正論(152)鼻メガネとノトーリアス
五百旗頭邸の正門の横、ガレージの扉がゆっくりと開く。
キュキュッヴォン……ヴォンヴォン……
ビョンビョンビョン……パーーパラララッ、パーーパパッパッパパッ♬
エンジン音と『スカイハイ』のイントロ。現れたのは大型バイク。横にはサイドカーが取り付けられている。イエローとブラックでカラーリングされたボディは、このバイクを操る者を表している。
運転するのはスカイホーネット、サイドカーにはハニービー。久しぶりのヒーローユニット『ビーハイブ』の出動だ。後輪上部に設置された回転灯が虹色で回転し、ヒーローの緊急出動であることを示していた。
お向かいの奥さんが玄関から笑顔で声をかける。
「あらあら、まぁまぁ、ご夫婦揃って出動? いいわねぇ、頑張ってくださいましねぇ〜」
おっとりとした口調で手を振る奥さんに、手を挙げて応えるスカイホーネットとハニービー。大型バイクは腹に響くようなエンジン音を残して走り去っていった。
五百旗頭邸の屋内、バイクが走り去る音を聞いて壽翁が真佐江に言った。
「では、行こうか真佐江ちゃん」
そう、ホークパレス同様に正面から出発したのはダミーであった。男女のシャドウズがスカイホーネットとハニービーに扮して、あらぬ目的地へと向かったのだ。行き先は千葉県成田山新勝寺。お参りして帰ってくる、ただそれだけの行程。もちろん、道中は下道だ。
「バイクで成田山までどのくらいかしら? 夏はヒーロースーツだと暑くてしんどいのよねぇ」
「空いていれば2時間かからないんじゃないかな? 帰りは脱いで構わないと言ってあるよ」
2人は裏庭を抜け、板塀の前に立つ。塀にしか見えない板の隙間に手をかけて前に引くと扉になっていた。その向こうにさらに古びた引き戸があり、五百旗頭邸の裏にある別棟のガレージに繋がっていた。表から見ると潰れた古いタバコ屋にしか見えない。
元々は米国での経験を元に、壽翁が真っ先に用意した緊急脱出用の秘密の裏口なのだが、今は真佐江やシャドウズが日々の買い物によく使っている。
廃店舗の見た目と違い、ガレージは工具や予備のヒーローマスクが置かれており、綺麗に整えられている。そして、どこにでもありそうな黒い軽ワゴン車が置いてあった。
運転席に真佐江が座り、顔バレ防止の白いマスクとサングラスを着用する。
「あ、サングラス忘れちゃったな。もうひとつある?」
助手席に座った壽翁が白いマスクを着けながら言った。
「たしかダッシュボードに入ってるわよ」
ダッシュボードを開けて、そこにあるメガネを取り出した壽翁。
「これ、パーティ用の鼻メガネじゃない……」
「あぁ、町内会のクリスマス会で使ったやつね。どうせ、マスクで鼻とヒゲが隠れたらわからないわ。我慢なさい」
黒縁メガネの上のゲジゲジ眉毛をジャリジャリ触る壽翁。しかしすぐに諦め、メガネを着け、白いマスクを巨大な鼻までかぶせた。
そして、ゆっくりと真佐江に振り向く。
「ブフゥッ! 面白いわ、最高よ! ちょっとマスク下げてみて……プーーッ! いやぁまさか五百旗頭壽翁が鼻メガネ着けてドライブしてるなんて誰も思わないわ!」
「あのねぇ…………ブッ、クックックッ」
壽翁も釣られて笑い始める。
(なんだか、付き合っていた頃のドライブデートを思い出すよ……)
歳上で生真面目な壽翁を、いつも揶揄って遊んでいた無邪気な真佐江が思い浮かんだ。
「さぁ壽翁さん、レッツラゴーよ! 曲をかけてちょうだい。今日の気分はデュラン・デュランよ!」
シャッターが自動で開いて軽ワゴン車が出発した。そして壽翁と真佐江は声を合わせて歌った。
「「ノッノッ! ノ、トーーリアス♬」」




