5.俺の彼氏(期間限定)
次の日の目覚めは最悪。
あの時の、女子のキャーという、もうそれは叫び声のような絶叫が耳に残って一晩中眠りが浅かった。
うつらうつらすると、女子の声と共ににっこりと笑った浅間の顔が浮かんできて、もうそれはホラーだ。
「うっ…俺が何したってんだ。」
ヨロヨロと登校しているとチラチラと視線を感じる。
普段、モブ顔の俺に視線なんて全く向けられないのに今日は頻繁に顔を見られる。
ああ、これってもしかして。
なんて思ってたら後ろからドンと誰かに体当たりされた。
「おっはよ。」
「……はよ。」
聞き覚えのある声にその相手が知れた。
「え、何その嫌そうな顔。」
昨日と同じ爽やかすぎる笑顔の浅間がいた。
浅間はさも当たり前のように俺を隣に肩を並べた。
そりゃ、嫌な顔にもなるだろう。
俺のファーストキス…もちろんあくまで事故だけれど、を奪ったばかりか、何故か勝手に彼氏認定された浅間に、何故にこやかな笑顔を返さなければならないんだろう。
「そんな義理ないだろう。」
「ええっ、仮にも彼氏に向かってその顔はないでしょう。ないない。」
その軽い返しにもイラっとする。
普段、俺は目立ちもしないが、日陰でひっそりと暮らしている訳でもない。
それなりに友達もいるし、1軍男子ではないけれど適度に身だしなみにも気を遣う平凡男子だ。
クラスでも中心的なグループに属してる浅間とは接点などないが、それでもそれなりに学校生活は楽しんでいた。
それが、昨日の一件で俺と浅間の間に接点が出来た。
俺が望んでなどないのに。
そんな思いが俺の浅間に対する態度に現れてしまったんだろう。
でもそんな事知るかって感じ。
つい、フンと無視する感じで教室に向かおうとすると、慌てたように浅間に腕を取られた。
「ちょ、ちょっと待てって。話っ、話がしたい。」
「俺は話す事なんてないけど。」
取り付く島もない俺に浅間は困ったように笑う。
ほら、そんな顔しても何か胡散臭い。
俺にしては怒りのゲージが持続して、中々浅間に対して態度を緩める事が出来ない。
「俺には話す事ないし。っつうか、話したくないし。」
キツい言葉を返すと、浅間の力が緩んだ。
バッと腕を振り払うと振り向かずに走る。後ろで「待てって。」と浅間の声が聞こえたけれど、構わず走った。
待つ必要なんてないじゃんか。
昨日のあれは打ち上げのお遊びだし、クラスのみんなだってそういう認識だろ。
そこに俺と浅間が仲良く一緒に登校なんてしてみろ。何を言われるか分かったもんじゃない。
追ってくる足音なんて聞こえないのに、割と本気で走って教室に滑り込む。
ガコンと少々手荒に椅子に座ると、周りがビックリしたような顔で俺を見た。
何だよ、こっち見んじゃねぇよ、と怒ったような目で周りを見ると、みんなちょっとバツが悪そうな顔で視線を逸らした。
早速昨日の打ち上げ実行委員が俺の席にやってくる。そのニヤニヤした顔に腹が立つ。
「おはよう。って何怒ってるの植田?」
「怒ってねーし。」
「いや、怒ってるでしょ。まぁいいや。昨日はありがとな。お前のお陰でめっちゃ盛り上がったし、無事カップルも成立させられたし。」
「ヤラセじゃねーかよ。」
「いやいや、友達として協力してやっただけだし。」
実行委員の視線の先には昨日カップルになった内田と佐竹が仲良さそうに話している。
以前からよく話ているのを見かけたけれど、今日は2人の雰囲気が何となく違う。
そんな様子を見ていたら、まぁ俺もちょっとは貢献できたのか、なんて思ってしまった。
佐竹にも内田にも特に熱い友情を感じた事はないけれど、まぁ他人の幸せな姿を見るのは気分がいい物だ。
「で、お前はどうした?彼氏と一緒に登校しなかったのか?」
その言葉に再び俺の機嫌は急降下する。
誰が誰の彼氏だよ、と青筋立てて否定してやる。
「お前っ、知ってたんだろ。俺が浅間に……するって教えてやったんだろ。」
明確に『キスする』と言うのは何だか恥ずかしくてハッキリとは言えない。
ダサいけど、俺はそう言った恋愛には免疫がないんだ。勘弁してくれよ。
頬も赤くなってそうだけど、そこは不機嫌に睨み付ける事で反論を許さない。
すると俺の質問に実行委員は驚いたように答えた。
「えっそれはないって。盛り上がるかと思ってダメ元で声を掛けたら軽くOKしてくれてラッキーって。でもそれだけだって。事前に誰が浅間にキスする予定だなんて伝えてないよ。」
「え?」
「いやぁ、流石に男がキスするとは思わないだろうから、女子の名前出すかと思ったのに、まさかで当てるんだもんなぁ。植田への愛ゆえだな。」
ええ?誰がキスするか知らなかったの?
