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第19話 画面越しの作戦会議と、渓流釣りの大予言


 夜の帳がすっかり下り、それぞれの自宅の自室やリビングが静寂に包まれる時間帯。


 僕たちのスマホやタブレットの画面には、いつものメンバー六人に、更科さんのお姉さんの美波さんが加わったことで新たな広がりを見せた『星キャン』の顔ぶれが映し出されていた。


 LINEのグループビデオ通話は、機能の都合上、同時に画面に映し出せるのは最大で六人まで。そのため、更科美怜さんとお姉さんの美波さんの二人だけは、一つの画面を仲良く二人で覗き込むようにして、カメラの前に並んで座ってくれている。


「皆、こんばんは! 聞こえてるー?」


 宇都宮さんの元気な声が、スマホのスピーカーを通じて響き渡った。


「こんばんは、姫。うん、音声も映像もバッチリクリアに繋がってるわよ」


 桐嶋さんが手元のコーヒーカップを軽く傾けながら、画面の向こうで穏やかに微笑む。

 その隣では永澤さんが「お疲れ様です」と手を振っており、我が家のリビングにいる僕と妹の七柰も、それぞれ画面に向かって挨拶を返した。


 そして何より新鮮だったのは、画面の隅、更科姉妹が並ぶ一枠だ。


「こんばんは。お姉ちゃんもいるよ」


「皆、こんばんは。美怜の姉の美波です。今日はこうやってLINEのグループに混ぜてもらえて、すごく嬉しいよ。これからよろしくお願いね」


 美波さんが柔らかく微笑みながら画面に向かって頭を下げると、七柰が画面を食い入るように見つめながら、大きな目をキラキラと輝かせた。


「あっ、美波さん、こんばんは! 初めまして、奏多お兄ちゃんの妹の七柰です!」


「あぁ、あなたが水守君の妹さんの七柰ちゃんだね。美怜からいつも可愛くてしっかり者の妹だって聞いてるわ。よろしくね、七柰ちゃん」


「よろしくお願いします! あの、お姉さん、さすが美怜さんのお姉さんです! めちゃくちゃすごい美人さんで、『星キャン』のメンバーに美波さんが加わってくれたら、私たちのグループの美女率がさらに跳ね上がっちゃいますよ!」


 七柰が興奮気味に両手を握りしめて絶賛すると、美波さんは「ふふ、そんなに褒められても何も出ないわよ」と嬉しそうに頬を緩ませた。

 更科さんも「もう、七柰ちゃん、お姉ちゃんをそんなに持ち上げないでよ……」と言いつつも、どこか誇らしげな笑みを浮かべている。


 画面越しに和気あいあいとした挨拶が一通り済んだところで、宇都宮さんが両手をパンと軽く叩き、ビデオ通話の空気をピシッと引き締めた。


「さてさて、挨拶も無事に済んだことだし! いよいよ本題、次のキャンプのスケジュール発表にいっちゃうよー!」


 宇都宮さんのその一声に、全員の視線が一斉にスマホやタブレットの画面へと集中した。


「今回のキャンプ地は、この間みんなで話していた京都府北区の『大森リゾートキャンプ場』に決定しましたーっ!」


 宇都宮さんが誇らしげにスマホの画面の向こうでメモ用紙に大きく書いた文字を掲げる。


「そして、今回の宿泊スタイルなんだけど……今回はなんと、テントじゃなくて『コテージ』に泊まりまーす!」


「わぁ、ベッドで寝られるコテージだ!」


 それを聞いた七柰が、パチパチと手を叩いて大喜びした。

 アウトドア初心者の美波さんにとっても、テント泊のハードルがグッと下がるため、安心したように「コテージなら、私みたいな初心者でも本当に心強いわ」とホッとした息をつく。


「そう! アウトドアの醍醐味はしっかり味わいつつ、夜は快適なコテージでみんなでワイワイ過ごすっていう、いいとこ取りのプランだよ。それじゃあ、詳しいスケジュールを順番に発表していくね!」


