復讐の始まり
ついにやってきた、姉妹のウィスザール殿下やり返し作戦決行の日。
「さぁ、やるわよ。リアーナ。」
「はい、お姉様。女性を軽んじるなど言語道断!必ずや成功させましょう!」
エリーゼとリアーナは互いに向き合い、頷きあった。
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ここは王家が主催する夜会の会場。
国内の貴族が交流を深めるために大勢集まっている。
また、国の代表として他国の貴族も招かれている大規模な夜会である。
今宵はダンスが始まる前に、エリーゼが演奏を披露することもあって、皆がどこかワクワクした表情を浮かべている。
まずは、国王陛下の言葉が始まり、各王族の紹介が行われた。
「皆、楽しんでくれ。乾杯!」
「「「「「乾杯!!」」」」」
そのまま談笑の場へと移行すると誰もが思っていると、会場のどこからかピアノの音色が聞こえてきた。
美しい月が湖に写し出させれて、幻想的な風景が思い浮かぶ、どこか儚げで静かな曲であった。
その演奏をしているのは皆が期待していたエリーゼである。
ざわざわした空気が段々と浄化されていき、ピアノの儚げな音色のみが聞こえる静けさになった頃、舞台にはもう一人の令嬢が現れた。
エリーゼの妹、リアーナだ。
リアーナは中央までやって来ると、マイクを手に取り話し始めた。
「皆様、御機嫌よう。アンライン伯爵家令嬢のリアーナ・アンラインと申します。」
リアーナは軽く会釈をする。
「そして、ピアノを演奏しておりますのは、我が姉であるエリーゼ・アンラインでございます。今宵は皆様にとって忘れられない夜会となるでしょう。」
彼女は満面の笑顔を貼り付けて宣言した。
「さぁ、ショーの始まりですわ!!」
(殿下、あなたは今日で社会的に失墜しますわ。私達を騙した罪です!首を洗って待っていなさい!)
彼女は両手を広げると、ピンク色の可愛げな雰囲気を持つドレスから、一瞬にして身体のラインに沿った黒色のマーメイドドレスへと早変わりした。
それと同時にエリーゼのピアノの音色も静かな曲から、軽やかな曲でテンポが速く、どこからか手拍子が始まりそうなぐらいの愉快な曲に移り変えた。
その変わりように会場の皆は、驚いた顔を浮かべた。
リアーナは一歩前に出ると、目が笑っておらず、何かを企んでいるような笑顔を浮かべて話しだす。
「これから始まりますのは、あるお方に関する情報の競り合いですわ!」
会場では、"情報の競り合い"というキーワードの意味が理解できず、頭に"?"を浮かべる人が続出する。
「情報を競り合うって物がないオークションってこと?」
「一体なんのメリットがあるんだ?」
そんな会場の雰囲気を解決するように、リアーナは続けて話す。
「競り合いで見事、落札した方には情報をお渡しします。こちら、皆様に開示して情報を全て共有するのもあり、後に揺さぶるために自分の手札として手元に残して置くのもあり、自分の情報だったから隠しておくのもありですわ。大枠の情報は最初に開示しますが、落札した方にはより詳しい物をお渡しします。」
会場ではまたも驚きの雰囲気になるが、何が始まるのかと不安な空気から、どこか楽しげな空気に変わりつつあった。
「これを落札すれば、唯一詳細な情報を持っているため沢山の方が真相を求めて集まってくるでしょう。交友を広げるチャンスかもしれません。注意事項として一人一回のみの落札でお願いしますわ。
ちなみに、あるお方のお名前は全ての情報を出し終わりましたら発表いたします。支払われたお金は、我が商会が責任を持って民の暮らしに還元いたしますので、そこはお気になさらず。」
「それでは皆様、準備はよろしいでしょうか?」
リアーナは、ニアリと不気味に笑う。
