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目を閉じてキスをしたら、ば。  作者: さくらスミレ


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6.友達≫≫恋人



「じゃ、恋人の植田くん、改めてよろしく。」


そう言って差し出された手を、胡乱げに見る。

そんな俺の冷たい目線にも動じないでジッと待つ浅間のメンタルは強い。


昼休み、突然連れ出された先は誰も利用していない理科準備室だった。

普段は鍵がかかっていて入れないはずなのに、何故か準備室の鍵を持っていた浅間は慣れたように鍵を開けた。


「お、おいっ、ここって鍵かかってるはずじゃん。何で鍵持ってんだよ。」


「まぁね、色々ツテもあったり?」


浅間はそう言ってニヤリと笑った。そうして手を差し出したのだ。


「そんな顔でまた見る。俺、彼氏だろ。」


「不本意ながらな。」


嵌められたような気分になりながらも、購買のパンの数々に買収されたのは確かなので俺は渋々浅間の手を握った。


「……よろしく。」


その言葉にニッコリ笑う。

悪魔のような笑みだ。


「大体何で俺?」


「何でってキスしたじゃん。」


「キ、キ、キスって。アレは不可抗力だろう。大体、お前があの時動かなきゃ頬に触れる位で済んだんだ。事故だ、あんなの。」


キョドってアタフタする俺をジッと浅間は見つめる。その視線に更に恥ずかしさがこみ上げる。


「な、なんだよっ。」


「いや…もしかして、植田のファーストキスだったりして~とか思っちゃって。」


「ばっ、ばっかっ。そ、そんな訳ないだろっ。」


「だよね~。今どきの高校生だもんね。キスの経験の1人や2人。」


「お、おうっ。」



マズイ、マズイ、マズイ。

あれが俺の正真正銘のファーストキスだなんてコイツに絶対バレたくない。

バレたら何を言われるか。いや、誰にバラされるか分からない。


そう思った俺は必死に平常通りを装い、それがまた挙動不審さに拍車をかけていたなんて思いもよらない。

浅間の生温い視線を躱すことに精一杯だった。


「まぁいいか。俺、植田の彼氏だし。」


浅間の頭の中で何か決着を見たのか、浅間はそれ以上俺にその話題を振らなかった。

その代わり、握られたままだった手をぶんぶん振られた。


「わっ、わわっっ。」


その余りの勢いにちょっとビビる。

何を考えているのか分からない所もまた怖い。


「ちょ、ちょっと浅間。止めろって。」


「あ、ごめん。何か嬉しくなってさ。」


「はぁ?さっきも聞いたけど、何で俺に構う訳?あんなん打ち上げの余興なんだし、一日経ったら過去の事で無視すればいいじゃん。」


俺の言い方はハッキリ言って不快感を与えるようなものだったけれど、そんな俺の言葉にも浅間は怒らずニコニコしている。

相手が嫌がっているのがわかっているのに笑顔でいられるのもまた俺が浅間を苦手とする所だった。


「俺、植田とずっと話したいと思ってたんだよね。友達になりたいって思ってたんだ。」


言われたのは思いもよらない事。

あんなに周りを陽キャな友人に囲まれて、これ以上何を望むんだよ。

俺はあの輪の中に入りたくないからな、と咄嗟に思った。逃げられるものなら逃げたい心情だ。


「友達なら別に付き合わなくてもいいじゃん。」


「そうだけどね。まぁ、これは余興の一環って感じ。」


「え?って事はお前も実行委員に嵌められたクチ?」


意外だ。

俺みたいにモノで釣られたんだろうか。


「俺は購買のカツサンドとコロッケパン、チョココロネを2週間で手を打ったんだけど。浅間は?」


「う~ん、まぁちょっとね。でも、あぁ、植田ってパン好きだもんな。」


「何で知ってるんだよ。」


「俺、君の彼氏だし。」


「気持ち悪いからそう言う事いうなって。」


「酷いなぁ~。」


浅間も実行委員から頼まれて偽装させられてると分かったら、途端に気が楽になる。

あんなに2人でいるのが暇しいと思っていたのに。まぁそれでも若干の苦手意識があるのは、やっぱり属しているグループが違うからだろうか。


「そう言う事ならさ、付き合うのもフリだろ。たまに一緒に帰るとかでいいんじゃないか?」


「植田、それで購買パン3個(×2週間)ももらって心が痛まないのか?」


浅間に指摘されてウッっとなった。

確かに購買で常に人気なパンでもあるカツサンドたちを2週間も貰う手前、たまに一緒に帰るって位じゃ割に合わないか。

生憎、それで良しとするほど性格ナナメなわけでもないし。


「な、流石に罪悪感あるだろ。」


浅間にそう言われて顔を覗き込まれた。

図星なだけにその視線は気まずい。


「……だったらどうすればいいんだよ。」


不貞腐れた顔で呟けば、浅間はそんな俺を見ながら笑った。


「ま、そんなに深刻に考えなくてもいいんじゃない?恋人って言ったって世の中には色んな距離感の恋人もいるわけだし。俺と植田の”恋人としての距離感”を探ってみればいいだろ。」


「2週間だけなのに?」


「そ、期間限定だってさ。折角だろ。」


「折角ねぇ。浅間ってやっぱり陽キャだな。」


「何で?」


だって期間が決まってるなら、無難に過ごせばいいじゃないか。

敢えて飛び込んで、新しい関係を築くなんて面倒臭いし、上手くいかなかった時凹むじゃん。


俺みたいに対人スキルが壊滅的に低い陰キャはそうは考えないんだよ、とは言えなくて曖昧に「何となく」と答えた。


「だからさ、植田は植田で俺との恋人としての距離感を取ってくれればいいし、俺は俺で植田との恋人としての距離を取るつもりでいるって事でいいかなって。」


それなら出来るだろ?と笑いかけられて思わず顔が赤くなる。

イケメンの笑顔は人たらしだな。


「うっ…わかった……。」


「うしっ。じゃこれからそういうスタンスで。」


浅間はそう言うと、徐に俺の肩に腕を回して引き寄せる。


「うわぁ。ちょっと、近いって。」


「えーこれが俺の考える植田との距離感なんだけど。」


「いやいや、近すぎ。俺的にはもう少し初心者的な、友達距離感でお願いします。」


「ぶぶっ。友達距離感って。」


またしても浅間の笑いのツボを押したのか、浅間は俺の前で爆笑している。


今のところ、俺の中で浅間は友達成分多めな恋人の位置にいるようだ。

これが変わっていくのかは分からないけれど、昨日よりも親近感の沸いてきた浅間への気持ちは割合悪くない。

少なくとも朝よりはずっといい。


「じゃ、そう言う事で。今日は一緒に帰ろうぜ。」


浅間は悪戯するように俺の髪を撫でつけ、項に手を伸ばしてからニヤリと笑った。



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