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第14話 薪グリルの魔法、極上の煮込みハンバーグと感動の締めパスタ


 あやべ温泉の本館で奇跡的に発見された冷凍ハンバーグパックを大切に抱え、僕たちはようやく自分たちのキャンプサイトへと戻ってきた。


 冷えた空気が包み込む夕暮れの野外には、すでに各サイトから立ち上る焚き火の煙と、美味しそうな料理の香りがほんのりと漂い始めている。


「ふーっ、本当にどうなることかと思ったけれど、無事にハンバーグが戻ってきてくれて本当によかったぁ! もう、二度とエコバッグの底には入れないように気をつけないとね!」


 宇都宮さんは胸をなで下ろしながら、大きく息をつくと、「さあ、気を取り直して、最高の夕食作りに突入するよ!」と、持ち前の明るい笑顔とエネルギーを全開にさせた。


「ここからは、この私が総料理長として、みんなをうっとりさせる最高のディナーを振る舞っちゃうんだから!」


 宇都宮さんは手際よく薪グリルの中に薪をくべ直し、スターターで勢いよく火を点ける。

 パチパチと心地よい音を立てて燃え盛るオレンジ色の炎が、夕闇に包まれ始めたキャンプサイトを温かく照らし出す。

 その安定した熾火の上に、重厚なスキレットと大ぶりのクッカーをしっかりと据え付けた。

 今回のメインディッシュは、先程皆で大騒ぎしながら回収した冷凍ハンバーグを主役に据えた、その名も『薪グリル香る! 煮込みハンバーグ&スキレットディナー』らしい。


「ただ冷凍ハンバーグをそのまま焼くだけじゃ、キャンプのご馳走としてはちょっと物足りないでしょ? ここにはキャンプならではのひと手塩をかけて、極上のメインディッシュに仕上げるんだからね!」


 宇都宮さんが自信満々に宣言しながら、まずは手際よく食材の準備に取り掛かる。


 まな板の上で、薄切りにした玉ねぎとしめじをリズミカルな包丁さばきでカットしていく。隣では、桐嶋さんが手伝うようにカット野菜のサラダを綺麗にボウルに盛り付け、更科さんが焼いたときに香ばしさが引き立つバゲットを程よい厚さにスライスして並べていく。七柰はそんな先輩たちの動きを感心したように見つめながら、お皿やカトラリーの準備をテキパキとこなしている。


 そして、いよいよ調理の核心へと入る。

 温まったスキレットに、冷凍のハンバーグパックから取り出した肉厚なハンバーグを美しく並べる。

 次にその周囲に、先ほど薄切りにした玉ねぎとしめじをたっぷりと散りばめ、市販の濃厚なデミグラスソースにコンソメスープを合わせた特製のスープを惜しみなく注ぎ入れた。


「あとは、この薪グリルの優しい遠赤外線で、じっくりコトコト煮込んでいくんだよ」


 宇都宮さんが専用の蓋をスキレットに被せる。ジュワジュワという心地よい煮込みの音が響き渡り、デミグラスソースの芳醇な香りが周囲の空気にふわりと広がっていく。

 冷凍のまま投入したハンバーグは、じっくりと時間をかけて加熱されることで、旨味を外に逃がさず、中心までふっくらとジューシーな仕上がりになっていくのだ。


「うわあ……すでにすごくいい匂いがしてきました! お腹の虫が鳴きっぱなしです……」


 永澤さんがお腹を押さえながら、たまらなそうにスキレットの蓋を凝視する。


 そうして、煮込みの最終段階。

 蓋をそっと外し、グツグツと泡立つ濃厚なデミグラスソースの上に、たっぷりのスライスチーズを隙間なく一枚ずつ丁寧に並べていく。


 再び蓋を閉めて待つことほんの数分。


「お待たせ! 仕上げのチーズがとろ〜り溶けたら……完成だよ!」


 宇都宮さんが満を持してスキレットの蓋を持ち上げた。

 その瞬間、ぱぁっと湯気が立ち上り、中から現れたのは、黄金色にこんがりと溶けたチーズの海に浸かった、極上の煮込みハンバーグだった。

 香ばしいデミグラスソースの香りと、とろけたチーズのクリーミーなアロマが鼻腔をくすぐり、その場にいた全員が思わず息をのんだ。


「わぁ! すごい、お店の料理みたい……!」

 

