正論(143)5階フロア異常なし
『ホークパレス』の3人はサーティーンと別れ、エレベーターへ向かった。
セイロンガーが5階のボタンを押す。水沢雪菜の単身者向けの部屋がある。ちなみに、階下の4階には、今はトレセンにいる江口麻里の部屋がある。
「あの、管理人さんって呼び方、変えてもいいですか?」
雪菜は思い切って言ってみた。
「お? 水沢ちゃん。いきなり距離を縮めにきたな。ジョーって呼んだらどうだ?」
鬼島がからかう。雪菜が鬼島の腕をはたいた。
セイロンガーは階数表示を見ながら答える。
「ジョーはまぁ、本名なので……セイロンとでも呼んでください。真由美さんはセイロンさんと呼んでますし」
真由美の名前を出して、少し胸が疼いた。
『⸻私、何があってもセイロンさんの味方だから!』
泣きながら叫んだ真由美の顔が浮かんだ。今日の昼にトレセンで別れてから、もうずいぶん会っていない気がする。
鬼島が気安くセイロンガーの肩に手を置いて言った。
「俺はセイロンちゃんと呼んでいる!」
「勝手にな」
プンッと音がして扉が開く。雪菜はバッグからカードキーを出して部屋へと向かう。
部屋の前に到着すると、セイロンガーが言った。
「少し待ってください」
セイロンガーは雪菜の部屋の扉を調べる。彼女はVVEIから追われる身だ。AIエミリーの監視により、マンションの警備は万全だが、一応ドアに異常がないか調べた。
「大丈夫です」
セイロンガーが言うと、雪菜はドアを開錠し中に入る。
「10分くらい待っていてください」
「邪魔するぜ」
雪菜に続いて、さりげなく鬼島も入ろうとする。
「いや、邪魔しないで。外で待っててよ」
チッと舌打ちして鬼島は部屋の前の手すりに寄りかかり、外を眺めた。
「あれ、五百旗頭の家か? 道場の電気がついてるな」
斜め下方に広い敷地の五百旗頭邸が見える。母屋は薄暗いが、道場の方は煌々と明かりがついていた。
「あぁ、シャドウズはシフト制だからな。シフト外のメンバーがトレーニングしているのだろう。夜間は筋トレ中心らしい」
近所迷惑を考えてのことだろう。
「ほーん、すげぇね。たいしたもんだ……」
他人事のようにいう鬼島だが、脳裏にあるのはサーティーンの身軽にマンションの壁面を登る姿だ。自分に出来そうもないことを、軽々とやってのける若い女性ヒーローに感心すると共に、肉体の衰えと向き合わなければならないとも感じていた。
「そうだな。五百旗頭夫妻もそうだが、日々のトレーニングに余念がない。俺も見習わねばならん」
鬼島は、そう語るセイロンガーの肩に手を置き言った。
「そうか……頑張れ」
「お前もな」
やがて、キャリーケースを引いて雪菜が部屋から出てきた。セイロンガーは念の為、ドアの気づかない程度の傷を目印に、紙片を挟み込んでドアを閉めた。
「雪菜さん、部屋に入室するときは、この紙片が動いてないか確認してください。もし、異変に気づいたら入室をやめて、私に連絡を……いや、だめだな。やはり入室の際は私が同伴します」
「わ、わかりました。セイロンさん」
セイロンガーの行動で改めて、自分が追われる身であることを実感した。
「それでは、私の部屋へ案内します」




