7.放課後デート?
「お~い、植田。帰ろうぜ。」
「お~。」
右手を挙げて応える。こんなやり取りも実は3回目。
俺たちは着々と『放課後デート』なるものをこなしている。
*
一緒に帰る約束をした初日。
浅間は俺を連れてファストフード店に立ち寄った。
「腹減ったよな?」
と聞かれて、
「めちゃめちゃ空いてる。」
と答えた俺に、
「放課後デート初日だから、彼氏さまが奢っちゃる。」
と言って、本当にバーガーセットを奢ってくれた。
「チョイス微妙じゃん?デート初日にバーガー?」
って聞いたら。
「友達距離感だろ?」
と言われた。
正直、恋人というよりは友達感覚に近かったから、「サンキュ。」とだけ返してバーガーにカぶり付いた。
肉厚で美味かった。
食べながら駄弁る。
多少の行儀悪さはお互い様とばかりに馬鹿な話をして笑い合った。
こんなに話が合う奴だったか、と内心驚きながら、頷き返してくる浅間の笑い顔に俺も同じ笑顔で返した。
「俺、英コミュ苦手。って言うか英語全般ダメ。分かんないんだよな。」
「え、でも植田って英語の成績良さげだけど。」
「予習してんの。俺、昔から授業中によく当てられるんだよな。だから予防線張っておく。」
「なるほど。備えあればってヤツか。」
「そうそう。それに、英語の授業って言えば浅間も成績良いだろ?お前いっつも成績上位者じゃん。」
「はは、それこそ知らなかったのか?俺、帰国子女。スピーキングは結構得意。」
「ええ~、ズルいな、それ。」
同じ学校の同じクラス。話題は結構豊富にあって、次から次に出てくる。
「ほら、クラスの後ろの掲示版に貼ってあったじゃん。あれ、知ってた?」
「俺、清水から聞いた。」
「何だよ、俺にも教えてくれよ。」
昔からの友達みたいだ。
あんなに1軍男子って苦手だな、なんて言ってたのに。話してみたら良い奴、とか。
やっぱりちょっとズルい。
買ったドリンクに入ってた氷が無くなるぐらいまで話をして店をでた。
ブラブラ歩いて駅に着く。
「俺、電車通。」
「俺も。でも植田はこっちだろ?俺反対方向なんだよな。」
「何で知ってんだよ。」
「ほら、俺、彼氏さまだから。」
ニヤっと笑って浅間は改札を通る。
左右に分かれた階段が現れて、俺たちはここでサヨナラだ。
「今日はありがとう。奢ってもらったし。」
「ん。」
お互い向き合って話す。浅間は俺より頭一つ背が高い。
それもまた1軍男子っぽくて妬みの対象だったはずなのに、今は「背が高くてかっけーな」なんて普通に思える。
「あのさ…。今日、楽しかった?」
浅間が少し小さな声で問いかけてきた。周りのざわめきにかき消されて聞こえにくい。
「え?何だって?」
俺が少し浅間に身を寄せたのは、声が聴きとれなかっただけで、何の意図もなかった。
それでも俺が少し近づいただけで、浅間は嬉しそうな顔をした。
「だから…放課後、楽しかったかって聞いたんだよ。」
「あ、ああ。それは、楽しかった…よ。」
浅間が俺の顔を覗き込むようにして話す。これだけ近かったら声も聞こえる。
あ、これは友達距離感じゃねーな。なんて漠然と思いながらも俺は動くことをしなかった。
「良かった……。また明日も放課後デートしようぜ。」
それが本当に嬉しそうな顔だったから、俺も何となく首を縦に振って頷いた。
顔が赤くなってそうで、掲示板を見て、急ぐフリして手を挙げた。
「あ、電車来る。じゃ、またな。」
「ああ、また明日。」
後ろを振り返らずに階段を昇ったけれど、あの時浅間はずっと俺の後ろ姿を見ていたんじゃないかと、そう思えた―――。
それから毎日一緒に帰っている。
浅間は『放課後デート』なんて言ってるけど、男友達と帰るのと何ら変わりがないような気がして、俺の警戒心も緩む。
ただ、決定的に違うのは、別れ際は何だかちょっと妙な雰囲気になる事だろうか。
お互い話もせずに、一瞬沈黙が落ちて。その後はいつも通り。
何も無かったように、話の続きをしながら、俺は何か変だな?と思う。
それでも、2人の間にある緊張は突いてはいけない藪のようなもので。
俺は何も気づいてないかのようにスルーする。
「今日はどうする?」
そう言って俺の顔を覗き込んでくる浅間に、ほんの少しドキリとした事を気取られないようにする。
きっと今日もまた浅間はジッと俺を見ているだろう。
俺が階段を昇り切るまでジッと。
姿が見えなくなるまでずっと。
その場に立っているだろう。
俺は後ろを振り返らずにそのまま帰る。振り返ってしまったら、本当に恋人同士の『放課後デート』になってしまいそうだから。
打ち上げの余興だろ。
俺もあいつも。
きっと雰囲気に流されているだけだ。
そう思いながら答える。
「そうだな…今日はどこがいいかな?」
俺の答えに嬉しそうに笑う浅間の顔を見て、俺も無意識に笑みを漏らした。




