正論(153)追跡するA班
日本橋を起点に宇都宮、日光を抜け、果ては青森県まで続く国道4号線。赤いスーパーカーと、それを追うVVEI・A班の黒いバンは北上していた。
黒いバンを運転しているのは、あのチャイコフスキーとスーパーカーが好きな戦闘員だ。名を小森という。彼は真由美の校外授業の時と、VVEI襲撃時(実際は鬼島を送り届けただけだが)に直接会話しており、セイロンガーに対する敵対心はなくなっていた。ただ仕事として任務をこなしているだけである。*正論(19)(44)参照
尾行のため、さすがに黒覆面を脱いで地味なジャンパーを着ている小森だが、助手席に怪人が乗っているせいですべては無駄になっていた。
「マ、マブラーから火ふいで、が、がっげぇな……」
ウィーン、シュボボボッ
コモド怪人ヨダレだ。後部座席にいたが、尾行対象が赤いスーパーカーだと知るや、近くで見たいと聞かずに助手席に無理やり乗り換えたのだ。
かぶりついて数台前を走るスーパーカーを見るヨダレ。小森は報道陣が詰めかけた昨日のアニキ呼び騒動を思い出し、気が重い。
今朝のブリーフィングで新たに怪人課の課長となった男が出した司令。
『万が一、任務中のヨダレに裏切りの予兆があれば、人里離れた山中に置き去りにして、粉微塵に爆破せよ』
報道陣の前でセイロンガーをアニキ呼びしたことが大々的に報道され、VVEI執行部の知るところとなったための措置である。いつもはセットで行動するゴリラ怪人暴れ太鼓がB班に分けられたのも、邪魔をされないためだ。
日本支部のトップとされた、されこうべ大将や、守銭奴大佐などが更迭され、本国から派遣されたコマンダー・スネイクが指揮するようになってから、まるで別の組織のようになってしまった。以前の悪党ながらも和気あいあいとした会社、VVEI日本支部はもうない。
「ご、ごもり。セイロンのアニキは見えるが?」
ウィーン、シュボボボッ
「見えないですね。……ヨダレさん、敵のセイロンガーをアニキ呼びするのダメですよ。昨日、めっちゃ怒られたでしょう?」
「い、いげねぇ。忘れでだ……でもあの人、敵だげど良いひどじゃねぇが……?」
ウィーン、シュボボボボボボッ
(ダメだ、ヨダレは純粋すぎて裏切り行為に見られている自覚がない……)
「あんまり喋ると涎タンクを替えなきゃいけなくなるんで、シッ!」
ドンッ
後部座席に座るA班リーダー、赤タイツの戦闘員が後ろから運転席のシートを蹴ってきた。余計な注意をするなということだろう。
小森はヨダレを黙らせてから、赤いスーパーカーを見る。追跡からしばらく経ったが、まるでスピードを上げる様子がない。いい加減、いつまでも一定距離で付いてくるこのバンに気づいてもよさそうだ。
(まぁ、どう考えてもダミーだ。それならそれでいいさ。どこまで行くのか騙されてやる)
この任務が終わったら退職しよう。他より給料が良くて続けてきたがもう限界だ。そう思う小森だが、はたしてVVEIがすんなり認めてくれるのか、それを考えると背筋が寒くなるのだった。




