時代の技術でも作れるようにピコちゃんが設計できるかな?』
『わたしに人間が作製可能な技術で不可能はありませんので、もちろん可能です』
『じゃあ、お願いしてもいいかな?』
『それでは、鹵獲されたとしても完全には解析できないように、基幹部分だけブラックボックスにして設計してみますね』
『ピコちゃん頭いい! それで頼んだよ』
『頼まれました。ついでに、磁気探知装置も設計しときますね』
『磁気探知装置って対潜哨戒機の東海が装備していたアレ?』
『それですね。空からも対潜哨戒すれば、潜水艦探知能力が大幅に向上しますよ』
『じゃあ、それもピコちゃんにお任せします』
『任されました』
ピコちゃんが頼りになって助かります。私では仮にソナーを作れたとしても、最低でも数か月は時間が掛かりそうですしね。
ピコちゃんならば、ものの数分で設計図を書き終わってしまいそうだよ。
潜水艦といえば、スーパーキャビテーション魚雷とかいう、チートな兵器もありましたね。
ソ連の魚雷であるシクヴァルもそうですけど、前世でグングニルとかいう架空戦記を読んだ記憶があるのですよ。
自分が何者だったのかは覚えてないのに、こういう知識的な記憶は、なんで覚えているのでしょうかね? 少し不思議な感じがします。
あれ?
もしかしたら、スーパーキャビテーション魚雷があれば、アメリカ海軍をかなり痛めつけられて善戦できるんじゃね?
下手したら大型艦船を沈められまくって、戦死する水兵の損害にアメリカが真っ青になって、講和の可能性も出てくるのかも知れない。
軍艦だけでなくて、タンカーに軍需物資を輸送する商船や弾薬運搬船、兵員輸送船とかを沈めまくるのも良さそうな気がします。
むしろ、費用対効果や効率の面を考えたら、通商破壊こそ正しい潜水艦の使い道でしたね。
上陸戦をする兵や武器弾薬に食糧、軍艦や航空機を動かす燃料が無ければ、近代の軍隊というのは戦争ができないのでした。
それに、アメリカ軍は遠くパナマ運河や西海岸から太平洋を横断してくるのだから、その長い道中の海路では潜水艦が襲撃し放題ではありませんか。
そして被害が急増すれば、輸送船団を護衛するのにも軍艦を割かねばならなくなるので、それは正面戦力の低下にも繋がるのだ。
ぐふっ、ぐふふふふ……
史実で日本が苦しめられた商船の被害の多さを、これは是が非でもアメちゃんにも味わって貰おうではありませんか!
『ピコちゃん、スーパーキャビテーションって』
『まだ許可が下りてませんので、マスターの提案は却下します』
な、なんだと…!? 許可ってなに?
でも、十中八九は女神様の許可ってことなんだろうなぁ。
まあ、仕方ありません。今回は諦めるとしますか。でも、いつかは必ず……
いかん、キャビテーションなだけに、空想も泡のように膨らんでしまった。
現実に戻らねば。でも、悪くない案だと思います。
「まだギリギリ余裕がある、今のうちに海防艦の建造を開始しなければ手遅れになります」
「それはつまり、また海軍の見通しの甘さということかな?」
「そうなりますね」
「まったく…… 将官連中の尻に精神注入棒を食らわしてやりたくなってきたよ」
陛下がご乱心なされました! 御典医さんはドコですか!?