 宇都宮さんが手元のメモをチラリと見下ろしながら、楽しげに語り始めた。


「まずは『一日目』のスケジュールから! 今回は、何と言っても最大のメインイベントである『渓流釣り』を朝からたっぷりと満喫するために、朝はいつもより少し早起きして、気合を入れて出発します!」


「朝早く、か……。あやべ温泉の時は午後からのキャンプだったけれど、渓流の朝は空気がピリッとしていてさらに気持ちよさそうね」


 桐嶋さんが眼鏡の位置を軽く押し上げながら、想像を膨らませるように呟く。


「そう! 京都駅から西日本JRバスに揺られて約一時間。最寄りのバス停に到着したら、事前に予約しておいたキャンプ場の送迎車にお迎えに来てもらうんだよね。重い荷物を抱えて山道を歩かなくていいなんて、本当に至れり尽くせりだよ」


「バス停からの送迎があるのは、本当に助かりますよね。お父さんの話だと、大森リゾートキャンプ場のまわりはとても自然が豊かで、空気がすごく美味しいらしいですよ」


 永澤さんが自分の知っている情報を付け加える。


「キャンプ場に無事に到着したら、まずは管理棟で受付を済ませて、今回お世話になるコテージに一度大きな荷物を置いてひと息つくよ。そのあと、レンタルショップで渓流釣りの道具一式を借りて、いよいよ今回の目玉である釣り堀へと繰り出すんだ!」


「わあ! ついに渓流釣りですね!」


 七柰が自分の両手をギュッと握りしめてワクワク感を抑えきれない様子を見せる。


「そう! そこで今回の釣りの総監督であり、我が『星キャン』の誇る最強のフィッシングマスター、夢ちゃんにビシバシと指導してもらいながら、綺麗な清流に潜むニジマスをじゃんじゃん釣り上げちゃおうっていう作戦なわけ!」


 宇都宮さんに話を振られた永澤さんは、照れくさそうに頬を掻きながらも、フッと頼もしい笑みを浮かべた。


「あはは、総監督なんて大げさですよ。でも、渓流釣りのコツや竿の動かし方なら、私がちゃんと基本からレクチャーしますからね。みんなでたくさん釣り上げましょう!」


「頼もしいわね、夢さん。でも、釣ったあとの魚の調理とかって、初心者だとうまくできるかしら……?」


 更科さんが少しだけ心配そうなトーンで首を傾げると、宇都宮さんが「そこは安心していいの!」と満面の笑みで答えた。


「それがね、大森リゾートキャンプ場のスタッフさんに聞いたんだけど、釣った魚はスタッフさんがその場で内臓とかの面倒な下処理をしてくれて、さらに塩まで綺麗にまぶして準備してくれるらしいの! だから、私たちは釣る楽しさだけを満喫して、あとは焼くだけの状態で持ち帰れるからめちゃくちゃ楽チンなんだって!」


「へえー、それはすごく親切でありがたいサービスだね。初心者の私でも安心だよ」


 美波さんが感心したように大きくうなずく。


「でね、夜の夕食はもちろん、その昼間に自分たちで釣り上げたばかりの新鮮な川魚を、コテージのテラスに設置したバーベキューコンロで網焼きにして、豪快にかぶりつくっていう寸法よ!」


 宇都宮さんが両手を広げて熱弁すると、画面の向こうの七柰が「想像しただけで、今すぐヨダレが出ちゃいそうです……!」と本気でお腹を押さえた。


「さらにね、夜はただバーベキューをして終わりじゃないんだからね。美味しいご飯でお腹がいっぱいになったあとは、コテージの暖かなリビングで『お楽しみの映画鑑賞会』をやろうと思ってるの!」


