第41話 Hygge BASEの夜空の下、十二人の大所帯キャンプと極上のディナー
道の駅で新鮮なサザエやイカ、地元の野菜をこれでもかと買い込んだ僕たちの車列は、夕暮れが少しずつ迫る空の下、京丹後市の豊かな自然に包まれた「Hygge BASE京丹後」オートキャンプ場兼RVパークへと到着した。
夕日ヶ浦温泉からも車でアクセスしやすいこの場所は、キャンピングカーや大型車での利用を想定して作られており、各区画サイトに車をそのまま横付けして乗り入れができるうえ、電源なども完備されているというキャンパーにとって夢のような環境だ。綺麗に手入れされた青々とした芝生の区画サイトがどこまでも広がり、遠くには静かな日本海の潮騒が心地よく響いてくる。
「わぁ……! ここ、すごくお洒落で綺麗なキャンプ場やね! しかも芝生がフカフカしてるわ!」
キャブコンの助手席から飛び降りた菱川さんが、両手を広げて深呼吸しながらパッと笑顔を咲かせる。
隣に降り立った茅野さんも「本当っすね。北欧風の落ち着いた雰囲気があって、なんだか別荘地みたいっす!」と感嘆の声を漏らした。
僕たちはさっそく、正樹叔父さんの運転する大型キャブコンと、叶姉さんの運転するミニバンをそれぞれの区画サイトにスムーズに横付けし、総勢十二人による本格的なキャンプサイトの設営に取り掛かった。
「それじゃあ、みんな手分けしてテキパキいこうか!」
正樹叔父さんの頼もしい掛け声を合図に、それぞれの自慢のギアが次々と披露されていく。
まずは、美波さんが「美怜とゆっくり休めるようにね」と用意した三人用のスタイリッシュなドームテントが手際よく組み立てられる。その中には、ひんやりとした夜の冷気を完全にシャットアウトしてくれる極上のダウンシュラフがふんわりと広げられ、見ているだけで安心感が漂う。
続いて、咲さんが取り出したのは、彼女のこだわりが詰まった自慢のチェアだ。
「やっぱりキャンプは座り心地が一番大事だからね」と微笑みながら組み立てたのは、抜群の軽さとコンパクトさを誇るヘリノックスの『チェアワン ホーム』。さらに、その脚の先端に三日月型の『ロッキングフット』をカチッと装着する。これにより、ただの軽量チェアが一瞬にして極上の揺りかごのようなロッキングチェアへと早変わりするカスタム仕様だ。
「わ、ちょっと座らせてください……うわ、なにこれ、すごくユラユラして気持ちいい……! そのまま眠れちゃいそうですよ、咲さん!」
さっそく腰掛けた七柰が心地よさに目を細めると、咲さんは「でしょ? これがあるだけでキャンプの夜の癒やし度が何倍にも跳ね上がるのよ」と満足そうに胸を張った。
その隣では、僕が持ってきた広めのユニフレームのスクエアタープをみんなの協力のもとでしっかりとペグダウンして張り上げ、その下に焚き火の準備を兼ねた薪グリルを据え付ける。
さらに、夢乃さんが「私、これ持ってきたの!」と嬉しそうに取り出したのは、専用の自立式スタンドを使ってどこにでも設置できるビブレの『自立式ダブルハンモック』だった。
「わぁ、ハンモックだ! 乗ってもいいんですか、夢乃さん?」と涼花さんがパッと目を輝かせると、夢乃さんは「もちろん、どうぞ! タープの心地よい影の下に設置したから、風が通り抜けて最高に気持ちいい特等席ですよ」と優しく微笑み、みんなで代わる代わるゆらゆらと揺られては楽しげな歓声を上げた。
そして、涼花ちゃんが取り出したのは、スノーピークの『極チタンパーソナルクッカーセット』と『ダブルウォールマグ』。
「私、これでお湯を沸かしたり、スープの温めをお手伝いしますね……!」
と、チタン特有の美しいシルバーの質感をピカピカと光らせながら、手際よく調理の準備を整えていく。
こうして、車の横付けされた広々とした芝生サイトに、それぞれの個性が光るテントやタープ、チェアやハンモックが見事に配置され、あっという間に居心地抜群の『僕たちの特設キャンプ村』が完成したのだった。
すっかり辺りの空気が夕暮れの茜色に染まり始める頃、キャンプ場の夜を最高潮に盛り上げるための大ディナー大会の幕が開けようとしていた。
今日のメニューは、道の駅で調達した極上の日本海の海の幸と新鮮な肉類をふんだんに使った、文字通り豪華絢爛なキャンプ料理の数々だ。
でも、ここで一つ大きな問題があった。そう、総勢十二人という大所帯の胃袋を、一つの鍋やスキレットだけで一度に満たすのは、物理的にどうあがいても容量オーバーになってしまうのだ。
けれども、僕たちは知恵を絞り、むしろそれをキャンプならではのライブ感溢れるイベントに変えてしまうことにしていた。
