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ど正論ヒーロー セイロンガー  作者: 月極典


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140/152

正論(140)ジョーと真佐江と壽翁


「ど、どしたんなら、セイロンちゃん。ぶち大声出してから……」

 驚いて広島弁が出た鬼島だったが、彼の出身は東京である。

 

「申し訳ありません、真佐江さん。今、思わずママと言いかけました……」

 セイロンガーは、誰も気づかなかったママ呼び未遂を正直に謝罪した。

(え、気づかなかったけど、そうだったんだ。でも、謝るのそこかな?)

 雪菜は、東京出身のくせに広島弁が出た鬼島のことはスルーした。


「いいのよ、セイロンさん。今、お母さんのマリアさんのことを思い出していたのよね?」

 真佐江はカツを割り下でぐつぐつと煮込みながら、優しい笑顔で言った。

 

「なぜその名を……」

 両親のヒーロー名は世界的に知られていてもおかしくはないが、母親の本名が真佐江から出たのは意外なことだった。


「あえて下の名前で呼ばせてもらうわ、ジョー。ウルフショーグンはあなたの仇であると同時に壽翁さんと私にとっても仇なのよ」


 ギュルギュルギュル〜


 カツ丼の匂いにつられて、壽翁の腹が鳴った。シリアスな場面であろうと腹は減るのである。壽翁は照れ隠しもあって真佐江の言葉を継いだ。

「オホン。私が君のお父上、ナイトホークと繋がっているのはIHAとNHOの関係からも知っていることかと思う。しかしそれは、日本と米国の業務的な繋がりだけではない」

 

 壽翁は目を瞑り、過去に思いを馳せる。

「ジョー。あの日、幼い君が必死に泣きじゃくりながらNHO本部に知らせに来たのを今も覚えている」


「では、あの時、入り口で警備をしていたのは……」


「そう、声をかけたのは駆け出しのヒーローだった私だ。そして、現場に駆けつけたヒーローの中には真佐江ちゃんもいた」


 キッチンから出てきた真佐江は出来上がったカツ丼を壽翁の前に置いた。

「はい、壽翁さん。またお腹が鳴ったら恥ずかしいから食べちゃって。……私はね、最初セイロンさんとジョーが同一人物だとは思わなかったの。あとから壽翁さんに聞いて知ったのよ。ごめんなさいね」


「いえ……」

 セイロンガーは突然知らされた事実に気持ちが追いつかない。大学卒業後に単身移住した日本。知り合いはいなかったはずだった。だが、幼い頃の自分を知り、ジョーと呼ぶ人がこんなにも身近にいたとは。


 真佐江は立ったままで話を続けた。

「マリアさんの葬儀の日、警備の休憩時間に私は棺の前で号泣したの。マリアさんは私にとって女性ヒーローの目標だったし、特別に可愛がってもらってたから。そしたらね、あなたは覚えてないかもしれないけれど、私の肩を叩いて慰めてくれたのよ? 自分も泣き腫らした顔のまま、10歳のあなたが……」

 真佐江の瞳は潤み、鼻も少し赤い。


 セイロンガーは葬儀の記憶はほとんどない。ただ母を失うことになった自分を取り巻く環境に対する怒りと悲しみに打ち震えていたのは覚えている。

「それなら!……わかってもらえますか? 真佐江さんに最前線で戦ってほしくない私の気持ちを。真佐江さんに何かあったら、真由美さんはどうなるのです? 子供には何より、母親の愛情が必要なんです」


「でも、親はなくとも子は育つ、ともいうわ」


 ここで、事情を察した鬼島が口を挟んだ。

「そうだぜ、セイロンちゃん。俺の母ちゃんは俺が小学校に上がる前に男を作って逃げちまった。だが、この通り、立派に育ったろう」

 マリンはうんうんと頷いたが、雪菜はすかさず突っ込んだ。

「オウガ、あなたは親はなくとも子は育つ、の例として相応しくないわ」


「……」

 鬼島は、それもそうかと思い黙るしかなかった。


 真佐江は改めて宣言した。

「ジョー、あなたの私や真由美を思う気持ちは嬉しいわ。でもね、私は妻や母であると同時にヒーローなの。そして、倒すべき敵がいれば最善を尽くして戦う。それが私の矜持よ、わかってちょうだい」


 矜持とまで言われて、これ以上、何が言えるだろうか。セイロンガーは説得を諦めた。

 

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