正論(129)高柳郁子は成り上がった
セイロンガー邸での人質事件。
太陽テレビのリポーター、高柳郁子が人質に取られながら、頭に取り付けた小型カメラ『G-PRO』で撮影した決定的な映像は、大きな反響を呼んだ。
ドアを破って部屋に侵入し、犯人を制圧するブラックオウガ。バルコニーから突入、後ろからの金的蹴りで犯人を倒すサーティーンの漆黒の姿。そして、偽セイロンガーの発砲を避け、瞬時に背後に回り込み首根への一撃で気を失わせた本物のセイロンガー。
太陽テレビでは遅い時間ではあったが、高柳郁子を司会に抜擢、特別番組を編成した。ネット配信したその現場映像は、再生数が瞬く間に1000万回を超えた。
高柳郁子はブーメラン会見で、家賃を聞くという素っ頓狂な質問をした。それでも、命懸けで撮影したその報道記者魂が評価され、特別番組の司会に一躍登り詰めたのである。
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IHA東京トレーニングセンターでその映像を観るのは、五百旗頭憂響センター長、大曲博士、江口麻里、トゥエルブの4人。真由美は厳重な警備の元、宿泊施設の自室で就寝中だ。
憂響は、セイロンガーがDIPスイッチを使いこなす姿に満足しながら、大曲博士に言う。
「大曲博士、スーツのポテンシャルがいかんなく発揮されましたな」
「ううむ、リセット時の膝カックンで弾丸を避けるとは、正に赤い稲妻よ……」
麻里は思う、
(博士、膝カックンて、言い方よ……。それにしても、自分が住むマンションがこんな騒ぎに巻き込まれるなんて。私たち、いつになったら帰れるのかな? ずっと山ガールファッション、嫌なんだけど……)
麻里の立場は肩身が狭い。大曲博士が一緒とはいえ、昨日までの敵の施設に缶詰状態で保護されているのだ。
ここでトゥエルブが真剣な表情で、憂響に質問を向ける。
「五百旗頭センター長、これから日本は銃器が当たり前の世の中になってしまうのでしょうか? もちろん、私たちはそれに対抗する訓練も受けていますが、銃社会になったら一般市民への影響が心配です」
「うむ、どうだろうな。本国のVVEIはその実、軍隊に近い戦力を有してはいるが、米国内に限った話ではやたらに銃器を使うわけでもない。どちらかといえば、変異型の怪人による戦闘を旨としている。あちらのヒーローも銃器を無効化できる能力を持つ者は多い」
憂響は一呼吸おいて麻里に話を向ける。
「江口さん、今回このようなことに巻き込まれて災難だと思うが、彼らはターゲットに対しては手段を選ばないつもりのようだ。あなたもそのターゲットの1人だろう。しばらくの間、こちらの研究室で大曲博士の助手として働いてもらうことになるが、それでも良いだろうか?」
「あ、はい、それはもちろん大丈夫です。ただ、あの、着替えがですね……」
それを聞いた大曲博士は呑気に言った。
「なんだ江口くん、そんなことか。明日、お休みもらってショッピングにでも行こうじゃないか!」
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ちょうど、その頃。都内某所では五百旗頭壽翁と政府高官が会談を行っていた。いや、厳密にいえば壽翁が呼び出したのである。
「爆破事件に報道管制を敷くとは、どういうつもりだ!?」
五百旗頭壽翁は怒っていた。




