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第42話 夕日ヶ浦温泉の湯煙と、ほおずきの灯火が包む夜のキャンプサイト


 Hygge BASEでの贅沢すぎる夕食をすっかり平らげ、心地よい満腹感と幸福感に包まれた僕たちのキャンプサイト。


 けれど、京丹後の夜の楽しみは、まだまだここで終わらない。


 キャンプ場の周辺には、日本海を望む極上の温泉施設がある。旅の初日の締めくくりとして、全員で車に分乗し、車ですぐのところにある有名な温泉施設『夕日ヶ浦温泉 花ゆうみ』へと向かうことになった。


「ふぅ〜、お腹いっぱい食べた後の温泉なんて、文字通り極楽浄土への片道切符ですね……!」


 ミニバンの後部座席で涼花さんがお腹をポンポンと叩きながら幸せそうな声を上げ、運転席の叶姉さんんも「いやぁ、今日の温泉は一日の疲れが一気に吹き飛ぶ最高のデザートだね」と目を細める。


 七柰や美怜さん、美波さんたちも「温泉、楽しみですね!」「露天風呂から星が見えるかしら?」と、まるで遠足の前日のようなはしゃぎっぷりで盛り上がっていた。


 数分後、車は広々とした『花ゆうみ』の駐車場に滑らかに到着した。


 館内に足を踏み入れると、ほんのりと漂う温泉特有の硫黄と木々の香りが、私たちを優しく出迎えてくれる。


 受付を済ませ、男湯と女湯の暖簾を前にして、男女それぞれのグループへと分かれた。


「それじゃあ、上がったらロビーで待ち合わせね」


 美怜さんの声に頷き、僕は正樹叔父さんと一緒に男湯の暖簾をくぐった。


 脱衣所で服を脱ぎ、湯気が立ち込める大浴場へ足を踏み入れると、一日の自転車移動や設営の疲れを吹き飛ばしてくれるような、広々とした内湯と開放的な露天風呂が広がっていた。


 お湯は肌触りの滑らかな美肌の湯として知られており、足を浸した瞬間にじんわりと体の芯から温まっていくのがわかる。露天風呂の縁に腰掛け、夜風に吹かれながら夜空を見上げると、旅の初日の緊張や疲れがスーッと溶けていくようだった。


「いやぁ、奏多、最高だな。まさか初日からこんな素晴らしい温泉に入れるとは思いもしなかったよ」


「本当ですね、正樹叔父さん。みんなと一緒にこうして来られて、本当に良かったです」


 湯船の中で正樹叔父さんとそんな言葉を交わしながら、心地よいお湯の温もりに浸る贅沢な時間を満喫した。



   §



 温泉で心身ともにすっきりとリフレッシュされた僕たちは、ぽかぽかと温まった体を夜風に心地よく冷やされながら、再びHygge BASEのキャンプサイトへと戻ってきた。


 女性陣も、皆一様に頬をほんのり赤く染め、

さっぱりとした晴れやかな表情をしている。


 キャンプ場の夜はすっかり深く更け、周囲のサイトの灯りがポツポツと暖かく瞬いていた。


 僕たちのサイトに戻ると、昼間に設営したテントやタープ、薪火の残り火が、夜の闇の中でひっそりと佇んでいた。


「ふう、生き返ったぁ……! 温泉の後の夜風って、どうしてこんなに気持ちいいんだろうね!」


 姫子さんが両手で自分の頬をパタパタと仰ぎながら、チェアに深く腰掛ける。


 その時、ふと辺りを優しく温かい光で包み込むアイテムを取り出したのは七柰だった。


「皆さん、ちょっと暗くなってきたから、これ点けますね!」


 七柰が嬉しそうに取り出したのは、スノーピークの人気LEDランタン『ほおずき』だった。


 スイッチを入れると、まるで本物の蝋燭の炎のように、ゆらゆらと揺らめく温かみのあるオレンジ色の光が周囲にフワッと広がる。その灯りは、冷たい無機質な人工の光とは違い、まるでキャンプサイト全体を優しい包容力で包み込むような、どこかノスタルジックで安心感のある輝きを放っていた。


「わあ……綺麗……。このランタン、まるで本当の灯籠みたいに優しい光ですね」


 涼花ちゃんがほおずきの光をまじまじと見つめながら、うっとりと息を漏らす。


「ですよね? これ、風に揺れると光がゆらゆら揺れる機能もついてるんですよ。夜のキャンプにぴったりの相棒なんです!」


 七柰が自慢げに胸を張り、ほおずきをタープのメインポールにしっかりと吊るすと、その下の一帯がなんともロマンチックで居心地の良い空間へと生まれ変わった。


 ほおずきの優しい灯りに照らされたキャンプサイトの一角。


「ねえねえ、まだ寝るには少し早いし、みんなでタブレット囲んで動画でも観ない?」


 姫子さんのその提案に、「いいねぇ、何観る?」と一斉に賛同の声が上がる。


 僕たちは、正樹叔父さんの大型キャブコンの広々としたダイネットのソファにゆったりと腰掛けたり、その周辺にチェアを寄せ合ったりして、小さな映画館のような空間を作り上げた。


