正論(148)ヒーロー少年団
ダダダダダッ!
IHA東京トレーニングセンターの宿泊施設。その部屋から誰かが物凄い勢いで走ってくる。
真っ直ぐ腕を振り、膝を高く上げる。フォームは完璧だが、スピードはそれほどでもない。『五百旗頭』の名札を縫い付けた体操着にハーフパンツ。
そう、真由美だ。
昨晩、ハンドガンを持った偽セイロンガーたちの襲撃を辛くも切り抜けたテレビの生中継の後、セイロンガーのことが心配でたまらず大泣きしてしまった真由美。トゥエルブに慰められながらそのまま眠りについた。
朝、スマホに届いていたセイロンガーからの無事を知らせるメッセージ。それを見ての爆走である。
真由美は談話室のソファにトゥエルブを見つけた。
「トゥエルブお姉さん! セイロンさんからメッセージが来ましたぁーー!」
スマホを高々と掲げて走り寄る真由美。微笑ましいその姿に、トゥエルブは思わず笑顔になる。
「おはようございます、真由美お嬢様。メッセージ良かったですね!」
「はい! でも、どうしよう、お姉さん。私、セイロンさんに電話かけたいんですけど……」
真由美はもじもじしながら言った。
「かけたらいいのに。でも、セイロンガーさん、後でこっちに来ますけどね」
「えっ、やったぁ!」
⸻
朝食を食べ終えたセイロンガーは清掃用の作業着を着て管理人室に向かっていた。同じく、作業着を無理やり着せた鬼島を連れている。
セイロンガーのマスクに内蔵された骨伝導通信で統合AIエミリーから連絡が入る。
『マスター、真由美さんからお電話です。』
「わかった。繋げてくれ」
「独り言か、セイロンちゃん」
骨伝導通信とは思ってない鬼島に、セイロンガーはちょんちょんっと自身の耳を指差した。
「もしもし、おはよう真由美さん。……うん、あぁ、うん、心配かけてすまなかった。……そうだ、今日そっちに行く。……いや、改造手術になるから連れては帰れないんだ。……ありがとう、気をつけて向かうよ。皆さんによろしく伝えてくれるかな?……それではまた後で……」
セイロンガーは通話を終えた。涙声の向こうに、どれほど心配していたかが痛いほど伝わってきた。
鬼島が不思議そうにセイロンガーの耳部分をジロジロ見ている。
「どうなってんだ、その耳はぁ? 携帯が入ってんのか? アンテナはその角か?」
「うるさいやつだな。無線で直接エミリーと繋がっているんだ。お前のスーツも繋げられるから後でセッティングしてやる」
「エミリーちゃんが耳に直接か? いやいや、それは勘弁してくれ。ところ構わず話しかけられたらかなわん!」
エミリーの朝の起こし方が気に入らなかったようだ。
管理人室に着くと中にいるシャドウズが報告する。
「おはようございます。館内清掃はスケジュールに合わせて本日分は終了しています」
セイロンガーは普段、曜日別にスケジュールを組んで清掃業務をしている。
「さすがに仕事が早いですね、助かります。では、集合ポストのゴミ箱をチェックしに行こうか、鬼島」
「ちっ、わーったよ」
管理人室の裏口が集合ポストや宅配ボックスのあるフロアと繋がっている。このフロアは郵便局員などが入れるようにロックのない自動ドアで外からの出入りが可能だ。居住者の多くは、朝、ここで郵便物を確認し、外出していく。
「このゴミ箱に捨てられた個人情報が明記されたDMの類はシュレッダーをかけ、間違えて捨てたと思われる郵便物はポストに戻しているんだ」
鬼島に説明していると、ロビーから誰かが入ってきた。
「管理人のおじさん!」
見ると、小学生の子供だ。
「川本さんのところの健一くんだね。おはよう」
川本健一、小学生5年生の男の子だ。
「おはようございます。昨日のテレビ見てました。すっごくかっこよかったです! それで、このマンションを守るヒーロー少年団を作ろうって同じ階のまことくんと話したんだけど……」
「へぇ、いいじゃねぇか。頑張って守ってくれよ少年団」
鬼島がそう言って、健一の頭を撫でた。
健一は頭をふり、鬼島の手をどけて言った。
「おじさんは誰? 頭触んないでくれる?」
「ちっ、かわいくねぇ……」
セイロンガーがしゃがんで健一の目線に合わせた。
「絶対に駄目だ、健一くん。昨日のテレビを見ていたならわかるだろうが、相手は凶悪だ。気持ちは嬉しいが、君たち子供を危険に巻き込むわけにいかない。わかってくれるかい?」
「でも、僕たちも……うんわかったよ。管理人さん」
健一は言いかけた言葉を飲み込んだ。そして、肩を落として戻っていった。
「ヒーローと言えば、少年団はつきものじゃねぇか」
鬼島は言った。
セイロンガーは鬼島を見ることなく、ゴミを仕分けながら呟いた。
「鬼島、これは特撮ドラマじゃないんだ。戦ったお前ならわかるはずだ。……ゴミの仕分けが終わったら、出発するぞ」