娯楽が少ないこの社会では、話題になる情報は貴族達の楽しみの一つであり需要がある。そこに目をつけた彼女達は、情報の競り合いを思いついたのである。
公の場で大枠を流すことで、その人のみからしか正確な情報が得られないと印象付けられ注目が集まる。逆に他の人が調べて同じ情報を得たとしても、二番煎じで疑いの目に晒されるのだ。
そのため、これから示す情報には価値が付く。
ちなみに混乱が起きないようにエリーゼの伝手を使い、一部の信頼できる貴族には根回し完了済みである。
「さぁ、それでは第一の情報についてですわ。こちらは女性関係でして、ある方が一度での最大浮気人数が何と〇人だったとか。競り落としていただければ、人数や行動パターンなどの詳しい情報を提供いたしますわ。ちなみに誰のことかは最後に発表いたしますから、心あたりがある方は情報をお買い上げいただき闇に葬ることをおすすめしますわ。」
「それでは最初は一万リーンから!」
会場の貴族達は、楽しそうだと気軽な気持ちで考えていたら、話題の大きさに驚き、頭がついて行っていない方が多数。
根回し済みの貴族も、ここまで大事だとは知らず、驚いてる模様。
競りが始まったが、皆どのように動くべきか周りの様子を伺うように視線をずらす。
そんな中、まず始めに手を挙げて声を出したのは、驚きからいち早く復活した、カブァブ公爵夫人だ。
ちなみに夫人には、女性を悲しませた男性を社会的に抹殺したいと協力を依頼済みだ。
公爵が一度浮気をして、夫人の誕生日をすっぽかした事があり、それ以来彼女は公爵を尻に敷いている。
だから、女性を悲しませる事に関して、敏感なのだ。
そんな彼女は口元を隠すために開いていた扇をパンッと音を鳴らして閉じ、手を挙げた。
「一万五千リーンですわ。」
「さぁ、出ました一万五千リーン。皆様様子を伺っているようですが他に落としたい方はいらっしゃいませんか?」
「二万リーンだ!」 「三万リーンですわ!」
公爵夫人が乗り出した事で有用性が認められ、他の貴族達も競りに参加し始めた。
十万リーンになった所で競り合いが落ち着き、リアーナは会場を見渡す。
「では、誰もいないようですので最初の情報は、十万リーンで落札!おめでとうございます。」
リアーナは手を二回叩く。
すると舞台袖から女性が封筒を持ってやってきて、落札者へ手渡す。
落札者は、伯爵夫人である。
彼女は娘が最近理不尽に婚約破棄をされており、女性を蔑ろにする男性に怒りを抱いているようだった。
そんな伯爵夫人は封筒を受け取り、中を見ると、一瞬目を見開き、驚きの表情を浮かべたが、すぐに元の顔に戻した。
封筒の中には、最大浮気人数が八人であること、今まで付き合った人は二十人以上。その証拠と具体的な密会場所まで示していた。
以前まで貴族達は政略結婚が当たり前だったが、婚約破棄や結婚後に関係が破綻することが多くなり、最近では婚約前に恋人期間として交際をし、相性を確かめる事が流行りとなっていた。そして、王家も側妃や愛人による政治的混乱の可能性を低くするために、恋人期間を密かに採用していた。だが、恋人期間としての交際も多くて十人ほどが限度であり、それ以上多くなると人柄に問題があると周りから認識されるのである。
だから、二十人以上という数の異常性を理解するのは容易かった。
驚きの表情を一瞬見せた伯爵夫人の様子を見て、周りの人はヒソヒソと話し出す。
「他人を貶める為の嘘に敏感で、いつも口を出す夫人が、何も言わずに封筒を閉じたぞ。」
「つまり、夫人も認めるほどの情報で、真実だと分かるぐらい沢山の証拠があったってことだわ。」
「一体、どんな情報が書いてあったのかしら?後ほど話しかけに行きましょう。」
「浮気をしていた人数は一体何人なのだろうか。そして、一体誰についての情報なのだろう…」
