(6)「異世界素材と動けない僕」
「狩りに行くぞ。タクロー、お前もついてこい。」
朝食が終わると、トンル兄がそう言った。
待て。狩りとか僕が入ってから初めてだ。
オークとしてやった記憶はあるものの、「琢郎」入りの「タクロー」(ややこしい)では初めてだ。
「タダメシ食えると思ったか?」
追い討ちのジブタル兄。
オークも豚や現世の人間と同じで何でも食う。だから、狩りもする。
戦闘となると、父オークの死を思い出さずにはいられない。正直、怖い。琢郎以前のタクローとして弱い魔物を殺した記憶はあるのだけど、今の僕にはただの知識だ。
「る、留守番じゃダメ?」
「それはハラミがやる。洗濯や掃除もな。」
トンル兄は容赦無い。僕に逃げ場はない。
木の影になって日の当たらない少しじめじめとしたところ。3匹のオークは岩に苔が生す森の一角を歩いていた。
この香りは…僕の平べったい鼻は「美味しいキノコ」に惹かれていた。
癖のある香りだから、人間だったら好き嫌いが分かれるだろうな。
土と苔をどけて、地中からまだ顔をだしていないキノコを僕は掘り当てる。
これが目的出来たのかな?と思っていたのだけど。
「お前は食いしん坊だな。今日はそれじゃないぞ」
ジブタル兄がそう言って水たまりを指さした。
あれ、なんか変だぞ。水たまりの水面が盛り上がってる。
ピョコっと水たまりがはねた。皿に落としたゼリーみたいだ。泥水色なので美味しそうではないけど。
「いいか、こいつは動く瞬間が弱点だ。ネバネバとサラサラの所が分かれる。」
あ、スライムか。豚人「タクロー」の知識が知っていた。止まっている時も動いている時もうかつに攻撃しようとすると、武器にネバネバがくっついて、大変なことになる。顔にでも張り付いたら、窒息するし。まぁ、動きもそんなに早くないし、そっと逃げれば脅威ではない。
プルプルして動く瞬間にこの単細胞生物の核が見える。移動の為に体の濃度を変えている為だ。そこをトンル兄が素早い槍の突きで仕留めた。
「こいつは乾くと固くなる。色々くっつける時に役に立つ。」
スライムは天然接着剤ってわけだ。レンガもくっつくか後で試してみよ。
持ってきたバケツにスライムの亡骸をいれる。
そして、また歩き出す。
木の茂みをジブタル兄が指さす。
赤い複眼が光って見えた。
巨体の割に素早い。跳ねるそいつはいつの間にか僕の後ろに居た。
ヤバイヤバイヤバイ。こいつ大蜘蛛だよ。僕では対処できない。
だが、巨大な蜘蛛をトンル兄がそのスピードで翻弄はじめた。
「タクロー、そこから動くなよ」
トンル兄が僕の周りを超スピードでぐるぐる回り、巨大な蜘蛛=ジャイアントスパイダーがトンル兄に向かい糸を吐き出す。
蜘蛛の糸は、トンル兄を外れ、僕に絡みつく。
「わ、ちょっと、何でこっちに…このままじゃ…」
「いいから動くなよ。」
幸いなことに、直接僕に対して大蜘蛛が攻撃を仕掛けてくる様子はなく、あくまでトンル兄を追いかけ、糸を吐いている。何故か、糸は僕に絡みつくのだけど。
「ジブタル!」
トンル兄が叫ぶと、ジブタル兄が木の上から一直線にジャイアントスパイダーの体に戦斧を振り下ろした。
あっけないぐらい簡単に大蜘蛛は倒された。
ジャイアントスパイダーの糸に絡め取られた僕をジブタル兄が解放してくれた。
ひどいよ、兄ちゃん。僕は糸巻きじゃないよ。
糸巻き巻、糸巻きまき、引い曳いて、とんトン豚---絡まる糸を手で引きながら、思わず口ずさんだ。
「この糸を編むと丈夫なロープになる。ただ蜘蛛を倒しても手に入らないからな。タクローお前がいて助かったぞ。」
そんな感じで、色々持って、ジブタル兄のログハウスまで帰ってきた。
トンル兄は帰るや否や僕に言う。
「タクロー、兄ちゃんは今からハラミさんと…何だ…まぁ、終わるまで砦には近づくなよな。」
くそ、リア充兄ちゃん。やることやるんだな。まぁいい。視覚的に見たくもないし。
~だめです。阻止限界点を越えました。~
後光が差しているように見えた。たぶんスッキリした表情をしてるトンル兄が砦から降りてきた。
時計がないからよくわからんけど、5分も経ってない。
トンル兄ちゃん、速い、早すぎるよ…うん。スピードスターだ。
「兄ちゃん水浴びして寝るわ。後頼むぞ…」
燃費も悪そうだ。ハイオクだけに。




