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目を閉じてキスをしたら、ば。  作者: さくらスミレ


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12/16

12.期限付き彼氏



朝から天気が良くて、俺のテンションは駄々上がり。

でもこういう時ほど危ないのは確かで。

一寸先は闇なんてゴロゴロ転がっているのだった。




「ねぇ、浅間くんとのお付き合い。いつまで?」


少し高圧的な態度でそう聞かれる。

教室に入った途端女子数人に連れ出された階段の踊り場。

囲まれ取材みたいにグイグイ近づいてくる女子の圧が怖い。


「え、な、なに?」


「何じゃないって。もうそろそろ終わりでしょう?植田くんと浅間くんのお付き合い。」


「あ、ああ。あれ。」


「そろそろだよね?実行委員と話していたの聞いてたし。」


女子3人に囲まれるなんて夢に見た事さえない。だってこえぇもん。

ガチで浅間ラブを公言している女子たちだし。始終俺を睨んでたのも知ってるし。


「確か2週間だったよね。そろそろだと思って。」

「そしたら今度は私が付き合ってもらうんだっ。」


楽しそうにそう言う女子を見る。クラスでも可愛いと評判の女子だ。

ま、俺には縁がないから話す事なんてないけれど、浅間とは仲が良かったはずだ。



「正確には覚えてないんだけど…。」


俺の答えに1人の女子からあからさまに「使えねーな」という顔をされる。

こんな女子ばかりじゃないけど、こういう強気な女に好かれる浅間も大変だな、とは思う。


「でもっ、今週末にはもう別れてるよね?じゃ告白は週末にしようかなっ。」


「え~私も浅間くんと付き合いたいんだけど。」


「じゃ、順番にしようよ。」


女子の言い方が癇に障って思わず口を挟んだ。


「なぁ、お前ら浅間の気持ちって無視なわけ?」


「え、何?」


「だからさ、俺と別れた後は自分だって言ってるみたいだけど。それ、本気で思ってるの?浅間の気持ちとか無視?」


「え…‥そんな事ないよ。浅間くんがオッケーしてくれたらって事だよ。」


「そうは聞こえなかったけど。」


「何よ、植田の方こそ浅間くんの気持ち無視して付き合ってもらったんじゃん。カツサンド?に釣られたってのはクラスのみーんな知ってるし、浅間くんだってカツサンドと同等に並べられたら良い気分じゃないでしょ。それに、最初から恋人じゃなくて友達で良かったのに。あんたが実行委員の言い分に乗っちゃったから浅間くんだって引くに引けなくなっちゃったんじゃない。」


睨み付けられてそう言われる。

は?俺が悪いの?何でそうなるんだ?