「少なくとも、公爵夫人が落札に名乗りをあげ、あの伯爵夫人が何も言わないということは、情報は確かなものだと言う事だわ。次は落札に参加してみようかしら?」
周りの反応は色々であった。
リアーナは、その様子を見ながら事が上手く進んでいるのが嬉しくて僅かに微笑んだ。
「それでは次の情報に行きましょう。続いては、"隠し子が〇人いる"です。こちらは、先程よりもさらに衝撃な情報でしょう。最初は五万リーンからですわ!」
先程の情報の反応もあり、貴族達は次々に名乗りを挙げた。
そして、最終的な落札額は百万リーンに。
落札者は、社交界で女性のトップである王妃だった。
一応彼女にも情報については詳しく話していないものの根回しはしていた。勘のいい彼女の事である。情報による危険を感じて落札したものと考える。特に王族の隠し子ともなると、継承権の問題もあり速やかに対処しなければならないのだ。
王妃の所へ封筒を持って行く。
彼女は内容を見ても、あまり驚いた表情は見せなかった。
だが、商人として観察眼に優れたリアーナは、僅かに指先が動いて動揺していたのを見逃さなかった。
(流石は王妃様ですわ。事前に催し物をすること、王家に関わることというのはお姉様が説明していましたが、予想以上の内容に動揺を隠せないようですわね。)
(きちんと王家への反逆の意思はないと伝えておいて正解でしたわ。)
渡した封筒の中には、隠し子が七人いると書いてあった。
そして誰もが子を宿した事に気付くと、殿下が直ぐに別れろと迫り、端金を渡して姿を消したという。
しかも後に声を上げられるのは面倒だと判断し、おかしな行動をとれば命は無いと思えと脅していたとのこと。
そして、舞台に登場している者は皆かつての恋人であり、中には母となった人もいると書いておいた。
隠し子がいることは、最初の情報から分かってはいたが、その後の対応が最悪だったこともあり、王妃は驚きを隠しきれなかった模様。
リアーナは、王妃の反応を見て止められることは無いと確信し、続きを行った。
ちなみにエリーゼは、この間も様々な曲をピアノで弾き続けている。会場が盛り上がりを見せている要因の一つとして、エリーゼのテンポが速い曲に乗せられ、気分が高揚している事が挙げられる。
「さぁさぁ、盛り上がって参りました。落札した方の反応を見ても、どれだけ衝撃で有意義な情報だったかを判断できるかと思います。続いての情報を手にするのは果たして誰なのか!皆様張り切って参りましょう!」
「三つ目の情報は、"裏金を作って、そのお金は〇〇へ消えている"です。先程までの恋愛系情報ではなく、今度は政治系の情報となりました。是非、詳細な情報をお確かめくださいませ。」
「最初は、三十万リーンからですわ!」
遂に三度目の競りが始まった。
既に二つが終わった事もあり、会場にいる者はこの状況に慣れてきた模様。今までは、上級貴族の参加が多かったが、資金に余裕がある下級貴族も競りに参加しだし、さらに盛り上がりを見せ始めた。
そして、これらの情報は一体誰のものなのかと考え始める者も現れた。
落札額はどんどん釣り上がり、最終的には二百万リーンとなった。
これを落札したのは、実績をあげて貴族となり、最近陛下も目をかけているという、所謂新興貴族の男爵だ。
彼に渡した詳しい情報には、水増し請求をして裏金を作り、ギャンブルのお金へと消えていっていることが書かれており、その証拠として裏帳簿や行動履歴等が付けてあった。
男爵は驚きつつも、直ぐに頭を切り替え、有益なパイプを作るために信頼できそうな高位貴族へ情報を共有しに行っているようだ。
一方この頃ウィスザール殿下は、いつもと変わらない平然とした態度で事の成り行きを静観しているようだった。
傍から見れば、緊急の自体にも物怖じせずに泳がせる立派な王族である。
(殿下は静観しているようだけれど、ご自分の事だと理解しているのかしら?)
