第10話 オンラインの顔合わせと、届いたかまどのワクワク感
ある日の夜、我が家のリビングルームは、いつもとは少し違う賑やかな空気に包まれていた。
テーブルの中央に立てかけられたスマホには、画面越しに『星空トーク会・キャンプ部』のメンバーたちの顔がずらりと並んでいる。
そう、今回のメインイベントは、僕の妹である七柰が、新しく『星キャン』のメンバーたちとLINEのビデオ通話で顔合わせをするという一大行事だった。
「こんばんわー! 奏多お兄ちゃんの妹の七柰です。よろしくお願いしまーす!」
画面の向こうに向かって、七柰は少しだけ緊張の色を隠しながらも、精一杯の元気な笑顔で手を振った。
すると、画面の向こうからパッと華やかな声が一斉に返ってくる。
「よろしくね! 私は宇都宮姫子だよ。『姫さん』って呼んでね」
とびきりの笑顔で手を振り返してくれたのは、お馴染みの宇都宮さんだ。その隣では、知的な雰囲気をまとった桐嶋さんが穏やかに微笑んでいる。
「私は桐嶋咲よ。よろしく」
「永澤夢乃です。よろしくお願いしますね」
パステルカラーの部屋着に身を包んだ永澤さんが、丁寧にお辞儀をする。さらに、少し引き気味のポジションから、けれど興味深そうに画面を覗き込んでいる艶やかな黒髪の女性が静かに口を開いた。
「更科美怜よ。私も加入したばかりだけどね」
「姫さん、咲さん、夢さん、美怜さんですね。アイコピー。皆さん、聞いていた以上の美人さんですね」
七柰が少しおどけた調子で敬礼ポーズをしてみせると、リビングの空気が一気に和んだ。
「お、七柰ちゃん、わかってるね。よしよし。綺麗なお姉さんが可愛がってあげるよ」
宇都宮さんが画面越しに頭を撫でるような仕草をして笑いを誘う。
「半分は社交辞令よ。それより、次のキャンプの日程はどうする?」
桐嶋さんが実務的なトーンへと切り替え、本題を切り出す。
「今週末でいいんじゃない?」
宇都宮さんが軽いノリで提案するが、僕は思わずスマホの画面に向かって苦言を呈した。
「キャンプしたい気持ちは分かるけど、あまり頻繁に行くと、資金が足りなくなるよ」
「う……そうだよね。交通費がかかるし、美味しいもの食べようとしたら、どうしても値がはっちゃう……」
宇都宮さんは「ぐぬぬ」といった表情で頭を抱える。学生の身にとって、毎週のキャンプは財布へのダメージが大きすぎる現実的な問題だった。
すると、画面の端でじっと考えていた永澤さんが、遠慮がちに手を挙げて意見を述べる。
「じゃあ、来週の土日なんてどうです? 月に一、二回程度であれば、お財布への負担もそれ程かかりませんよ」
「それがいいわね。今週は我慢して来週末に楽しみましょう」
桐嶋さんの賛同もあり、次のキャンプは来週末の土日に正式に決定した。
オンラインの画面越しでの作戦会議がそろそろ終わろうかというその時、七柰は画面の向こうの美人メンバーたちを見渡しながら、期待に胸を膨らませてこう言った。
「綺麗なお姉さんたちとのキャンプ、楽しみです」
その七柰の素直で可愛らしい言葉に、画面の向こうで宇都宮さんはとびきりの笑顔を咲かせ、両手を大きく広げながらこう返した。
「めいっぱい満喫しようね!」
こうして、和やかな雰囲気の中でのオンライン顔合わせは大成功のうちに幕を閉じたのだった。
§
それから数日後の週末土曜の昼下がり。
穏やかな日差しがリビングのカーテンを通り抜けてフローリングを温めていたその時、インターフォンが軽快な音を鳴らした。
ピンポーン。
「はーい」
ソファでくつろいでいた七柰が、パタパタと足音を立てて玄関へと向かう。
しばらくして戻ってきた彼女の手には、大きくてずっしりと重そうな段ボール箱が抱えられていた。
「お兄ちゃん宛になんか大きな荷物が届いたよ」
七柰はふうっと息を吐きながら、リビングの中央にその段ボールをドスンと置いた。
「ああ、届いたのか」
「なに買ったの?」
興味津々な目を向けながら、七柰が箱の上部に貼られたガムテープを指差す。
「薪グリルだよ。次のキャンプで使おうと思ったんだ」
届いたのは、キャンパーの間でも非常に評価の高い、ユニフレームの薪グリルだった。これまでのオープンな焚き火台とは一味違う、独自のかまど型デザインが特徴の本格派ギアだ。
「ちょっと、それ気になる! 組み立ててみてよ」
「ああ、いいよ」
七柰に促されるまま、僕はカッターナイフを取り出し、慎重に段ボールの封を解いていった。
箱を開けると、中からは丁寧なパンフレットや取扱説明書が顔を出す。それらをよけると、中にはぴったりと収まるように作られた黒い頑丈なキャリーケースが現れた。
ジッパーをシャラリと開け、中のパーツを一つずつ取り出していく。
まずは、底面を支える頑丈な炭受け。
次に、薪を効率よく燃焼させるための厚手のロストル。
そして、鍋やケトルを安定して載せるための重厚なゴトク。
最後に、本体のステンレス表面を傷や汚れから守るための保護用ブルービニールに包まれた、主役の本体パーツが姿を現した。
「うわ、なんかすごく本格的だね! 金属のピカピカした感じが、いかにもキャンプ道具って感じでカッコいい!」
七柰は目を輝かせながら、パーツの周りをぐるりと囲むようにして覗き込む。
「よし、それじゃあ実際に組み立ててみせるから、見てなさい」
僕は取扱説明書を横目に置きながら、組み立てのプロセスを開始した。
まずは、折りたたまれていたステンレス製の本体と灰受けをカチッと音を立てて合体させる。本体の側面に開いた窓から、絶妙な角度で風が通り抜ける設計になっているのが一目でわかる。
続いて、底面に頑丈なロストルをしっかりとセットする。薪から落ちる灰を受け止めつつ、下の空間から空気を送り込むための重要な心臓部だ。
そして最後に、上部に重厚なゴトクをガッチリとはめ込んだら、すべての組み立てが完了した。
目の前に現れたのは、まるで小さな要塞のような、美しくも無骨なステンレス製のかまどだった。
「わあ……すごい。なんだか、変わった形してるね。これが、かまどってやつ?」
「そう。普通の焚き火台と違って、横向きに大きな開口部があるんだよ。ここから薪をくべやすくて、しかも火力の調節もしやすい。おまけに、この上で料理もできちゃう優れものなのさ」
七柰は感心したように、完成した薪グリルをじっと見つめながら呟いた。
「変わった形してるね。それで薪を燃やすんだ……。これでどんなことするの?」
「キャンプではこれで焚き火してお湯を沸かしてコーヒー淹れてやるよ。もちろん、みんなで食べる料理の調理にも大活躍間違いなしだ」
僕が自信満々にそう答えると、七柰は満足そうに小さくうなずいた。
「それじゃあ、楽しみにしておくよ。次のキャンプ、私もこのグリルで焚き火するのすっごく楽しみになってきた!」
リビングの窓から差し込む初夏の光の中で、新しくキャンプの仲間に加わった相棒のステンレスは、まるで次のキャンプの舞台を待ちわびるかのように、静かに輝きを放っていた。