 七柰が目を輝かせて両手を合わせる。


 さっそく僕たちは、それぞれのお皿に熱々の煮込みハンバーグを取り分け、香ばしく焼き上げたバゲットと、さっぱりとしたカット野菜のサラダを並べて、温かい晩餐をスタートさせた。


「それじゃあ、みんな、お待たせ! 今日の苦労を吹き飛ばす最高のディナーに、乾杯……じゃなくて、いただきます!」


「「「いただきます!」」」


 七柰が待ちきれない様子でフォークを手に取り、中心からたっぷりとチーズとデミグラスソースをまとったハンバーグを一口サイズに切り分け、フーフーと息を吹きかけてから口へと運んだ。

 瞬間、七柰の瞳が大きく見開き、頬が歓喜に染まる。


「んんーーっ!! 美味しい!! お肉がすっごく柔らかくて、中から肉汁がじゅわーって溢れてくるよ! それに、この濃厚なデミグラスソースとトロトロのチーズが絡み合って……もう最高です、姫さん!」


「ふふん、どうだ参ったか! 私の腕にかかれば、冷凍ハンバーグだってレストランの高級ディナーに早変わりしちゃうんだからね!」


 宇都宮さんが誇らしげに胸を張りながら、自分でも一口パクリと食べて「うん、我ながら天才的な美味さだよ!」とうっとりする。


 桐嶋さんも上品にナイフとフォークを動かし、ハンバーグを口に運んで優しく微笑んだ。


「本当ね。玉ねぎやしめじの甘みがデミグラスソースにしっかり溶け込んでいて、深みのある味わいになっているわ。冷凍だったなんて信じられないクオリティよ」


 永澤さんも「このソース、本当に美味しいです……!」と感動し、更科さんもスライスしたバゲットをそのソースにたっぷりと浸して口に運びながら、うっとりと目を細めた。


「そうね、香ばしく焼いたバゲットをこのソースに浸して食べると、もう止まらなくなっちゃうわね。お肉の旨味を余すことなくバゲットが吸い上げてくれて、本当に素晴らしい組み合わせだわ」


 みんなでワイワイと感想を言い合いながら、あっという間にスキレットのハンバーグやサラダ、バゲットは私たちの胃袋へと消えていった。



   §



 皆が心地よい満腹感に浸り、箸を置こうとしたその瞬間、宇都宮さんが、にやりとしたいたずらっぽい笑みを浮かべた。


「ふっふっふ……。みんな、美味しいハンバーグとバゲットですっかり満足しちゃってるみたいだけどさ……」


 宇都宮さんが片目をウィンクさせながら、テーブルの真ん中を指差す。


「実はね、今回のキャンプディナーは、これで終わりじゃないんだよ!」


「えっ……? まだ何かあるんですか?」


 七柰が目をパチクリとさせると、宇都宮さんは持参していた大きめの袋から、未開封の乾燥パスタと粉チーズ、そして乾燥パセリを取り出した。


「そう! ここからが本当のお楽しみ、ハンバーグを食べたあとの『お楽しみの締めパスタ』の時間だよ!」


 その宣言に、全員の視線が再び一点に集中した。


「なるほど。さっきのハンバーグとバゲットでソースをたっぷり味わったあとの、あのスキレットに少しだけ残った肉汁と極上のデミグラスソースをベースにするってわけだね」


 僕が意図を察して声を上げると、宇都宮さんは「その通り!」と大きく頷いた。


「ハンバーグの旨味がこれでもかと凝縮されたあのソースを、ただ洗い流しちゃうなんて絶対にありえないでしょ? あのソースにパスタを投入して、すべてを余すことなく吸わせたら、一口食べた瞬間に感動するほどの美味しさになること間違いなしなんだから! お腹の満足感もバッチリだしね!」


 その魅力的な提案に、先ほどまで「もうお腹いっぱいいっぱいだよ〜」と言っていたはずのメンバーたちの目が再びキラリと輝き始めた。


「うそ……そんなの絶対美味しいに決まってるじゃないですか! 私、まだ別腹のスペース余裕であります!」


 七柰が両手を挙げて大賛成すると、更科さんも上品に笑いながら「ふふ、確かに、あの濃厚なデミグラスソースをパスタに絡めたら最高でしょうね。すごく楽しみだわ」と微笑んだ。