「俺ばっかりの所為にすんなよ。」


浅間だって実行委員と取引してるって言ってたんだぞ、と口にしようとしてふと我に返る。

確かに浅間はそんな事を匂わせはしたけれど、実際何を取引材料にしたのかは言わなかった。

思い返すと俺が一方的にそう決めつけたと言えなくもない。

真偽のほども確かじゃないのに、勝手に他人に話していい内容じゃないな、と気付く。


「あんたの所為じゃん。ちょっと優しくされたからって勘違いしないでよね。」


「そうそう、浅間くんはみーんなに優しいんだから。」


女子って怖いな、って思うのはこういう時。一方的に自分が正しいと決めつけて話をする事が多いから。

もちろんそんな女子だけじゃないのは重々承知の上で言っているけれど。

俺が口ごもっていると、女どもはほら見た事か、という顔で俺を見た。


「ほら、言い返せないでしょ。浅間くんと少し仲良くなって恋人きどりって、ちょっと無いから。」


「男同士だし。」


「余興でしょ、あれも。」


一方的に言われて、心が傷つくと同時に、何でこいつらにこんな風に俺がディスられないといけないのか、と思う。

それでも言い返す事をしないのは、俺と浅間のお付き合いが期間限定だと分かっているからだ。


ムカつく言い方をされたけれど、実行委員の言い分に踊らされて浅間と期間限定の恋人として付き合う事になったのは間違ってないし、浅間が誰にでも優しいのも確か。

カツサンドに釣られた俺に対して優しかったのも、確か。


そう思ったら、何だか女子に対する敵愾心みたいなものがシュンと萎むのが分かった。

そうだ、浅間はみんなに優しいんだった。


「あ~、まぁあと2、3日?だと思うよ。」


言いながら、でも律儀に2週間ぴったりまで恋人やらなくてもいいんだよな、と思った。

俺と浅間が仲良くやってたのはみんなの知るところだったし、この辺で別れたって「ああ、そういえば期間決まってたな」とか思うぐらいじゃないだろうか。


チクリとする胸の痛みに目を瞑ってそう考える。


「もういいだろ、俺。」


「そうね、ありがとう。」

「ああ、お疲れ。これで対策も練れるし、助かったわ。」

「うん、植田くんも応援しててよね。」


勝手な事だ。

辟易した気持ちを顔に出さずに階段を下りた。


浅間と一緒にいる時間が楽しくてうっかりしていたけれど。

そうだ、俺たちは期間限定の恋人だった、と当事者の俺たちよりもシビアに機を伺っていた周りに思い知らされる。


今のままじゃいけないんだよな。

このまま浅間と一緒にいちゃダメなんだよな。


仮の恋人じゃなくなるだけじゃん、友達に戻ればいいじゃん。

なんて思うけれど、きっと違う。


偽物でも期間限定でも、「恋人」というフィルターが無くなったら、俺たちはただのクラスメートに戻るだろう。

友達というカテゴリーにも入らないただのクラスメート。

必要最低限な事以外は話さない、交わらない、ただのクラスメートだ。


前の状態に戻るだけだろう?

問われる声に否定する。

そんな風に思えないほど、もう俺にとっての浅間は、もっと近い距離にいる人間だった。


「友達距離感……は、もう辛いな。」


ポツリと呟いた言葉は誰の耳にも届かない。






その日の放課後。

いつものように浅間と一緒の帰り道。


期間限定の恋人になってから毎日一緒に歩いた道を歩きながら、俺は今日別れを切り出そうと思っていた。

自動的に関係の切れる2日後を選ばなかったのは、俺たちの行動を見ている人間が意外にも多いと気付いたからだろうか。


今か今かと待ち構えていられるのはちょっと勘弁願いたい。

浅間は分からないけれど、俺は目立つ事が嫌いだし、この2週間の浅間との時間を茶化されたくはなかった。


最初こそ実行委員の策略に乗った形で始まった俺たちの恋人としての毎日は、俺にとって揶揄いの対象になるようなものではなかった。もっとキラキラして眩しいガラス玉みたいな日々で。思わずハンカチに包んで大切に閉まっておきたくなるようなものだった。


「浅間……。」


「う~ん、なに?」


間延びした声で答える浅間に、何と言おうか。

このまま何も言わなければ、何も変わらないのかも知れない。


こうやって一緒に帰って、休日は一緒に出掛けて。

楽しい時間を一緒に過ごす。

それでいいじゃないか、と囁く声がする。


「浅間……。」


「だから、何だって、植田。……植田?」


浅間が脚を止めて俺を振り返る。

隣を歩いていたはずなのに、リーチの差なのか、ほんの少し浅間の方が先を歩いていた。


「あのさ……、2、2週間。経つよな。」


俺の言葉に浅間は口元に浮かべた笑顔を止めた。


「お、俺。もうそろそろいいかなって思って。内田たちは上手く行ってるみたいだし。もう大丈夫だろ、ジンクスも。」


風が少し舞って、浅間の前髪を揺らした。

きっと俺の髪の毛もふわふわと揺れて散っているだろう。


「そっか。」


浅間の小さな声がして、酷く後ろめたさを感じた。

言い出した俺がそんな気持ちを持つだなんて間違っていると思うのに。


「いやっ、浅間がどうこうじゃなくって。お前と一緒にいるのすげぇ楽しかったし。今まで知らなかったけど浅間がこんな奴だって分かって良かったし。」


「ん……。」


「だから……だから……。」


最後のひと言が言えない。期間限定彼氏でも俺の初めての恋人。

友達よりもちょっとだけ大切で、大事な期限付きの彼氏。


浅間は真顔で俺の顔を見つめていたれど、くしゃりと表情を崩した。


「わかった。そっか。そうだな。もう大丈夫だよな。俺も、植田とこうやって話せて凄い楽しかった。毎日、学校に行くのが楽しみだなんて、そんな事なかったよ。」


「お、俺もっ。」


頷いて、同じ気持ちを共有しているはずなのに、顔を合わせて笑ってもそれはどこかぎこちない。

俺たちの空気が変わったのを肌で感じた。


「ありがとな、植田。あんな変な条件付けて恋人になったのに俺と付き合ってくれて。」


「いや、俺の方こそ。実行委員のカツサンドに釣られたのにさ。」


「ああ、それな。酷いよな、俺カツサンドより下だから。」


「そんな事ないって。」


軽口も何となく上滑りして。

笑っているのに胸の中はどこか寒々しくて。



「じゃ、また明日な。」


「ああ、また明日。」



そんな風に普通の友達みたいに別れて。

駅の階段を昇り切った俺は、初めて後ろを振り返った。



俺たちの期限付きの恋人時間の終わりを告げるように。




そこに浅間の姿はなかった―――――。





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