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シャロ家の魔女が、大嫌いな世界を終わらせる  作者: 海坂依里
第4章「森契の盟《シルヴァン・アコード》」
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第7話「魔法使いが『普通』になるために」

「ステラちゃんがシャロ家の贄になる前から、ずっと言われてきた」


 そして私よりも何倍も速い速度で作業を終えて、先に手を休めた。


「あいつは、精霊との縁を切るために命を懸けることができるのかって」


 エグバートさんは白い箱の蓋を開け、中から何かを取り出そうとする。

 一連の作業はただの料理風景でしかないのに、エグバートさんがくれる言葉は一音一音が重い。


「それを、窮屈って思っちゃったからなのかな」


 エグバートさんが白い箱の扉を開いたときに、中から冷たい空気が一瞬にして広がった。


「アッシュ家の血を引く人たちは、ほとんど魔物に殺されちゃった」


 殺されたという残酷な言葉を口にするエグバートさんだけど、彼は至って冷静だった。


「これは冷蔵庫。食材が長持ちするように……ほら、氷精霊が中にいる」

「あ……」


 冷蔵庫という、耳にしたことのない言葉を説明するエグバートさん。

 魔道具の説明をしている場合ではないのに、敢えて魔道具の説明をしてくれた。

 いま話している内容は、決して重たく捉えないでほしいという彼の気持ちが伝わってくる。


「だから仕方なく、俺を次期当主に据えるしかない」


 何も隠すことはないといった具合に、ただの世間話のように笑みを浮かべながらエグバートさんは話を進めていく。


「血縁者が亡くなったのに、笑顔を浮かべるなんてーとか。不謹慎だって言う人もいたんだけど」


 頭の中が混乱していく。

 その混乱を解くために手を休めたいのに、エグバートさんは私の作業が終わるのを優しく見守り続ける。


「ここまで笑えるようなったんだから、むしろ褒めてほしいよね」


 エグバートさんが冷蔵庫の扉を閉めると、冷たい風が消え去った。


「……終わりました」


 私が刻んだじゃがいもを受け取って、彼は楽しそうに笑った。


「あとは野菜に火を通して、コンソメスープで煮込むって感じかな」


 温かな食事時間が始まる予感だけはするのに、エグバートさんは私が口を挟むことを拒んでいる。

 そのための調理時間だと気づき始めているからこそ、私は常にエグバートさんとの距離が開かないように気を遣った。

 エグバートさんの近くで、彼の調理している様子をしっかり記憶に焼きつけようと意識した。


「家族と一緒に料理するって……こんな感じなのかな」

「きっと……そうだと思います」


 野菜スープが完成する直前になって、私はようやく言葉を吐き出すことを許してもらえた。

 家族として過ごした時間がない私たちだからこそ紡ぐことのできる言葉があると信じて、私は口を動かしていく。


「ご先祖様が精霊と縁を結んでいなかったら……」


 味見のために、野菜スープを一口差し出される。


「俺たち、普通の生活ってものを知ることができたのかな」


 一口味わってみると、その温かさと美味しさに心が満たされていく。


「美味しい……です」


 感謝の気持ちを、《《美味しい》》という四文字に込めた。


「これから、私がエグバートさんに普通を贈ります」


 顔を上げて、隣にいるエグバートさんを見つめる。


「私は精霊と縁を切るために、ここにいますから」


 自分の使命を自覚しているからこそ、凛とした表情を浮かべられるように努める。


「寂しくはない?」

「寂しいです」


 寂しい気持ちを抑えて、エグバートさんに希望を含んだ笑みを見せられるように心を整える。


「でも、魔物という生き物が人間にとっての脅威となるなら、精霊も理解を示してくれるはずです」


 アッシュ家の贄として捧げられた私に、温かさと優しさで包んでくれた人たちに想いを返したい。


「エグバートさん、力を貸してください」


 エグバートさんの優しい眼差しが、私に向けられる。

 与えてくれる優しさは、戦うための大きな支えになってくれる。


「強くなりたい」


 深く息を吸い込んで、決意ある眼差しで彼を見つめる。


「守るための、強さが欲しいです」


 どうか、届いて。届いて。届いて。

 あまりにも儚すぎる願いは消滅寸前だったけど、目の前にいる彼は私の意志を感じ取ってくれた。

 願いを否定されないことが、どんなに幸福なことかということを知っていく。


「俺には、こんな風にステラちゃんを励ますくらいのことしかできないよ」

「それです」


 エグバートさんが、自分を卑下するような言葉を投げ捨てる予感がしていたのかもしれない。


「エグバートさんは、いつだって私を助けてくださいます」


 少しの間を空けることもなく、私はエグバートさんへと言葉を向けることができた。


「今回だって……ルドに協力を要請する強さが、エグバートさんにはあります」


 双子の妹が世界のすべてだった私には、他人の励ますための方法を知らない。

 言葉を羅列していくことしかできない私だけど、私だって相手を励ますための言葉を発したいと気持ちを込めていく。


「|行方不明のシャロ家の魔女《本物》を探すには、どうするのが一番いいか。シャロ家の血を残す策を、真っ先に考えてくれました」


 人間の目を輝かせることなんてできないけど、輝かしい瞳をエグバートさんに向けることで希望を持ってもらいたいと願いを込める。

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