 こうして、キャンプディナーの第二幕──『旨味たっぷりデミグラスソースの濃厚パスタ』の調理が盛大にスタートした。


 具体的な調理のポイントと流れを、宇都宮さんが説明しながらテキパキと調理を進めていく。


 まずはソースの活用だ。

 先ほどまでハンバーグが入っていたスキレットには、肉汁と旨味がたっぷりと溶け込んだ濃厚なデミグラスソースが少々とろみを残して残っている。

 そこに、必要に応じて少しだけコンソメスープを足して、ソース全体を優しく伸ばしていく。

 次にパスタを茹でる工程。

 横に置いたクッカーに新鮮な水をたっぷりと注ぎ、薪グリルの炎で勢いよく沸騰させる。  キャンプでの調理時間を短縮し、限られた機材でも手軽に作れるように、今回は茹で時間が短くて済む早茹でタイプのスパゲティを採用していた。クッカーのサイズに綺麗に収まるよう、パスタをあらかじめ半分に折ってからお湯に投入し、アルデンテに茹で上げていく。


 そして一番の見せ場である絡めて仕上げる作業だ。


「よし、パスタの茹で上がりは完璧! 一気に投入するよ!」


 クッカーから引き上げたばかりの熱々のパスタを、旨味が凝縮されたデミグラスソースがフツフツと泡立つスキレットの中へとダイナミックに放り込む。

 宇都宮さんが木べらを両手で使い、パスタとソースを素早く、かつ丁寧に大きく混ぜ合わせていく。

 ぐつぐつと軽快な音を立てながら、パスタがみるみるうちに濃厚なデミグラスソースの色に染まり、旨味をぐんぐん吸い込んでいく。


 最後に、仕上げとして上からたっぷりの粉チーズと鮮やかな緑色の乾燥パセリをパラパラと振りかけた。


「お待たせしました! ハンバーグの肉汁と旨味をすべて吸い尽くした、極上の濃厚デミグラスパスタの完成だよー!」


 宇都宮さんが高々とスキレットを掲げると、その周囲にたまらない香ばしいアロマが再び立ち込めた。


 僕たちはそれぞれのお皿に、その出来立ての濃厚パスタを取り分けていく。ツヤツヤと輝く麺にデミグラスソースとチーズがしっかりと絡みつき、見ているだけで喉が鳴るほどのビジュアルだ。


「それでは、さっそく熱いうちにいただきましょう!」


 七柰がフォークにパスタをクルクルと巻き付け、大きな口を開けて頬張った。

 次の瞬間、七柰は目を見開き、両手で自分の頬を抑えてその場でピョンピョンと飛び跳ねた。


「感動的なまでに美味しい! さっきのハンバーグの旨味が麺の芯まで染み込んでいて、モチモチの食感と一緒に濃厚なコクが口いっぱいに広がるよ! こんなの、キャンプ場で食べられる味のレベルを明らかに超えてるっ!!」


 七柰のあまりの絶賛ぶりに、他のメンバーも負けじとフォークを口に運んだ。


 桐嶋さんは一口食べたあと、眼鏡の奥の瞳を驚きに丸くした。


「……本当だわ。ただの余ったソースの活用どころか、最初からこのパスタをメインにするために作られたかのような完成度の高さよ。パスタの茹で加減も絶妙で、ソースとの絡みが完璧ね」


 永澤さんも「んん〜っ! 美味しい! お腹いっぱいだったはずなのに、この美味しさならいくらでも食べられちゃいます!」と夢中でフォークを動かし、更科さんもその上品な口元に微笑みを浮かべながらうっとりとうなずいた。


「ええ、本当に素晴らしいわね。ハンバーグの贅沢な余韻をそのままパスタという別の形に昇華させるなんて、宇都宮さんの料理のセンスには脱帽だわ。旅の夜にふさわしい、最高の締めくくりね」


 みんなからの惜しみない大絶賛と賞賛の嵐に、宇都宮さんは両手を腰に当てて、照れくさそうに、けれど最高に誇らしげな笑みを浮かべた。


「ふふん、みんなのその顔が見たかったんだよね! キャンプの夜は、美味しく楽しくお腹いっぱいになってこそだもん!」


 バゲットでソースをすくいながら楽しんだ夕食のメインから、すべてを余すことなく吸い尽くした感動の締めパスタに至るまで。


 薪グリルの温かな炎を囲みながら味わったこの特別なディナーは、あやべ温泉キャンプ場での思い出をさらに鮮やかに彩り、僕たちの胸にいつまでも忘れられない温もりとして刻まれていった。


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