「それじゃあ、メインのダッチオーブン料理と、スキレットを使ったチャウダー、サザエのバター焼きにイカグリル、そしてデザートの焼き上げまで、みんなで順番に、かつ同時並行で進めていきましょう!」
美怜さんの的確な指示のもと、調理のスターティングメンバーがそれぞれの持ち場へと散らばった。
まずメインの調理を担当するのは、エネルギッシュなオレンジ色のビキニにエプロンを重ね着した姫子さんだ。彼女が愛用しているのは、ロッジの10インチ・スキレット付きダッチオーブン。
さすがに12人分の魚一尾や大量の貝類、夏野菜を一度にこの10インチの鍋に詰め込むことはできないため、私たちはあらかじめ決めていた2回戦方式で挑むことにした。
「よし、まずは第1回戦のメンバーのお腹を満たす最高のアクアパッツァを作るよー!」
姫子さんは気合十分な声を上げ、ダッチオーブンの底にたっぷりのオリーブオイルと潰したニンニクを投入し、薪火の上でじっくりと熱していく。ジュワッと広がる香ばしいニンニクの香りが、周囲の食欲を容赦なく刺激し始める。
そこへ、道の駅で調達したばかりのピカピカに輝く真鯛の切り身(下味をつけたもの)を投入し、表面をこんがりと香ばしく焼き付けていく。
「わぁ……! もうこの時点で絶対美味しい香りがするわ……!」
近くで見守っていた菱川さんが、お腹を鳴らしながらゴクッと唾を飲み込む。
その周りに、アサリやサザエなどの新鮮な貝類と、赤や黄色のパプリカ、ズッキーニ、完熟のミニトマトといった色鮮やかな夏野菜をゴロゴロと隙間なく詰め込んでいく。そこに白ワインと少量の水を一気に回し入れ、ズシリと重いダッチオーブンの蓋を力強く閉めた。
「あとは上下から炭火と焚き火の熱で、旨味をギュッと閉じ込めて一気に蒸し焼きにするよ!」
数分後、じわじわとスープが沸騰する心地よい音とともに、蓋の隙間からハーブと魚介の芳醇な香りがふわりとあたり一面に立ち込める。
そして、姫子さんが「お待たせしました、オープン!」と掛け声をかけながら蓋を勢いよく持ち上げた瞬間──。
「「「わぁぁーーっ……!!」」」
湯気とともに、魚介の凝縮された旨味とハーブの爽やかな香りが夜空に弾け飛び、一同から盛大な歓声と拍手が巻き起こった。
真っ赤なトマトや黄色のパプリカの彩りの中に、ふっくらと仕上がった真鯛と、口をパカーと開けたアサリやサザエがこれでもかと鎮座している。
「まずは第1回戦の皆さん、熱いうちにどうぞ召し上がれ!」
私たちは銘々の皿に取り分け、ハフハフと言いながら口に運んだ。
「んんん~~っ……! 身がフワフワで、魚介の出汁が野菜に染み込んでてめちゃくちゃ美味しいですっ……!」
涼花ちゃんが両手でほっぺたを押さえながら幸せそうにとろける。
そして、第1回戦の具材をみんなで平らげた後、鍋底に残ったのは魚介の旨味が限界まで溶け出した極上の黄金スープだ。
「ここからが真骨頂だよ!」
と、姫子さんがすかさずご飯とたっぷりのチーズをそのスープに投入する。
グツグツと煮立たせてチーズをトロトロに溶かした『濃厚シーフードリゾット』の完成だ。
これを食べた七柰や茅野さんは「おいしすぎて言葉が出ない……!」「これ何杯でも食べられるっす!」と、あまりの美味しさにスプーンが止まらなくなっていた。
もちろん、この後すぐに第2回戦の調理がスタートし、12人全員のお腹がしっかりと満たされていったのは言うまでもない。
メインのダッチオーブンが熱気を帯びる傍らで、美怜さんは自身の愛用ギアであるスノーピークの『TAKIBIサンド スキレット』を巧みに操り、極上のスープを仕込んでいた。
12人分のチャウダーを一度に作るには容積が足りないため、こちらはミニ・おかわりスタイルを採用し、まずは美怜さんのスキレットで極上の第1弾を作り、みんなに振る舞うという趣向だ。
「まずは、このスキレットで厚切りにした丹後産のブランドベーコンとタマネギを、じっくりと時間をかけて炒めていくわ。この焦げ目が香ばしい旨味のベースになるのよ」
美怜さんが木べらで丁寧に炒めると、ジュワジュワと香ばしい脂が溶け出し、周囲にたまらない匂いが漂う。
そこに、道の駅で手に入ったばかりの、糖度が抜群に高い生のトウモロコシの身をたっぷりとそぎ落として投入し、さらに旨味を引き出すためにトウモロコシの芯も一緒に並べてじっくりと煮込んでいく。
「トウモロコシって、身だけじゃなくて芯からもすごく甘い出汁が出るのよ。これをスープに染み込ませるのがポイントなの」
