第48話 青の洞窟と切り立つ断崖、山陰ジオパークの神秘を巡る海上大冒険
気比の浜キャンプ場での清々しい朝食とスムーズな撤収作業を終えた一行を乗せた車列は、午前十時の明るい日差しを受けながら、山陰海岸ジオパークの壮大な絶景が待ち受ける香美町・香住港へと向かって走っていた。
車窓の景色は、昨夜の穏やかな温泉街や松林の海岸線から徐々にダイナミックなリアス式海岸へと姿を変えていく。幾重にも重なる岬の向こう側には、どこまでも深く澄み切った日本海の青さが広がっている。
「うわあ……! 見て見て、あの海の色の青さ! 昨日も綺麗だったけど、今日の海の青さは透き通っててエメラルドグリーンみたいにキラキラしてるよ!」
助手席の窓から外を眺めながら、七柰が後ろの座席を振り返って嬉しそうに声を弾ませる。
後部座席でシートベルトをキュッと締め直しながら、美波が大きくうなずいた。
「本当ね。山陰海岸ジオパークって、何万年もの時間をかけて日本海の荒波が作り上げた奇跡の地形なんだって。今日のメインイベント、本当に楽しみだわ」
車はスムーズに香住港の遊覧船乗り場へと到着した。整備された駐車場に車を停め、全員が外へと降り立つと、潮風に乗ってほんのりと磯の香りが鼻腔をくすぐる。港のすぐ傍には、本日の主役である香住海岸の遊覧船が堂々と停泊しており、青い海原を背景に白く美しいボディが映えていた。
「わぁ……! あの遊覧船、想像してたよりすごく大きくて立派っすね! あんな船に乗って海から洞窟めぐりをするなんて、めっちゃワクワクするっす!」
茅野さんが期待に胸を膨らませながら目を輝かせる。
「ほんまやなぁ! 海の秘境みたいな場所を船から見られるんやろ? めちゃくちゃテンション上がるわぁ!」
菱川さんも関西弁のアクセントを全開に響かせながら、軽快な足取りで桟橋へと歩き出す。
船のタラップ付近では、チケットを手にした姫子さんが待っており、全員に声をかけた。
「皆、準備はいい? ここからは、山陰ジオパークが誇る圧倒的な絶景スポット、『香住海岸の洞窟めぐり遊覧船』に乗船するよ! シュノーケリングの代わりに、船上から海底の魚や透き通る青の世界をじっくり観察できるから、しっかり楽しんでいってね!」
姫子さんの合図に合わせ、一行はワクワクとした足取りで遊覧船へと乗り込んでいった。
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遊覧船が静かにエンジンを響かせ、香住港の防波堤をゆっくりと離れて沖合へと動き出す。
甲板を撫でる潮風が心地よく、メンバーたちの髪を優しく揺らしていた。
船が少しずつ外洋へと進むにつれて、目の前に広がる景色は、陸上から見るそれとは全く異なる、息を呑むような大迫力のパノラマへと変わっていった。
「わあぁぁ……! すごい、すごーい!! 見て、あのそそり立つような崖の高さ! まるで壁みたいに垂直に切り立ってるよ!」
七柰が船の柵に両手をかけ、身を乗り出すようにして海側の景色を指さす。
そこにあったのは、荒波の侵食によって削り取られた巨大な断崖絶壁や、気の遠くなるような年月を感じさせる幾重もの地層の模様だった。黒や赤褐色の岩肌が太陽の光を浴びて、まるで人間の手では到底作り出せない巨大な彫刻アートのように重厚な輝きを放っている。
「本当に……言葉を失うほどの迫力だわ。地球の息吹っていうか、自然の生み出したパワーをダイレクトに感じるスケールね」
美怜さんがその景色をじっと見つめながら、感嘆のため息を漏らす。
少し離れたデッキの特等席では、正樹叔父さんと叶姉さんが並んで海の風を感じていた。
「いやあ、素晴らしい眺めだな。海から見上げるジオパークの断崖は、陸から見る景色とはまた一味も二味も違う。まさに自然の要塞といった趣きだ」
「うん、本当に。何万年という途方もない時間をかけて波と風が削り上げた芸術品だね。こうして皆と一緒にその美しさを共有できることが、何よりも幸せだよ」
叶姉さんが微笑みながら、麦わら帽子のツルをそっと押さえる。
「ねえねえ、見てくださいっす! あの崖の中腹、松の木が一本だけめちゃくちゃ力強く生えてますっすよ! あんな険しい岩肌なのに、命の力ってすごいっすね……!」
茅野さんがカメラのファインダーを覗き込みながら、険しい岩の隙間に根を張る青々とした松の木を激写する。
菱川さんも「ほんまやなぁ! 厳しい環境だからこそ、余計に力強く生きとる感じがして胸にグッとくるものがあるわ……!」と大きくうなずいた。
