11.王道の『水族館デート』③
「うへぇ、結局濡れた。」
「あれは植田が悪い。何であそこでフードを取るかな。」
「取ったんじゃなくて風で飛んだの。」
結論、イルカショーはめちゃめちゃ楽しくて面白かった。
俺たちが座ってた席はやっぱり水飛沫がバンバンかかる席で、何度も何度も水が飛んできた。
今回のショーに出ていた白イルカの一頭「おたけちゃん」とやけに目が合うなぁと思っていたら、どうやらターゲットにされたのか他の観客よりも水を被る回数が多い。
司会のお姉さんがリップサービスよろしく、「今日はおたけちゃんの意中の人が観客席にいるみたいですよ~。」なんて言っていて煽っていたし。
どうりで…俺たちに向かって起こる水飛沫の激しさを思い出して、納得。
他の観客もワハハと笑っていたから、まぁオッケー?
足元も当たり前だけどびしゃびしゃになって靴も結構濡れた。
洋服はレインコートのお陰でセーフだったけど、風でフードが飛ばされた所に飛んできた波に俺は頭がザブン。結局濡れてしまった。
ショーが終わった時には、首筋から流れてきた水に洋服は何となく湿っていてちょっと気持ちが悪い。
まぁその内乾くか、なんて思っていたらふわりと頭からタオルが降ってきた。
「ほら、風邪ひくから拭けよ。」
「あ、悪い。っていうか準備良いね。流石。」
「茶化すなって。」
俺のひと言が機嫌を損ねたのか、浅間は怒ったように口を引き締めた。
俺の事心配してくれたのに、悪かったな、と思って謝る。
こういうのは直ぐに言うのがいい。
「ごめん、調子に乗った。タオル、助かる。」
そう言うと、今度は照れた様子で俺の頭をタオルでごしごしと擦った。
「いたっ、いたいって。自分で出来るって。」
「あ、そう。」
照れくさい気持ちを隠すような仕草は天の邪鬼の証拠だ。
タオルの隙間から、少し赤くなっている浅間の顔を盗み見て、俺は心の中でほんの少し笑った。
「次、どうする?」
「そうだなぁ……。見てないブース行ってみるか?」
「お、いいね。」
2人の意見が一致して、俺たちは歩き出す。
濡れていた髪の毛はまだ少し湿っていたけれど、大分乾いてきた。
頭から被ったタオルを今度は首から下げる。
ふんわりと柔軟剤の香りがして、あ、俺の好きな香りだ、と思って何だか嬉しくなった。
*
「はぁ~、楽しかった。」
「本当、こんなに水族館満喫したの初めてだ。」
お互い笑い合って帰り道。
結局閉館時間近くまで水族館にいて、今日は一日水族館を隈なく回った。
昼の海鮮丼は、多分、おそらく、凄く美味かった。
イルカショーは水浸しだったけど、バシャンバシャンかけられて気持ち良いぐらいだった。
見たことのない海底に住むグロテスクな魚やキラキラ光るクラゲのタワー。
電気ウナギは本当に電気を発生させるらしい、と分かったし。
サメの格好良さに惚れた。
水族館って魚だけじゃなく、ペンギンやシロクマ、アザラシやアシカなんかの哺乳類もいるし思った以上に楽しい。
昔、もっと小さな頃に家族で来た時は早々に疲れて「早く帰ろうよ」なんて泣いてグズって大変だったと聞いている。
俺も大きくなって、水族館の楽しみ方が分かってきたのか、なんてちょっと誇らしげに写真を撮った。
「あれ?なに撮ったの?」
「ん~今日の記念。」
水族館前の庭園を歩きながら門をバッグにパチリッ。
自撮りだから顔がアップでちょっと恥ずいけど。
今日一日のキラキラした思い出は、きっと浅間が一緒だったからだ。
何を見ても、何を話しても、とにかく面白くて楽しい。
一つ一つが輝いて見えた。
「なぁ、一緒に撮ろうぜ。」
ちょっと恥ずかしい気持ちもあったけど、浅間の事を誘ってみる。
今日の思い出、あってもいいよな。
男2人でくっついて写真を撮るだなんて、テンション高くないとやらないけど。
「あ、いいな。じゃ、もう少しこっちで。」
軽くオッケーされて、テンションが少し上がる。
浅間も同じ気持ちなのかな、なんて思う。
浅間の提案に、帰り道を歩く人の波から外れて大きな木の傍まで移動した。
ここなら人も少ないし、目立たない。
「ここから向こう、ほら、水族館の大きなドームが写るだろ。」
「本当だ。へぇ。」
浅間が示した方向を見ると、木々の隙間から覗く川沿いの道と、遠くに見える大きなドーム状の建物が良い構図になってる。
意外な場所にベストスポット。
「じゃ、撮るか。」
いざ撮ろうと横に並ぶと、俺と浅間の2人の間にはぎこちない距離。
ほんの少しの出来心。
同じ画面に治まるように、グッと浅間に身体を寄せた。
「わっ。」
「くっつかないと撮れないだろ。」
驚く浅間を無視してカメラを構える。
「ほら、笑って、笑って。」
感じる体温に頬が赤らむ前に。
急いでシャッターを押す。
「何枚か撮って。」
浅間の言葉に連続して写真を撮った。
カシャ、カシャ音が鳴って。
もういいかな、と思った最後の一枚は――――
俺の頭を引き寄せて、こつんとぶつけた頭と頭に、顔を寄せて弾けるように笑い合う、恋人みたいな写真だった。




