正論(128)マリンは鬼島と話したい
怪人の遺体が片付いた現場から五百旗頭邸へ戻ろうと、パトカーに乗り込む鬼島とセイロンガー。鬼島が先に乗り込むと、割り込むようにマリンが乗ってきた。
セイロンガーが驚き、尋ねる。
「マリンさん、バイクは?」
そう、マリンはトレセンからこの現場まで、マリン専用のピンクのスーパーバイクを飛ばしてきたはずだ。
「バイクは、後輩のヒーローに言って社長の家まで代行してもらいます! せっかく伝説の格闘家・鬼島三郎さんとご一緒できるので!」
「そ、そうですか……」
セイロンガーはマリンの左隣に乗車した。パトカーの後部座席は、鬼島、マリン、セイロンガーの並びとなった。
ホワイトピーチ・マリンへの憧れを公言していた若手警官は緊張しながら挨拶した。
「皆さん、お疲れ様でした! じ、じ、自分、憧れのマリンさんに乗っていただけて光栄に存じます!」
「は〜い、ありがとうございま〜す」
マリンの答えは素っ気なかった。
すぐに鬼島に話を向ける。
「いやぁ、鬼島さ〜ん! さっきの登場シーン、めっちゃ良かったです。私、あの試合思い出しました。ロシアの殺人軍曹ヴィクトール・ヴォルコフ戦。あの時も演歌を歌いながら登場しましたよね? 何でしたっけ?」
鬼島はマリンの勢いに押され気味に答える。
「お、おう、あん時はアレだ、たしか『兄弟仁義』だ」
「それだぁ! それで今回『兄弟船』でしょ。兄弟シリーズ、ファンにはたまりませんよぉ。で、で、その試合なんですけど、腕ひしぎ決められて靭帯、伸びてましたよね? でもその状態からヴォルコフの両膝の皿を拳で粉々に割って勝ったじゃないですか? 何であんなことできるんですか?」
マリンからすれば、憧れの格闘家が自分と同じヒーローとして、同じ現場で戦っている、この事実に興奮が抑えられない。質問はいくらでも湧いてくる。
「あれはなぁ、腕決められたら、もう腕いらねぇって思うんだ。片腕くらい、お前にくれてやらぁって思えば、どうってことはねぇ」
鬼島はよくわからない説明で答えた。たしかに当時の鬼島は試合の度に、身体のどこかしらを壊していた。そのため、年間の試合数は多くても3試合であった。しかし、その壮絶な試合は人気を集めて多くの地下格闘技ファンを熱狂させた。
「すごい……全然理解できない境地。じゃあ、あれは本当ですか? 実はやくざ2人殺してる伝説! 1人は締め殺して、もう1人は殴った勢いで海に落ちたまま行方不明になって、数ヶ月後に遺体で上がったとか」
「……」
パトカー内が凍りついたように、シーンとなった。
「あのなぁ、嬢ちゃん。マリンとか言ったか? 大人ってやつは、時と場所をわきまえて発言しなきゃいけないんだぞ? ここはパトカーの車内だ。それを考えて質問しなきゃ駄目なんだぞ?」
破天荒にヒーロースーツを着せたような男、鬼島がもっともらしい説教をした。なぜなら、マリンが言ったことは紛れもない事実であったからだ。今さらほじくり返されて、また刑務所行きになってはたまらない。
「あっ」
「あっじゃねぇ……」
「くくくっ、鬼島もマリンさんにかかっては形無しだな」
セイロンガーはそう言って、スマホを開く。車内では、相変わらず鬼島へマリンの質問攻めが続いている。
統合AIエミリーからいくつかの報告があり、他にトレセンのトゥエルブからメッセージが入っていた。
『真由美お嬢様が心配しています。お手隙になりましたら、メッセージだけでも送ってあげて下さい』
というものだった。
セイロンガーはトゥエルブのメッセージに返信した。
『申し訳ありません。あれから警察署で事情聴取があり、その後、護送車が護送中の怪人により乗っ取られまして。今、やっと五百旗頭邸に向かっているところです』
少しして、トゥエルブから返信が入る。
『お疲れ様です! 真由美お嬢様は泣き疲れて、今は部屋で寝ています。起きた時に安心できるように一言、メッセージを送っていただいてもよろしいですか? それにしても、護送車の事件はテレビもネットも、報道されていません。おかしいですね』
(あの爆発が報道されてない……まさか報道管制がひかれている?)
この事実に、セイロンガーは何か大きな力が働いていることを感じた。
真由美からメッセージは無い。きっと気を使っているのだろう。健気な真由美の姿が思い浮かび、胸が痛んだ。
『真由美さん、心配かけてすまない。こちらは色々とゴタついているが、大丈夫だよ。明日は月曜日で、学校を休まなければいけないだろうが、必ず私が車で迎えに行く。だから安心して待っていてほしい』
セイロンガーは真由美にメッセージを送信した。