船が進むにつれて、岩礁の形は次々とユニークな姿に変形していく。ローソクのような形をした岩や、動物の横顔に似た奇岩が次々と現れ、そのたびに甲板からは歓声とシャッター音が途切れることなく響き渡っていた。
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遊覧船はさらに海岸線の奥深くへと進み、いよいよ本日のハイライトである海蝕洞、通称・山陰の青の洞窟と呼ばれる神秘的なスポットへと差し掛かった。
岩肌にぽっかりと開いた巨大な洞窟の口へと、船がゆっくりと慎重に滑り込んでいく。外の明るい陽射しが急に遮られ、洞窟の内部はひんやりとした神秘的な空気と、まるで異世界に迷い込んだかのような深い青色の世界へと包まれた。
「うわっ……! 急に暗くなって、それに海の底が……海の底がめちゃくちゃ青く光ってるよ……!」
七柰が息を飲んで船の縁にしゃがみ込み、海面をのぞき込む。
その言葉通り、水深数メートルあるはずの海底が、洞窟の隙間から差し込む太陽光の反射によって、鮮やかなコバルトブルー、あるいは透き通ったインディゴブルーに発光しているかのようにくっきりと見えているのだ。
「すごいですぅ……! 水が透き通るどころか、光を吸い込んで青く輝いてるみたい……。あ、見てください! あの海底のあたりを、銀色に光る小さな魚の群れがスイスイ泳いでますよ……!」
涼花さんがパッと目を輝かせ、感動したように両手を胸元で合わせる。
船の透明な底窓や、船上から覗き込む海面を泳ぐ魚たちの姿は、まるでシュノーケリングをしているかのようにクリアに観察できた。波のない穏やかな洞窟の内部だからこそ、海の透明度がより一層際立っている。
「本当だね……! シュノーケリングで海中に潜らなくても、こんな間近で魚たちの泳ぐ姿や海底のジオグラフィックな岩肌が観察できるなんて、最高すぎるよ」
美波さんが感心したように目を細め、静かに海の青さを堪能している。
美怜さんもスマホでその幻想的な景色を撮影しながら、「光の反射加減が絶妙ね。山陰海岸ジオパークの隠された宝物って感じだわ」と微笑んだ。
「いやぁ、ここはマジでヤバいっすね……! 暗い洞窟の中にこの青い光のグラデーション、そしてその中を優雅に泳ぐ魚たち……。映画のワンシーンみたいで、シャッターを切る手が止まらないっす!」
茅野さんが興奮気味にスマホで連写のシャッター音を響かせ、菱川さんも「ほんまに、言葉が出ぇへんくらい綺麗やなぁ……。ずっとこの景色の中に浸っていたくなるわ……!」としみじみと呟いた。
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神秘的な青の洞窟をゆっくりと抜け出した遊覧船は、再び開放的な外海へと戻ってきた。
潮風がふわりと頬をなで、先ほどまでのひんやりとした洞窟の空気から一転して、太陽の温かな温もりが心地よく体を包み込む。
「ふぅ……! 洞窟の中は神秘的ですっごく綺麗だったけど、こうしてまた明るい海に出ると、なんだかホッとするね!」
七柰が両手を大きく上に伸ばして伸びをしながら、満面の笑みを浮かべる。
姫子さんは満足そうにうなずきながら、メンバーたちの様子を見回した。
「皆、香住海岸の絶壁と青の洞窟はどうだった? 陸からは絶対に見られない、この海上からの景色こそ、山陰ジオパークの真骨頂なの!」
「大満足です、姫子さん! 最高すぎて、語彙力がなくなっちゃうくらい感動しました!」
七柰の言葉に、全員が力強くうなずく。
少し離れた場所では、正樹叔父さんと叶姉さんがスタッフから借りた温かいお茶を受け取り、若者たちに手渡してくれていた。
「さぞ冷えたことだろう。温かいお茶を飲んで、少し一息つきなさい」
「ありがとうございますっす! 海風に吹かれながら飲むお茶、めちゃくちゃ染みるっす!」
茅野さんが嬉しそうにお茶を受け取り、一口飲んで「はぁ〜、生き返るっす……!」と幸せそうな表情を浮かべる。
甲板のあちこちで、先ほどの青の洞窟で撮影した写真を見せ合いっこしたり、「あそこの岩がすごかったよね」「あの魚の種類は何だったんだろ」と賑やかな会話の花が咲く。
自然の圧倒的なスケールと美しさに触れたことで、メンバーたちの絆はさらに深く、温かいものになっていた。
遊覧船は穏やかな波を切り裂きながら、ゆっくりと香住港の桟橋へと帰還していく。
船体が岸壁にピタリと着岸し、タラップが架けられると、一行はそれぞれの胸に忘れられない海の記憶を刻み込みながら、次なる午後のもの作り体験へと向かうために、再びキャブコンとミニバンへと乗り込んでいくのだった。