まあ、ケツバットをしたくなる、その気持ちは理解できるけどさ。
「それに関してですけど、個人的に気に入らないとか虫の居所が悪いからといって、私的制裁をする上官や教官は更迭するべきです」
「つまりそれは、精神注入棒を私的に振り回しているということかね?」
「そうです。私の前世の歴史で、昭和18年に陸奥が柱島沖で爆沈したのも、上官であった下士官の私的制裁に対する復讐として、皆を道連れに弾薬庫で自爆した可能性も否定できないのですよ」
「なんたることだ…… 陸奥が戦わずに自軍の兵の復讐によって沈むとは……」
本当はその自爆した水兵が、私的制裁された仕返しの嫌がらせで下士官の物品を盗んだはいいけど、それがバレて、査問委員会に掛けられそうになったのを悲観して自爆した。これが正解なのかも知れないけど。
まあ、この程度であれば、些細な違いでしたか。
「鬼の山城、地獄の金剛、音に聞こえた蛇の長門。なんて歌が流行るぐらいには、訓練を通り越した私的制裁がまかり通っていたようですね」
「その戯れ歌は聞いたことがある。しかし、ただ単に訓練が厳しいだけではなかったのか?」
「戦艦や空母などの大型艦ほど、陰湿なイジメも多かったようですね。ほら、昔から謎の爆沈がチラホラとありましたでしょ?」
謎の爆沈の全部とまでは言いませんけど、そのうちの何件かは扱きの名を借りた私的制裁に悲観して、自殺するのに道連れで巻き込んだ自爆なんでしょうね。
つまり、日本人は昔から、パワハラ、モラハラが大好きだったのです!
日本人って権威主義が好きな人が多いから、自分が上位者になったら目下の者に対して、これぐらいならしても許されると勘違いしちゃうのでしょうね。
その自分勝手な行いが、どれだけ組織に不利益を齎しているのかまで、そこまでは考えが及ばないのでしょう。
スマートな人は言葉で教え諭すのですよ。
まあ、私もこの時代の頭の固い軍人には、精神注入棒を叩き込んで根性を鍛え直したくなる衝動に駆られましたけど。
なるほど、これが負の連鎖というヤツなのかも知れません。
「むむむ…… 一体全体、海軍は何をやっておるのだ!」
「海軍は陸軍と違って、戦場で後ろから流れ弾が飛んできませんから」
「つまり、陸軍では私的制裁をすると後ろから撃たれる可能性があるから、上官は部下に優しいと?」
「訓練や規則には厳しいと思いますけど、私情で体罰を加えるとかは海軍よりも少ないのでしょうね」
あと、海軍の場合は、船の上で逃げ場がないから、余計に調子に乗って体罰を加えているのかも知れません。
まあ、潜水艦や駆逐艦の場合は、少人数ですので、みんなで協力しなければ撃沈されたりもするので、わりかしアットホームな職場だったみたいですけど。
潜水艦なんて、みんなで一緒の棺桶に入っているも同然ですしね。だから、軋轢を生まないようにと自然に仲良く振る舞うようになるのでしょう。
「僕が想像していた陸軍と海軍の立場がまるで正反対だよ」
「陛下の赤子と言っている割には、兵の扱いがぞんざいなようで」
「それ、前にも聞いたよ……」
酔っ払いと年寄りは同じことを繰り返し言うのですよ。
まあ、私の場合は歴史を知っているから、爺やみたいなモノでしょうか?
「しかし、アメリカとの戦争が始まった以上、大切な兵を上官の私情で使い物にならなくするのは、間違いなく利敵行為です」
といいますか、とっくの昔に支那とは戦争中ですので、過去四年間に行った私的制裁は、その全てが利敵行為でしたね。
大日本帝国海軍は、随分と余裕がおありのようです。
まあ、支那との戦争は陸軍が主役なのだから、遊んでいられるのかも知れませんが。
「違いない。やらかした連中を片っ端から懲罰部隊に放り込むかい?」
「そうですね。それがいいと思います。水兵に匿名で告発してもらいましょう」
私的制裁をする輩は降格させ、懲罰部隊行きで最前線で死んでもらったほうが、部下や学生を虐めるよりもまだ少しはお国の為に役に立ちますしね。
ついでに、イジメられていた水兵は、海上護衛総隊に転属させてあげましょう。
うん、我ながら名案に思えてきましたよ。
今週も日火木土で投稿予定です。来週からは未定…




