4.カップル成立(仕込みあり)
1人の女子が手招きされた。
照れて真っ赤な顔で向かった先は確か卓球部の佐竹の前。
そう言えば同じ卓球部だったなあの2人。
そう思って眺めていたら、実行委員がまた箱を持ってくる。
女子が引いて周りに見せると、周囲は「フォォ~ウ」と異様な盛り上がりを見せた。
紙に書かれたのは『ほっぺ』
ふうん、頬か。
ある程度仕込まれていたのか、女子は益々真っ赤になりながらもおずおずと佐竹の頬に顔を寄せた。
ドキドキとした雰囲気が伝染して、周囲はシンとなる。
ふ、と軽くキスしたようで、え?本当にした?って思ったけど、佐竹の顔が真っ赤になったから実際キスされたんだろう。
うわぁ、同級生のキス現場…ほっぺだけど…見ちゃったよ。
めちゃめちゃ恥ずかしくなって直視出来ない。
それは俺以外の男子も同じなのか、微妙な雰囲気が俺たちの間にはあった。
対して女子の盛り上がりたるや。
キャーって声と嬉しそうな笑い声。
実行委員は場を静まらせるので精いっぱいだ。
ようやっと静かになったところで佐竹にマイクが向けられた。
『佐竹くん、キスしたのはだーれだ?』
「う、内田……。」
『カラン、カラン、カラン、正解、正解で~す』
またしても凄い歓声。これ大丈夫か、苦情来ない?ってレベルで盛り上がる。
目隠しを取った佐竹は内田と顔を見合わせて照れくさそうに笑い合っている。
ああ、この2人の為の企画か、なんて思った。
残り4組になった段階で、1組辞退が出た。さっき浅間狙うって言ってた女子だ。組み合わせで当たらなかったらしい。
まわりからブーイングが起こる中、はぁ、とため息を吐いて待っていると、実行委員がやってきてコソっと言った。
「おい、植田。お前絶っっっ対に拒否すんなよっ。絶対キスしろ。」
「うえっっ、何でよ。」
「いいからっ。思ったより女子の嫉妬こえぇんだよ。な、頼む、頼むって。」
半泣きで言われて、焦る。理由は?と聞く前に実行委員は呼ばれて去っていった。
え?俺キスしなきゃいけないの?
壇上では前から噂のあった2人のキスが交わされている。
今回は額に男から。
これはシチュエーション的にいいなぁ、なんて思ってたら大変な事に気付いた。
残りは2組。浅間と可愛い女子。俺女子が良いな。それなら実行委員の『絶対キスしろ』にも軽くOKって言えるのに。
でもさ、ちょっと見てみて。キスする残りは男2人。座っているのは男1人に女1人。
さっきの実行委員の必死な様子を見れば俺の相手はきっとあっち。
え…やっぱり浅間? 俺、浅間にキスすんの?
その事実に思い至ったのは俺だけじゃない。
さっきまで微笑ましくカップル成立を祝っていた女子の視線が怖い。
え?俺にまで嫉妬する?
っていうか、俺が拒否ればよくない?
そう思って「辞退します」って言おうとしたら、実行委員がまた急いでやって来る。
「植田っ、お前がキスしろっ。これ、誰かが浅間にしないと後で女子の中で争いが起こるレベルなんだよっ。」
「え?そんなに?」
驚いたけれど、本人の必死さに真面目に言ってるのだと分かる。
「わ、わかったよ。じゃ、ギャクでな、やってやるから。ほんとお礼頼むよ。」
さっきまでのほっぺや額へのキスなら何とかクリア出来るだろう、そう思って俺は渋々請け負う。
仕方ない、これであいつにたっぷり恩を売ってやる。
そんな風に思って箱からクジを引く。
『ほっぺ』の文字が見えて、周囲も俺もほーっと息を吐く。
そりゃそうだ。何が楽しくて野郎同士のキスなんて見なきゃならないんだって思いながら浅間の前に立つ。
うわ、こいつの顔って目元覆ってあるのに整ってるって分かるな。やっぱり顔の良い奴は違う。鼻筋通ってるし、頬のラインとかシャープでカッコいいじゃん。
そうして、唇を見る。軽く結ばれた唇は薄っすら赤い。口にキスする訳じゃないのに、無駄にドキドキしてしまう。
ささ、とばかりに手で促されて俺はゆっくり浅間へ顔を近づける。
周りのざわざわとした騒音が次第に静かになっていき、それがまた俺に無駄な緊張を与える。
(何でみんな静かになんだよっ。もっとざわざわしてろよっ)
さっきの内田みたいに軽く、軽く。”ふ”って感じで。それで終わりっ。
そう脳裏で呟きながら頬に口を寄せる。浅間の身体に触れたらマズイからやや体勢は不安定だったが一瞬なら耐えられるだろう……なんて思っていたら急に浅間の顔が動いた。
ちゅ
(へ?)
可愛い音が俺の唇から響いて、俺は浅間の唇にキスをしていた。
「キャ―――!!!」
さっきの比じゃない嬌声が響いて、頭がグラグラする。
え、今って何?俺、浅間とキスしちゃった……?
頭の中は?マークばかりで一瞬惚けた後、実行委員がマイクを浅間に向けるのが見えた。
「俺にキスしたのは――――植田だろ。」
「へ?」
カランカラン、と鳴り響く当たりのベルの音。
俺の彼氏が出来た瞬間だった。
嘘だろ~~~!!




