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目を閉じてキスをしたら、ば。  作者: さくらスミレ


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13/16

13.元彼氏という立場としては。



次の日から、俺と浅間は行動を共にしなくなった。

今までは理由がなくとも一緒にいたのに、今は理由がないと話さない。

クラスメートは少しだけ戸惑い、何かに納得したように頷いてその姿は溶け込んだ。


1軍男子チームに復帰した浅間は、2週間のブランクなどなかったかのように以前と変わらぬ笑顔でそこにいた。

俺はその顔を盗み見て、あそこにいる浅間は何だか胡散臭いな、と思っていた。


俺はと言えば、2週間の空白はそれなり平凡男子にはそれなりに効いて、未だやや遠巻きにして見られる毎日。

ま、こんなもんだったと言えばこんなもんだ。


「あれあれ、何やってんの、植田?」


机に突っ伏して惰眠を貪っていた俺に話しかけてきたのは、あの実行委員。

あ、そうだ、こいつには聞きたい事あったんだ。


「なぁ、カツサンド。最後まで貰って良かったのか?」


こいつは俺と浅間が別れた後の残り2日。約束通りきっちり購買のカツサンドをくれた。要らない、と言ったのに「まぁまぁ」と何故か宥められて結局俺の腹の中に納まった。男子高校生の食欲はまだまだ旺盛だ。


「ああ、あれね。いいの、いいの。」


「ふぅん。」


その理由は分からないけれど、本人が良いならいいか、と眠気と共にぼんやりと考える。


「それより、お前こそいいの、あれ?」


そう言って顎をしゃくって示した先は笑い合う浅間と女子の姿。

この前俺の次に付き合ってもらうって言ってた女子だ。


「え~別にいいんじゃね。」


「え、めっちゃ塩じゃん。おまえの彼氏じゃん。」


「元だろ、元。」


そう、それに(仮)だ。


顔を埋めながらそう考える。

俺たちの付き合いは余興の一環だったし、それはこいつだって知ってるはずなのに。

今もって俺たちを恋人と考えるのは何でだろう。


「俺さ~。」


「ん~。」


俺の机の前の椅子に勝手に腰を下ろして俺のつむじを眺めながら実行委員は話し出す。


「俺、てっきり浅間と植田はそのまま付き合うのかと思ってた。」



「……俺たち男同士だけど。」


「関係ないじゃん。そんな今どき。」


「そっか。」


「そうだよ。」


突然どうしてそんな話をしだしたのか、不思議だ。

暫く何も話さないから、これで終わりかと思ったらまた話しだす。

このテンポが苦手だ。


「浅間はさぁ、いっつも笑ってんじゃん。人気者だし、1軍男子だし。」


「そうね。」


だからどうした?俺は平凡男子だけどな、と卑屈な俺が頭の中で言い返す。


「でもさ、いっつも楽しそうじゃないなぁと思ってたんだよね。男子といても女子といても。」


そう言われた俺は思わず顔を横に向けて腕の隙間から浅間の姿を捜す。

さっきと同じポジション。可愛いあの子と一緒に笑ってるけど。


「楽しそうじゃん。」


「そう、楽しそう。でも嘘くさい。」


初めて実行委員と意見が一致したように思えて、肩肘を立てて顔を上げた。


「分かる。」


「分かるだろ、彼氏さまなら。」


「だから、元だろ。」


「はは、そこ拘るね。」


拘るだろう、普通は。

少なくとも俺はちゃんとケジメは付けて別れたぞ。


憮然とした表情の俺を見て、実行委員はほんの少し声を潜めて話す。

とっておきを話すんだぞ、とでも言うように。


「何でも出来るんだって。やろうと思えば。」


「なに、浅間?」


「そう。そう言ってた。」


「はぁ~ハイスぺじゃん。」


「そう、ハイスぺなスパダリ。だから離しちゃダメよ。」


うふん、と気持ち悪い声を出して俺にウインクをする。

うえっ、と答えて笑う。

うん、こういう会話、ちょっと飢えてた。


「だからさ、植田の一生懸命な所、見ていて楽しいって言ってたよ、あいつ。」


(は?)


「い、一生懸命?」


「そう、一生懸命。どんな所が?って聞いたけどそれは教えてくれなかったからさ。ちゃんと聞いてみた方がいいよ。」


実行委員はそう言ってにやりと笑った。

今度こそ『とっておき』。


「俺の兄貴、パートナーは男なんだ。兄貴の場合、喧嘩した時はちゃんと話をしてない事が多いって言ってたぞ。きっとお前らもな。」


ヒラヒラと手を振って席を放れていく実行委員の背中を見る。

情報過多だけど、一つ一つが重要で、大事な事のように思えた。


「一生懸命……俺?」


そこだけは謎すぎてわからないけれど。


目の端で女子と笑っている浅間の姿を見ながら、ジクジクと痛む胸を抑える。

いや、自分の気持ちだろう、と自問自答しながらぐるぐる思う。


男同士とか余興の一環だとか。

契約ありきの期限付き彼氏だったとか。


言い訳ならたくさん思い付く。

浅間と一緒にいられない言い訳なら。


でもそうじゃない。

それって結局逃げだから。


俺が浅間と一緒にいた時間がどうしてあんなにキラキラと輝いて見えたのか。

何をやっても楽しくて、笑い合わずにはいられなかったのか。


水族館で見たイルカショーも。帰りに撮った2人の写真も。

叱られて居残り片付けの罰則も。

毎日一緒に帰った道も。


俺が昇り切るまでジッと見つめ続ける浅間の視線も。

不意に沈黙が落ちる俺たちの緊張も。


全部が全部、俺たち2人の距離感だった。

俺たちなりの恋人距離感だったはずだ。


もう答えはとっくに出てたんだよ。

俺が気付いていなかっただけで。


「は……俺、とっくに好きじゃん。」


小さく小さく腕の中で呟く。

別れてから気付くとか間抜けすぎて笑うけど。


「痛い、なぁ……。」


もう浅間との繋がりが切れてしまった後で、どうしたらいいのか分からない。

ジッとしてると涙が浮かんでくる。そんな女々しい自分を誰にも見られたくなくて俺は再び机の上で不貞寝のポーズをとる。

姑息で卑怯かも知れないけれど、誰も寄ってくんなよっていう精一杯のアピールだ。


ズッ、と鼻をすすり、俺はそのまま頑として顔を上げはしなかった。



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