正論(138)再改造手術
壽翁はカツ丼の用意があることを確認した。出かける前の不機嫌な様子は変わっていないように見える。
冷蔵庫に豚肉を発見した真佐江、どこから見ているかわからないシャドウズに向かってサムズアップした。
「壽翁さん、ちょっと待って。今からあなたのカツ丼を用意するけれど、その不機嫌をこの楽しい団欒に持ち込まないでちょうだい」
「いや、べつに不機嫌ではないよ。真佐江ちゃん……」
引きつった笑顔を作り、両手を振って否定する壽翁。
「いいえ。いつもなら『ただいま』から『いやぁ良い匂いがしているねぇ』からの『真佐江ちゃん、僕の分もあるのかな? いや無ければいいんだけど』と、こうくるはず。だけど、さっきのは何? 『もちろんあるよね? 私の分のカツ丼』。は? 王様のご帰還かしら? 私もびっくりして『当たり前田のニールキック』とか、わけのわからない反応しちゃったじゃない。あ〜あ、段々と腹が立ってきたぁ」
真佐江の怒涛の長台詞である。これは話せば話すほど怒りが増していく、真佐江の恐るべき口撃だ。現役のヒーロー時代、何体もの怪人を戦いの前に戦意喪失に追い込んだことがある。これ以上は何を言い出すかわからない。防ぐ方法は唯一、早々に謝ることだ。
「ごめん、真佐江ちゃん! 仕事のストレスを家庭に持ち帰らないというルールを忘れていたんだ! この通りだ」
壽翁は手を合わせて謝罪した。
「わかればいいのよ、壽翁さん。何か大事な話があるんでしょうから、入って話してちょうだい。私はね、遅くに帰ってきたあなたひとりのために、わざわざカツ丼作るから」
皮肉たっぷりに言う真佐江。こればかりは夫婦にしかわからない距離感、他人には口を挟む余地はない。
肩を落とし、壽翁はダイニングテーブルに座った。隣の鬼島が壽翁の肩をポンポンと叩く。
気を取り直し、前を向いた壽翁が皆に向かって話を始めた。
「急で悪いが、明日、私とセイロンガー君、それとブラックオウガ君でトレセンに向かう」
「真由美さんを迎えに?」
セイロンガーにとってはトレセンに向かう用事はそれしかない。元々、明日にでも赤いスーパーカーを駆って迎えに行くつもりだった。
「いや、真由美にはもう少しトレセンの庇護下にいてもらう。目的は、大曲博士による再改造手術だ」
「もしかして、秋に行う予定だった大型アップデート?」
「そうだ。これにより君たち2人は変身が可能になる。さらに、能力も大幅に向上する。……そして、その改造を私も受け、現役に復帰する!」
キッチンの真佐江が驚いた表情で壽翁を見る。壽翁も真佐江に視線を向けた。真佐江はしかし、話を邪魔しないよう視線を外し、料理を続けた。
「おい、マジか! これで堂々とパチ屋に入店できる! いや、夜の街にも……」
しょうもない鬼島の場違いな感想を遮るようにセイロンガーが問う。
「ずいぶん急ですね。何か理由があるのですか?」
「ああ、日本支部のていたらくに業を煮やした本国VVEIから、大幹部ウルフショーグンが乗り込んでくるらしい」
ウルフショーグンの名を口にすると、壽翁はセイロンガーを見た。彼は下を向き、拳を固く握っていた。




