とある疑惑
その後も二人が恋バナに盛り上がっていると、エリーゼ専属侍女のアンが声を挟む。
「お嬢様方、盛り上がっている所非常に申し訳ないのですが一点確認してもよろしいでしょうか?少々気になりまして。」
「えぇ、別にいいわよ。アンにもこれまで迷惑をかけてきたから…そのアンが気になるなら聞く価値はあると思うもの。」
アンは一呼吸おいてから言葉を発した。
「お二方とも、その彼のお名前を教えていただけないでしょうか?」
「えぇ、高貴な方で本名は教えられないけど、ウィルよ。」
「私も本名は出せないけだ、スザーよ。」
アンはその名前を聞いて考える素振りをみせる。
「アン、どうしてそんな質問をしたか教えてもらってもいい?」
エリーゼはアンに尋ねる。
「いえ、あくまで憶測なのですが、これまでのお話を聞いて、何となくお二方のデート内容や言葉選びなどが似ている気がしまして…もしかしたら、同じ方って可能性があるのではと思い質問させていただきました。ですが、こちらの杞憂でしたね。今までお二方は沢山のダメンズにあたりましたから、つい神経質になっていたのかもです。大変失礼いたしました。」
そう言うとアンは深く頭を下げた。
「大丈夫よ、アン。私達はそれぐらいで怒ったりしないわ。今まで沢山迷惑をかけてきてしまったから、神経質になるのも無理はないわ。気にしないで。」
「そうよ、アン。あくまで可能性として示してくれたのでしょう。私達を想っての言動だと分かっているもの。むしろ心配してくれてありがとう。」
二人はアンに声をかけた。
「あのー、私からもよろしいでしょうか?」
今度はリアーナの専属侍女である、リンが声をかけた。
「うん。大丈夫よ。何かしら?」
「非常に言い難く、こんな事を言っていいのかすら分からないのですが…あくまで、ここだけの秘密のお話として聞いてくださいませ。
もしかしてなのですが、お二人のお相手…
ウィスザール・ハミルトン殿下ではありませんか?
この国の第一王子の…
いや、まさか。そんなことはありませんよね。なんとなく愛称を聞いて、そうかなーと思ったのですが…そんな訳ありませんよね。そうですよね。失礼な発言。大変失礼いたしました。」
リンは深く頭を下げ、顔をあげるとカップを持ったまま固まっている二人の姿が目に入った。
アンは、そんな二人に問いかける。
「えっ。そんなことありませんよね。なんか、図星みたいな感じで固まっていますが、そんな方が気軽にデートするはずありませんもの。ですよね!ね!お二人とも!」
いち早く動き出したのは姉のエリーゼ。
エリーゼは、ゆっくりカップを置くと、侍女の方へ向き、驚きを隠せないような顔をしながらコクンと首を縦に振る。そしてリアーナの方へ向き直す。
しばらくすると、フリーズしてたリアーナも動き出す。
彼女は、カップを持っている手が震えて今にも紅茶を零しそうになりながら、首を全力で縦に振る。
そんな二人の様子を見て、侍女二人は驚愕のあまり口が半開きになっている。
この空間だけ、異様な雰囲気に包まれた。
一人は、驚きのあまり目を見開いたままフリーズ。
一人は、全力で首を縦に振り続けている。
一人は、驚きで口が半開きのままフリーズ。
一人は、一瞬、口を半開きにして固まったが意識を取り戻し、こぼれた紅茶を無心に拭いている。
この異様な空間を壊したのは、口を半開きのままフリーズしていた侍女のアンである。
「皆様、現実に戻って来てください!現実逃避している場合ではありませんよ!」
彼女はそう言うと、手をたたいて大きな音を鳴らす。
皆はその音を聞いて、ハッと我に返ったように元の状態に戻る。
「皆様、一度深呼吸しましょう。はい!吸ってー、吐いてー。吸ってー、吐いてー。うん。バッチリです。では、状況の整理に参りしょう。」
アンのお陰で、落ち着いた空気を取り戻した。
「まず確認なのですが、お嬢様方の反応からして、彼とはこの国の第一王子であるウィスザール・ハミルトン殿下ということで間違えありませんか?」
エリーゼとリアーナは首を縦に振る。
「では、便宜上"彼"という表現のまま質問を続けますが、お二人の彼は、本当に本人なのでしょうか?身分を偽っていて、そっくりさんや名前が同じだけという可能性はございませんか?まずはエリーゼお嬢様からお願いします。」
「えぇ、本人で間違い無いわ。髪色は魔道具で変えていて、王家特有の金髪ではなく茶髪だったけれど、王家の紋章が入った懐中時計を見せてもらったわ。同じ年頃で第二王子殿下もいらっしゃるけど、今は隣国へ留学中ですから下町に居るはずがないもの。」
リアーナとアン、リンはこの言葉に納得し、うんうんと頷いた。
「確かに、エリーゼお嬢様の情報だと、ご本人で間違い無いですね。以前のお話で、その方とはお嬢様が息抜きに下町にある噴水広場でギターを演奏した時に出会ったと仰っていましたから、まさか王子殿下だとは思いませんでした。では、次にリアーナお嬢様はいかがでしょうか?」
「私も本人で間違い無いわ。髪色は、魔道具で変えていて金髪でも茶髪でもなく黒髪だったけれど、お姉様と同じ紋章付きの懐中時計を見たわ。」
この話を聞いて、皆はグレーから真っ黒に変わったと確信した。
『はぁー』
4人は一斉にため息をついた。
侍女アンは言う。
「またですか…」
侍女リンは言う。
「またですね…」
エリーゼは言う。
「身分もしっかりしているし、今度こそ大丈夫だと思ったのに…」
リアーナは言う。
「まさか同じ人に引っかかっているとは…不覚」
4人はまた一斉にため息をつく。
『はぁ〜』
「リアーナ、念のため聞くけどまだ彼を愛するつもりはあるかしら?私は自分だけを見てくれる誠実な人と結婚したいから彼はもう無理。」
「私もです、お姉様。浮気をする人なんて論外ですわ。」
エリーゼとリアーナはお互いの意思を確認し、見つめ合って頷く。
「さぁ、今回も騙してくれた相手には敬意を払わないとね。私はやられっぱなしは嫌だわ。手伝ってくれるかしら、リアーナ、アン、リン?」
「もちろんですわ、お姉様!お互いの為ですもの!」
「えぇ、もちろん今回もお手伝いいたします。」
「お嬢様方を騙すなんて許すマジです!」
こうして4人は、元凶であるウィスザール・ハミルトン殿下にやり返すため動き出すことを決意した。
エリーゼとリアーナは、裏切られたことによるショックは受けたものの、それ以上に殿下に対する怒りが大きく、その場で泣くことは無かった。
ただ、二人はお茶会後にそれぞれの部屋へ戻ると現実感が増して朝まで泣きじゃくったとのこと。
翌朝はスッキリした顔のお嬢様方と目が予想以上に腫れていて驚きつつも、しょうがないなぁとお世話をする侍女達が居た。