美怜さんの料理に対する洗練された手際に、見学していた夢乃さんも「なるほど、さすが美怜さんです……!」と感心しきりだ。
仕上げに、たっぷりの牛乳とバターを加えてまろやかに仕立て、ピリッと黒コショウを効かせたら完成。
美怜さんはあえて深さのあるそのスキレットのまま、熱々の状態でテーブルの真ん中にドンと置いた。
「お待たせ、丹後ベーコンとトウモロコシの濃厚焼きチャウダーよ。温かいうちに各自カップに取り分けてね」
「いただきます……って、うわぁ、トウモロコシの自然な甘みがものすごい……! ベーコンの塩気とバターのコクが完璧にマッチしてて、心の底から温まるよぉ……!」
菱川さんがあまりの美味しさに感涙のポーズをとる。
さらに美怜さんは手を休めることなく、熱々のスキレットにたっぷりのバターとニンニクの微塵切りを投じた。ジュッと弾ける芳醇な香りと共に、地元で仕入れた新鮮なサザエを並べ入れ、磯の香りが引き立つガーリックバター焼きを素早く仕上げていく。
その隣では、下味をつけた肉厚なイカを香ばしく豪快にグリルし、絶妙な焼き色をつけて食欲をそそる一皿へと仕立て上げた。
「サザエのガーリック焼きと、香ばしいイカのグリルもできたわよ。熱いうちに召し上がれ!」
次々とテーブルに並ぶ海の幸の絶品料理に、メンバーたちの歓声が一層高まり、キャンプの食卓はさらに華やかな賑わいを見せていく。
スキレットのままテーブルに置かれたその姿は、まるで大自然の中の隠れ家カフェのようで、アウトドアのお洒落な雰囲気を最高潮に演出してくれていた。
極上のメインとスープで心も体もすっかり満たされた頃、キャンプの夜を締めくくるいよいよイベントの時間軸へと突入した。
デザートに選ばれたのは、『スキレットで焼き上げる、丹後産ブルーベリーと桃のダッチ・ベイビー(ドイツ風パンケーキ)』だ。
ダッチ・ベイビーは、熱したスキレットの底と側面に生地がピタッと張り付くことで、オーブンの中でシュークリームのように外側がボワッと膨らみ、サクッ&モチッとした独自の食感を生み出す魔法のスイーツだ。これも1枚につき2〜3人分が限界のため、今回は姫子さんのLODGEの10インチダッチオーブンと、美怜さんのスキレットをフル稼働させる『ダッチ・ベイビー焼き上げ大会』の開催となった。
「さあ、みんな! ここからはデザート職人としての腕の見せ所だよ! どんどん焼いていくから、トッピングの準備をお願いね!」
姫子さんの掛け声を合図に、キャンプサイトが一気に活気づく。
まず、空焼きして十分に熱したそれぞれのスキレットにバターを放り込み、ジュワッと黄金色に溶かしきる。そこに、あらかじめしっかりと泡立てておいた特製のパンケーキ生地を流し込むと──。
「うわっ、すごい! 一気にフチが盛り上がってきた……!」
七柰が目を丸くして覗き込む中、焚き火の上と蓋の上に炭を置いて上下からしっかり加熱された生地は、まるで生き物のように外側がボワッと香ばしく膨らみ上がっていく。
焼き上がったばかりの、シュー生地のように香ばしく膨らんだアツアツのダッチ・ベイビーをスキレットごとテーブルの真ん中へ。
その熱々の生地の真ん中に、近くの直売所で調達したばかりのみずみずしい桃のスライスと、宝石のように輝く丹後産ブルーベリーをこれでもかと隙間なく並べていく。
「私が粉糖を雪みたいに降らせますね!」
夢乃さんが嬉しそうに白い粉糖をフワフワと振りかけ、最後に仕上げのメープルシロップをトロリと贅沢に回しかけた。
「お待たせしました! 『丹後産ブルーベリーと桃のダッチ・ベイビー』、焼き立て完成です――っ!!」
見た目も華やかすぎる、まるで高級店のデザートのような極上のキャンプ・スイーツが目の前に現れると、十二人の大所帯からは「すごーーい!」「おいしそう……!」と本日一番の黄色い歓声が上がった。
焼き上がった順からみんなでワイワイと切り分け、各自の皿へと配分していく。
「いただきまーす……! んんっ……! 外側がサクサクで、中はモチモチ……! それに焼きたての生地の香ばしさに、甘酸っぱいブルーベリーとジューシーな桃、メープルシロップの甘さが一体になって、口の中が幸せの楽園やぁ……!」
菱川さんが一口食べるごとに両手で体を揺らし、あまりの美味しさに昇天しそうな表情を浮かべる。
茅野さんも「甘いものは別腹って言うけど、これは本当にとんでもない美味しさっすね……!」と夢中でフォークを動かしている。
そうして美味しい料理をすべて平らげて大満足になった後、僕たちはもう一つのお楽しみである温泉に向かうために、車に乗り込んだ。




