ウィスザールの断罪
どのくらいの時間が経っただろうか。
実際はそれほど時間は経っていなかったが、異様な空気もあり、かなりの時間が経ったと誰もが錯覚するほどの沈黙が会場を包んだ。
そして陛下は、今まで重く閉じていた口を開いた。
「まずは、お願いしよう。王家からそれ相当の対価を渡すため、情報を落札した者はその詳細が書かれた封筒の中を見せてはくれないだろうか?勿論中身を確認した後はきちんと返却しよう。そして、決して揉み消したりはしないとここに誓おう。」
多くの者が現在の陛下を慕っており、その彼からお願いされたのである。
しかも、後に対価をきちんと渡すと表明した上で。
情報を落札した者達は陛下の近くにいた側近に封筒を渡した。
そして、王はその情報が書かれた紙を一枚ずつめくって読み進め、エリーゼとリアーナに質問をした。
「うむ。エリーゼ嬢、リアーナ嬢。ここに書かれている内容に間違いはないか?」
代表して長女であるエリーゼは立ち上がり発言をした。
「陛下、恐れながら発言させていただきます。まずは、夜会の席でこのような事態を起こした事を謝罪させていただきます。申し訳ありません。」
エリーゼ、リアーナ共にお辞儀をする。
「そして、書かれている内容については間違いございません。きちんと調査を行った上で紙にまとめ、この場で発言いたしました。」
「うむ。そなたの言い分は分かった。夜会の舞台を使った事については、事前に内容は示していなかったもののきちんと王妃に催し物をすると話を通しておったため、不問にする。それでは次にウィスザール。そなたの言い分を聞こう。」
ウィスザール殿下は、陛下の前に行き発言をした。
彼は、今にも倒れそうなほど顔色が悪く、震えていたが必死に無実を主張した。
「父上、今回出された情報は全て事実無根でございます。だって、今まで私が何か失敗したことはございましたか?いつも完璧な、父上、そして国民の理想の王太子であり、次期国王であったはずです。そんな私があわや浮気をしたり、横領したり、ギャンブルをしているとでも?ははっ。そんなことするわけないじゃないですか?」
ウィスザール殿下は、まだ巻き返せると信じて疑わないようだった。
「それに、そんな証拠はあるはずがない!エリーゼ嬢やリアーナ嬢の証拠とやらは、本当に存在しているのか?もしや落札者と結託して、真実のように見せかけているのではないか?」
リアーナは、全く反省の素振りを見せないウィスザールを見て怒りを露わにする。
「なっ!そんな事をお疑いになるのですか?落札者には、殿下の母である王妃様や宰相様も含まれているというのに。ですが、すでに証拠の公表権は落札者の方に渡しておりますので、私の口から証拠を伝えることはできませんわ。」
リアーナは、背筋を伸ばして一歩前に出る。
「よろしければ、どなたか殿下が欲しがっている証拠を公表していただけないでしょうか?」
そこへ名乗りを挙げたのは、娘が理不尽に婚約破棄された伯爵夫人である。
「恐れながら陛下、発言をお許しいただけますか?」
「うむ。認めよう。」
「ありがとうございます。私が得た情報には、最大浮気人数が8人、今までお付き合いした方が調べられる範囲でも29人いるとか。」
会場にいる貴族達は、あまりの多さに絶句している。
「ハハッ。そんな事をしているわけないであろう。私はまだ、これだ!という女性に会っていないからな。今まで付き合った女性はおらぬぞ。」
ウィスザール殿下は、眉毛がピクピクと動き、動揺が少し表に出ているものの、しらを切ることにしたようだ。
一方、伯爵夫人は殿下の動揺を気にせず、発言続ける。
「具体的な女性の名前は、むやみに彼女達を傷つけたくありませんから公表しませんが、密会場所としてかなりの数が書かれておりますわ。」
伯爵夫人は、より響く声で発言を続ける。
「有名レストランのローズン、ダスベリア、ホテルミレルやナイン、パン屋の裏にある小さな小屋、女性の自宅など。あらまぁ、様々な場所がありますわね。心あたりがありませんこと?」
「やっ、やっ、やめてくれ。」
ウィスザール殿下は、動揺が隠せず、場所の名前が呼ばれる度に顔色が悪くなる。
そこへ、国のために膿は早いうちに取り出した方がいいと判断した王妃が、追い打ちをかけるように笑顔で言葉を発する。
「あなた、子供ができたと知れば無責任に少額のお金だけ渡して縁を切ったそうね?事実を語れば命はないと脅し付きで。」
ウィスザール殿下は、今まで見たことがない母、王妃の冷たい目と迫力に圧倒されているようだ。
彼は遂に耐えられなくなり、その場に崩れ落ちた。
そこへ先程まで会場から姿を消していた宰相が、陛下のところまでやってきて耳打ちをした。
宰相は、今までの短時間で裏帳簿を見つけ、聞き込みをして情報の裏取りをしたようだ。
陛下は一瞬驚き、考える素振りをした後ゆっくりと口を開く。
「エリーゼ嬢、リアーナ嬢の情報について裏取りができた。全て事実であると認めよう。」
「なっ!待ってください、父上!そんな筈はありません!僕はやってないです!信じてください!」
ウィスザール殿下は、膝を床につけつつも、最後の力を振り絞って無実を訴える。
「まだ己の失態を認めぬか。いい加減にしろ、ウィスザール。証拠は全て整った。本日を持って王太子の地位を剥奪、王家からも除名する!」
ウィスザールは最後の希望もなくなり、力尽きたようにその場でぶつぶつと言葉を発する。
「嘘だ、嘘だ…僕が王太子で、後に王になるんだ…除名なんてありえない…こんなことあっていいはず無いんだ…」
「くどい!詳細な処分は後に考える。それまでは地下牢で反省するのだ。連れて行け!」
会場に控えていた騎士はウィスザールの両腕を掴み、引きずるようにして会場から連れ出した。
ウィスザールは抵抗する素振りは見せなかったものの、項垂れるようにしてブツブツと"俺はまだ王族だ…次期王になるんだ…"などの発言を自分に言い聞かせるように繰り返した。
「皆、騒がせてしまった。私は対応のために席を外すが、皆は気にせず交流を楽しんで欲しい。それでは失礼する。」
陛下は言葉を残すと会場を後にした。
エリーゼとリアーナ、舞台を手伝った人達も皆会場から密かに姿を消した。
こうして浮気をした男への復讐劇は幕を閉じた。
会場を出た姉妹二人は夜空の下で向き合い、喜びを分かち合うように微笑みあう。
「お疲れ様でした。姉様。」
「えぇ、お疲れ様。リアーナ。」
その日の夜は綺麗な満月で、二人のこれからを応援しているようだった。