エリーゼは演奏をしつつ、チラッと殿下を見て思うのであった。
「続いて第四の情報は、"執務は奴隷に〇割やらさている"ですわ!」
他国では奴隷制度がある国もあるが、この国では奴隷を持つこと、取引することは禁止である。そのため、奴隷というワードが出てきただけでも、貴族達はかなりの衝撃を受けていた。
「さて、こちらは具体的な割合や案件名も提供いたしますので、高めの設定です。最初は百万リーンから。」
先程、情報を手に高位貴族へと接触した男爵の使い方を見て有益性を実感し、競り合いはヒートアップした。そして、最終落札額は三百五十万リーンとなった。
落札者は、歴史は長いが政治の中枢には入らず、領地経営をきちんとしている伯爵であった。
彼は、領地経営の手腕だけでなく、かなりのお人好しで有名であり、奴隷というワードでそのお人好しセンサーが反応した模様。彼は封筒を受け取り中身を確認すると、関わった具体的な案件の数や重要性に目を見開いて衝撃を受けているようであった。
第四の情報を聞いた殿下は、ようやく自分が条件に当てはまっている事に気づいたのか、眉を少しだけ吊り上げて不機嫌そうな顔をしだした。
「さぁ、皆様これが最後の情報です!これまでお付き合いいただきありがとうございます。最後は、"〇歳からの功績全て兄弟が行っていたものを自分のものとして横取りしている"ですわ!」
「まずは、二百万リーンから!」
最後という事もあり、競りもヒートアップしていく。
そして最終的には第一王子であるウィスザール殿下と公爵の一対一になり、値段が上がっていく。
「一千万リーン!」
「こちらは、一千五百万リーン!」
「一千五百五十万リーン!」
「一千七百万リーンだ!」
「一千七百万リーンとなりました!他に名乗りを上げる方はいらっしゃいませんか?」
会場は熱気に溢れているが、なぜかシーンと静かになった。
「それでは、一千七百万リーンで落札です。」
ウィスザール殿下と公爵の一対一は、公爵が勝利をした。
公爵は、宰相もしており、領地もきちんと運用しているためお金をきちんと確保していた。
一方殿下は、きちんと予算はあるもののギャンブルなどでお金を沢山使っていることもあって、公爵の財産には届かなったようだ。
殿下は、唇を僅かに噛み、悔しそうな顔をしながら立っていた。
公爵は、詳しい情報を見た時表情を変えた。
封筒の中には、兄弟から奪った具体的な案件名が書かれており、宰相もしている公爵はその案件名を見たことによって誰の事が書かれているのか見抜いた模様。
「さぁ、全ての情報が出揃いました。これから、これらの情報が誰の事を指しているのか発表しましょう。」
「それは…」
今までエリーゼが弾いていたピアノの音が止み、会場も緊張に包まれて静かになった。
ゴクリ。と緊張した表情で舞台に立つリアーナを見つめる会場の人々。
そして、リアーナの空気を吸う音が聞こえ、声が響く。
「…この国の第一王子である、ウィスザール・ハミルトン殿下です!!!!」
リアーナやエリーゼ、舞台を手伝っていた被害者女性は皆やりきった表情をみせる。
そして、最後の締めの言葉と最高の笑顔と共にお辞儀をした。
「それでは、これにて幕を閉じさせていただきますわ。ご参加いただき、ありがとうございました。」
舞台に上がっているエリーゼやリアーナ、女性達はいつもと変わらない表情をしている一方で、会場は驚きの表情を浮かべている人々に埋め尽くされた。
口が開いて塞がらず、目が見開いた状態で固まっている人。
驚きのあまり扇子を落として固まっている人。
大物過ぎて顔が青ざめ、震えている人。
一瞬目を見開いたが、直ぐに元の表情に戻した人。
一件表情は崩れていないように見えるが手が震えている人。
今までの情報から目安をつけており、納得した表情を見せている人が少々。
当の本人であるウィスザール殿下は、何とか立ってはいるものの今にも倒れそうに顔を青ざめ、小刻みに震えている。
この場の最高権力者てある陛下は、何かを考える表情をしていた。
陛下が何も反応を示さない事もあり、皆はどのように対応するべきか分からず、会場は異様な雰囲気が漂う。