 用意したタブレットには、みんなであらかじめダウンロードしておいた人気の映画や、旅の途中で撮影したドキュメンタリー風の映像、そして今日琴引浜で撮影したばかりのはしゃぐ姿やハンガーノック事件の面白写真などが次々と映し出される。


「うわっ、待って待って! 私のその顔、めっちゃ白目向いてるやん! 消して消してーーっ!」


 菱川さんが自分のスマホやタブレット画面に映し出された砂浜での瀕死の姿を見て、顔を真っ赤にしてジタバタと暴れ、茅野さんに「自業自得の証拠写真なんだから永久保存版っすよ!」とツッコミを入れられて、一同は大爆笑の渦に包まれる。


 映像が静かな感動的なロードムービーに切り替わると、車内やタープの下はパッと静まり返り、それぞれの胸に今日一日の出来事が鮮やかに蘇ってきた。


 見知らぬ土地で偶然出会い、同じ大学に通っているという奇跡を知り、こうして大所帯の仲間として同じ星空の下で笑い合っている。その現実が、なんだか夢のようであり、同時に最高に愛おしい時間に感じられた。


「こうやってみんなで画面を囲んで笑ってる時間って、なんか本当に青春って感じがしていいよね……」


 美波さんがマグカップのハーブティーを一口含みながら、しみじみと呟く。


 美怜さんも優しくうなずきながら、「ええ、本当にね。一人旅じゃ絶対に味わえない温かさが、この旅には詰まっているわ」と同意した。


 動画鑑賞で盛り上がった後、少し夜更けの静けさが戻ってきた頃。


 タープの心地よい影と、ほおずきの優しい灯りが届く特等席に設置されたハンモックでは、夢乃さんがゆらゆらと穏やかに体を揺らしながらくつろいでいた。


「夢乃さん、ハンモックの寝心地はどう? 落ちたりしない?」


 僕が声をかけると、夢乃さんはふわりと柔らかい笑みを浮かべて首を横に振った。


「うん、すごく快適ですよ……。この自立式スタンドがしっかりしてるから安定感抜群だし、何より夜風が直接肌を撫でて、まるで空中に浮かんでるみたいな気分になれるんです。ほら、奏多君も少し乗ってみますか?」


「え、僕が乗ったらさすがにギシッと言いそうじゃない?」


「ふふ、そんなことないですよ。ほら、おいでくださいよ」


 夢乃さんに促され、おそるおそるハンモックの端に腰掛けてみると、想像以上に体が包み込まれるような心地よいフィット感があり、そのままふわりと体が浮き上がる。


「わぁ……本当だ、これすごく落ち着くね……」


 上を見上げれば、木々の隙間から京丹後の満天の星空が瞬いていて、時間を忘れてずっとこうしていたくなるような、最高の贅沢な静寂がそこにあった。


 ほおずきの灯りのもとで、咲さんはヘリノックスのロッキングチェアに揺られながら本を読み、七柰と涼花さんは今日買ったお土産の確認や明日のルートの相談を楽しそうに続けている。


 それぞれのメンバーが、それぞれのペースでこの夜のキャンプライフを心から満喫していた。



   §



 時計の針が夜の十一時を回る頃、キャンプ場全体が深い静寂に包まれ、消灯時間が近づいてきた。


 心地よい疲労感と、明日への期待感に胸を膨らませながら、僕たちはそろそろ就寝の準備を始めることにした。


「それじゃあ、みんな、今日は一日本当にお疲れ様でした! 明日も早いから、しっかり体を休めようね」


 姫子さんの声掛けを合図に、それぞれの寝床へと移動が始まる。


 美波さんが用意してくれた三人用のドームテントには、美波さん、美怜さんが入り、ふかふかのダウンシュラフに潜り込む。


 女性陣のテントでも、それぞれのグループがシュラフの心地よさに包まれながら、今日一日の楽しかった出来事を小声で振り返りながら眠りについていく。


「それじゃあ、更紗ちゃんと京子ちゃんは、こちらのキャブコンのベッドスペースをどうぞ! 布団もふかふかだから、ぐっすり眠れるよ」


 正樹叔父さんがキャブコンの内部を整えながら二人を招き入れる。


「わぁ、キャンピングカーの中、秘密基地みたいですっごくワクワクするっす! 正樹さん、おやすみなさい!」


 茅野さんが丁寧にお辞儀をして、菱川さんも「今日は本当に一生忘れられない一日やったわ……! 皆、おやすみなさい!」と元気に挨拶をして乗り込んでいった。


 僕も自分のテントに落ち着き、小さなランタンの灯りをそっと消す。


 外からは、日本海の穏やかな波の音が、まるで私たちの睡眠を子守唄のように優しく奏で続けている。


 ほおずきの灯りがそっと消えたHygge BASEの夜空の下で、総勢十二人の大所帯キャンプ隊は、それぞれの胸に温かな絆と最高の思い出を抱きながら、深い眠りへと落ちていくのだった。






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