正論(137)ちゃん、リン、シャン
風呂から上がったセイロンガーとブラックオウガが、湯気を立ち上らせながらリビングへ戻る。
それを見たマリンはパッと笑顔になり、興味深げに2人のヒーロースーツを見る。
「うわぁ、ヒーロースーツから湯気! 本当にこのまんまお風呂に入るんですねぇ……」
「はい、脱げませんから。身体はボディソープで洗い、頭はシャンプーとリンスもします。いや、鬼島は全身ボディソープだったか? 泡だらけになって危うく転びそうになっていたな」
「髪の毛がねぇのにわざわざ『ちゃんリンシャン』するやつがいるか」
「ちゃん、リン、シャン……」
真佐江が首を傾げながら言った。ちなみに、「ちゃんとリンスとシャンプーする」という昔のCMフレーズだが、真佐江と鬼島以外にわかるものはいなかった。
「さて、それではさっとカツ丼作ってしまいましょう」
セイロンガーは揚がったカツを、玉ねぎを煮込んだ割り下に並べて、蓋をする。カツに煮汁が十分に染み込んだのを確認して溶き卵を回し入れ、さらに蓋をする。
「マリンさん、ご飯の量は?」
「大盛りでお願いします!」
「俺は普通盛りでいいぞ? この時間に腹いっぱい食うと消化できねぇんだ」
時間はもう真夜中になろうとしている。鬼島の胃は年相応に弱っていた。
「さぁ、出来ましたよ。これはマリンさん、これは鬼島。真佐江さんと雪菜さんはカツが半分なので、ご飯の量も合わせてあります」
雪菜とマリンが配膳を手伝い、ダイニングテーブルに蓋付きの丼が運ばれた。真佐江が冷蔵庫から瓶ビールを用意した。
「それじゃあ、セイロンさんが作ってくれたカツ丼、いただきましょうか。みんな、お疲れ様!」
皆で乾杯し、丼の蓋を開く。湯気とともに甘しょっぱい香りとカツの香ばしい香りが食欲をそそる。表面は卵の白身と黄身が絶妙に混ざり合っている。
「あっ、ほいひ〜」
熱々のカツを口に頬張ったマリンが言った。
「あぁ、美味いぜセイロンちゃん!」
「美味しいです、管理人さん」
「本当に、恐れ入谷の鬼子母神ね……」
口々に褒められて、セイロンガーは満足げにビールをあおった。少し前では考えられない組み合わせによる団欒に、縁とは不思議なものだと感じていた。本当は真由美さんも一緒なら、と思うセイロンガーであった。
そんな楽しい団欒の最中、この家の主人である五百旗頭壽翁が帰宅した。和気藹々と盛り上がるダイニングを見渡し、
「楽しそうだね……もちろん、あるよね? 私の分のカツ丼」
皆、壽翁のことを忘れていた。
「やだぁ、壽翁さん。当たり前田のニールキック、佐山聡の往復ビンタよ……」
言いながら真佐江は立ち上がり、冷蔵庫に向かう。カツが無いのはわかっている。最悪、魚肉ソーセージを渡して誤魔化そう。そう思った。
しかし、冷蔵庫を開けると、なんとそこにはトンカツ用の豚肉が入っていた。食事をせずに壽翁が帰ってくることを知ったシャドウズが24時間スーパーに豚肉を買いに走り、いつの間にか冷蔵庫に入れておいたのだった。