で、あんな風にアクシデントで唇にキスして、その上犯人当てちゃうって、何それ。
というか、愛ってなんだよ。消去法だろ、きっと。
そんな風に思っていると、教室の後ろのドアから浅間が入ってくるのが見えた。
チラっと目が合ったように思ったけれど浅間はそのまま自分の席へ移動した。いつものように1軍男子たちがその周りを囲む。
(ふん、さっきは話がしたいとか言ってたくせに。)
何故か裏切られたような気持ちになるのは何故か。首を傾げざるを得ない。
「あ~、彼氏やっぱり人気だね。」
「彼氏じゃないって。とういか、その設定続けないとダメ?」
「ダメ!すぐ別れたら、”あのゲームで上手く行ったカップルはすぐ別れる”とかジンクス付きそうじゃん。ダメダメ。植田、お前は暫く浅間と付き合う事。これは契約事項だからな。」
「契約って何のだよ。」
「お前と浅間が付き合うって事まで含めてのお礼って事。」
「え!それズルくない?」
「ズルでも何でもいいっ。俺の身になれよ。身銭を切ってジンクス切りしようとしてるんだぞ。ズルでもなんでも成就させるつもりでいるからっ。」
何がそれほど彼を熱くさせるのか。
俺が拒否すれば済む話ではあるけれど、話を弾ませて2人の世界を作る内田と佐竹を見てると何とも言えない気持ちになる。
俺がそれ助けるメリットとか、何かあるんだろうか?
「俺、それ得する?」
「するする。毎日購買で人気のカツサンド付ける。2週間。」
「2週間…カツサンド…。」
「じゃ、コロッケパンもつけてやる。」
「コロッケパン…。」
「えーい、これで最後だ。チョココロネも一緒でどうだっ。」
「乗った!!」
乗せられた感ありありで。俺はこいつの言い分を飲み、浅間と期間限定でお付き合いすることになってしまった。
「でもさ、それって浅間側は良いって言ってんの?男と恋人同士~なんて嫌がるじゃん、普通。」
「あ、それはもう事前にOK貰ってるから。おーい、浅間っ。」
遮るよりも早く、実行委員は浅間を大声で呼んだ。
気付いた浅間は直ぐに俺たちの席へやってくる。
朝のやり取りを思い出して酷く気まずい。
「や、やぁ。」
謎な挨拶をしてしまう。
途端、
「ぶぶっ」
浅間は噴き出して笑った。
「何だそれ。」
笑った顔は怒ってはいないようで、俺はホッとする。
「浅間、植田の許可は取ったから。良しっ、これで晴れてお前たちは恋人同士だ!」
「りょーかい。よろしく、植田。」
「よ、よろしく?」
実行委員立ち合いの下、俺たちの交際(2週間)がスタートした。