「映画鑑賞会……!?」


 今度は桐嶋さんが目をパチクリとさせる。


「そう! 私の方であらかじめタブレットに、みんなでワイワイ観られそうな面白そうな映画のタイトルをいくつかダウンロードしていくからさ。夜更かししながらみんなでポップコーンでもつまみつつ、まったり映画の世界に浸ろうよ!」


 宇都宮さんの次から次へと飛び出す楽しい企画の数々に、ビデオ通話のメンバーのテンションは右肩上がりに跳ね上がっていく。


「そして、『二日目』のスケジュールはこんな感じ!」


 宇都宮さんは息継ぎをする間もなく、二日目のプランへと突入する。


「二日目は、朝からコテージの快適なベッドでゆっくりと目覚めて、朝の爽やかな大自然を眺めながら美味しい朝食を食べて……あとはチェックアウトの時間である午前十時までのんびりまったり過ごして、送迎バスとJRを乗り継いで帰るって感じだね!」


「素晴らしいわ……。一日目に思いっきりアクティビティで体を動かして、夜は映画やバーベキューを楽しんで、二日目は優雅にまったり過ごす。完璧なスケジュール構成ね、姫」


 桐嶋さんが心からの称賛を送ると、宇都宮さんは「でしょでしょ? 私、こういうスケジュールを考えるのに関しては、脳の回転が全開になるんだから!」と得意げに胸を張った。

 

 一通りのスケジュール発表が終わると、画面の向こうの更科さんが、ふと上品に微笑みながら口を開いた。


「スケジュール、すごくよく考えられていて楽しそうね。渓流釣りは、私、人生で一度もやったことがないから、本当に初体験になるわ。うまく釣れるかしら……少しドキドキしちゃう」


「私もだよ。釣り竿なんて子供の頃のザリガニ釣り以来触ったことないかもしれない」


 美波さんが妹の肩に優しく手を置きながら、クスリと笑う。


「そうね、釣果によって当日の夕食の豪華さがリアルに決まっちゃうわけよね。下手したら、魚が全然釣れなくて、ただの寂しい野菜バーベキューになっちゃったりして……?」


 更科さんが少しだけイタズラっぽい冗談めいたトーンで言うと、宇都宮さんが「そんな悲惨な未来は絶対に阻止するよ!」と即座にツッコミを入れた。


「とにかく、美味しいBBQが食べたいです! 私、頑張りますから、みんなで協力していっぱい釣りましょうね!」


 七柰が気合十分といった様子でこぶしを突き上げる。


「ふふ、皆そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。渓流釣りの基本のコツさえしっかり掴めば、初めての人でも驚くほど簡単に釣れるようになるから、私がマンツーマンでしっかりサポートします。安心して任せてください」


 永澤さんが胸をトントンと軽く叩きながら、おっとりとした口調の中にも揺るぎない自信を覗かせる。


 その永澤さんの頼もしい言葉を聞いて、僕は思わずスマホの画面越しに苦笑いを浮かべながらツッコミを入れた。


「その『コツさえ掴めば簡単ですから安心していいですよ』っていう永澤さんの言葉、なんだか巨大なフラグが立っているような気がしてならないんだけど……気のせいかな?」


「あはは、水守君は心配性だなあ。大丈夫だって、私を誰だと思ってるの! 私が皆の期待を背負って、お腹いっぱい食べられるように、ニジマスを大量に釣り上げてみせるからさ!」


 宇都宮さんが自分の胸をドンと力強く叩いて豪語する。


「さすが姫さん! 頼りになりすぎます! 私、姫さんの後ろをついていけば絶対に大漁間違いなしですね!」


 七柰が目を星のように輝かせて宇都宮さんを持ち上げると、宇都宮さんは「ふふん、任せなさいって!」とさらに調子に乗って満面の笑みを浮かべた。


 夜のビデオ通話は、その後も次のキャンプでどんな魚料理のレシピを試そうか、どんな映画をタブレットにダウンロードしておこうかという話題で大いに盛り上がり、時計の針が深夜を回りそうになるまでエンドレスに続いた。






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