正論(132)親子の血は争えない
50階建の高層ビルの屋上から自由落下を始めたナイトホーク。背中の飛行ユニットを身体とカメラアイの視点制御で操る。目標は向かいのビル30階のフロアだ。
「ジョー、親子の関係は断絶していても、元気でいたらそれで良いと思っていたが……まさかヒーロースーツで見ることになるとはな。あれでは誰だかわからんではないか」
ナイトホークは一人呟きながらアサルトライフルの狙いを大きな窓の中心に定めた。
「あの、マスター、心の声が無線でダダ漏れですが……」
後ろを滑空しながら、レイブンズのテリーが揶揄うように言う。
「……わざとだ」
ナイトホークは誤魔化したが、各隊員の無線から我慢できずに吹き出す声が聞こえた。これから突入作戦だというのに、随分リラックスした雰囲気である。
「ウォッホンッ!」
強く咳払いしたナイトホークは、気を取り直してアサルトライフルを打ち込んだ。
ダンッ!
ピシッ!
窓ガラスは防弾らしく弾丸を弾いた。
ダンッ! ダンッ! ダンッ!
4発目にやっとヒビが入る。
目標のフロアではヴィランの連中が慌ただしく動いている。身を隠し窓枠からこちらを伺う者もいるが、窓ガラス越しでは闇に溶け込むナイトホークたちの姿はよく視認できない。
アサルトライフルの下部スロットに槍状の弾頭を持つジャベリンバスターを装填、即座に打ち込んだ。
ドンッ!
ヒュ〜…………バ ァ ァ ン ッ
斜め下に降下しながらも、槍状の弾頭はヒビの入った箇所を寸分の狂いなく貫き、爆発。そして、窓ガラスが粉々に弾け飛んだ。
「突入する」
号令するナイトホークを先頭にレイブンズも窓から侵入し、次から次へと敵を制圧していく。各自装備した銃器や、エネルギーブレードは使うまでもない。特にナイトホークは蹴りや投げで数名の敵をまとめて片付けていく。NHOの精鋭部隊を相手にVVEIの末端組織の戦闘員では敵うはずもなかった。
「ナイトホークとレイブンズだ……」
「無理だ!」
「敵うはずない、逃げろ!」
悲鳴に似たVVEIの戦闘員の叫び声が上がる。
『ルクレス・グローバル・ロジスティクス』側のビジネススーツを着た男が叫ぶ。薬物受け渡しの責任者のようだ。
「おい、怪人! 出番だ!」
「ブモォォッ!」
雄叫びとともに背後の暗がりから異様に巨大なシルエットがのしのしと歩いて前に出る。
身長約3メートル、全身のほとんどを茶褐色の体毛で覆われた姿。凶暴な熊の顔を持ち、両手、両足の爪は赤く鋭く伸びている。身体は筋肉質で巨体の印象より敏捷であるように思わせる。
「なるほど、あのデカいシルエットはお前だったか、熊」
ナイトホークが指を差して言う。
「グルル……俺は熊の怪人、グリズマン……」
「待て待て、誰が自己紹介しろと言った? 固有名詞を名乗るにはまだ早いぞ、モブ怪人」
ナイトホークは、どこかで聞いたことがある台詞で挑発した。親子の血は争えないのであった。




