正論(145)明日は6時起床
セイロンガー邸のエントランスホール。天井の監視カメラがセイロンガー、鬼島、水沢雪菜の姿を捉えている。
「エミリー、鬼島と水沢雪菜さんだ。しばらくの間、ウチで暮らすことになった。よろしくな」
セイロンガーが言うと、天井のスピーカーから統合AIエミリーが答えた。
『マスター、一緒に暮らすのですか? 泊まるの間違いではなく?』
セイロンガーはあらかじめ伝えたはずなのにと思いつつ、
「いや、これから共同生活をするんだ」
『……』
ジジッと、わずかに雑音だけが聞こえるが、エミリーは答えない。
変な空気に雪菜は少し怖くなった。この感じ、前に映画で見たことがある。
「あのう、セイロンさん。エミリー、怒ってないですか? 本当にAIなんですよね?」
「はい、もちろん。彼女に感情はありません。エミリー、冗談はよせ」
『失礼しました、ジョークです。ごめんなさい、雪菜さん。怖かったですか?』
「怖いですよ。そのうち変な声で『デイジー・ベル』とか歌わないで下さいね……」
『あはは、読唇術も心得てますよ。』
「エミリー、やり過ぎだ。ディスコネクトするぞ?」
「おい、なんだかわからねぇが、喧嘩をするな」
鬼島は以前、映画『2001年宇宙の旅』を観たことがあるが、前半30分で寝た。
「機械の姉ちゃん、さっきはどうもだ。これから世話になるぜ」
鬼島は人質救出作戦後、エミリーと少しだけ会話した。それ以前にも、敵としてだがセイロンガーの車に乗っているので、エミリーは認知している。
『ブラックオウガさん、これからよろしくお願いします。何とお呼びしましょうか? ブラックオウガさん、オウガさん、鬼島さん。』
「おう、三郎ちゃんか、サブちゃん。どっちかで頼むぜ!」
鬼島三郎は下の名前で呼ぶことを求めた。エミリーをクラブのホステスとでも思っているようだ。
セイロンガーがすかさず訂正する。
「混乱するからオウガさんでいいぞ、エミリー。水沢雪菜さんは、雪菜さんでいいだろう。 それと、個人の認証は問題ないか?」
『はい、マスター。オウガさんはデータの蓄積は少ないですが、判別しやすいので問題ありません。雪菜さんは元々居住者ですし、行動データも毎朝、なぜか廊下を行ったり来たり……』
「やめて、エミリー。それ以上言わないで!」
「ふむ、では部屋を案内します。このエントランスホールから、左右の廊下の突き当たりがゲストルームです。右が鬼島、左が雪菜さんでお願いします。また、各部屋に風呂とトイレは付いていますから、自由に使って下さい。Wi-Fiの接続はエミリーが案内します。テレビもありますのでご自由にどうぞ」
「カラオケは……無いな?」
もちろん、鬼島だ。
「無い。もう遅いから絶対に歌うなよ? それと、ウチには灰皿がない。とりあえず、後で空き缶を渡すから水を入れて使ってくれ。窓を開ければバルコニーに出られる」
鬼島は手を挙げて答えた。
「それでは、今日はもう遅いので休んで下さい。明日は朝6時に起床、館内清掃をしてから五百旗頭邸に向かいます」
「……」
(合宿かよ……)
(夏合宿みたい……)
雪菜と鬼島は奇しくも同じことを感じながら、お互い挨拶を交わし、それぞれの部屋に別れた。




