表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
目を閉じてキスをしたら、ば。  作者: さくらスミレ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/16

10.王道の『水族館デート』②



昼食前の衝撃から覚められないまま午後の始まり。

俺の心は千々に乱れていて、正直落ち着いて動物たちを見る余裕がない。


「植田、どうした?」


何て俺の顔をほんの少し屈んで覗き込む浅間の仕草が何故かカッコよく見えてドキドキする。


「な、何でもない。」


フイと顔を背けてしまう。だって、顔なんて見れない。恥ずかしい。

俺、本当に浅間の事好きなんだろうか?


目の前で呑気に欠伸をしているシロクマに問いかける。


(なぁ、人を好きになるってどんな気分?)


もちろんシロクマは答えなんてくれなくて、もう一度欠伸を返された。


「ちぇっ。」


八つ当たり気味にシロクマに悪態をついたら、浅間がふっと笑う。


「植田、シロクマに喧嘩売ってんの?眉間に皺、寄ってるけど?」


横から覗き込まれて俺の眉間に指を寄せる。


「わっ。」


顔も指も、浅間の何もかも、距離が近くて思わず仰け反って避ける。

浅間の指が戸惑ったように宙に浮かんでいた。


「ご、ごめん。ちょっとビックリして。」


慌てて言い訳をする。


(急に触れられたらビックリするよなっ、なっ?)


なんて自分自身にも言い訳をする。


「そう?ごめんな、急に触ろうとして。」


少しだけ残念そうに浅間が言うから、また心臓がドキンと音を立てた。


「い、いや、俺が過剰反応しただけ。本当悪ぃ。」


謝ると気にしてないよ、とばかりに手を振って浅間が笑う。本当、今日はよく浅間の笑顔を見る。

横を歩く浅間が俺にチラっと視線を寄こしてから何気ない感じで言葉を告げた。



「今度はちゃんと言ってから触るよ。ね、それなら驚かないだろ。」


「あ、ああ。そ、そうしてくれ。」


答えてから、それでいいんだっけ?と考えてしまう。


「植田、ほら、次行こうよ。」


深く考えるよりも早く浅間が俺を呼んで、ま、いいかなんて思う。


「次って何?」


プランを立てたのは浅間で、俺は付いていくばかり。

でもそれには外れがなくてとても楽しい。


「次はね、お待ちかねだよ。」


ニヤリと浅間が笑うから、今度は俺にもピンと来た。


「ってことは……。」


「そう、イルカショー観に行こう。」


そう言って笑う浅間の笑顔は逆光でハッキリ見えなかったけど、そのまま俺の肩をトンと叩いて促す浅間の仕草に胸がキュンとした。





「まだ空いてる。」


「すぐ埋まるって。折角だから最前列だろ?」

「そりゃもちろん。」


イルカショーは人気のアトラクションだから開演時間より早い時間に席を取らないとすぐに良い席は埋まってしまう。

まだ人はまばらでこれなら好きな席に座れそうだ。


「ここでいい?」

「あ、うん。」


浅間が選んだのは正面よりちょっと右側の最前列。

絶対水被る席。


「な、ここって絶対水浴びるよな。」

「それが醍醐味だろ。」

「でもさ、俺、着替えとかないけど。」

「ははっ、大丈夫。これ買っておいたから。」


そう言って取り出したのは透明なレインコート。


「ここの前のブースで売ってた。アコギな商売だけど濡れたくないから買うよなぁ。」


彼氏さまのエスコートは完璧。

俺は手渡されたレインコートを羽織りながら、ちょっと不貞腐れ気味に礼を言う。


「ありがと。…‥‥なぁ浅間っていっつもそんな完璧なの?」


「完璧?ああ、これの事?レインコート用意するぐらいで完璧って、ないだろ。」


「だって手慣れ感半端ないだろ。いっつもそうやって女の子に用意してやってんのかって思う。」


俺はこんなスマートに出来る自信ない。そんなデートした事ないけど。


「したことないよ。」

「嘘つくなよ。」

「本当だって。」


浅間の言葉を素直に受け取れない自分がいて、モヤモヤする。

さっきまで楽しくて仕方なかったのに、今は浅間が誰かと一緒にこうやってデートする姿が脳裏に浮かんでイライラしてしまう。


急に怒りだした俺に浅間だって困るだろう。今まで楽しくやってたのに、どうしてって。

ダメだな、俺。


浅間の事好きかもって思ったら、浅間の行動の一挙手一投足が気になってしょうがない。


俺にだけ?

俺だけ?


なんて思ってしまう。

そんな事ある訳ないのに。


1人で怒って落ち込んで、レインコートを着てわざわざフードまで被る。

これで浅間に顔を見られずに済む。


ガヤガヤと人が入りだして、俺と浅間の間の沈黙も気にならなくなる。

少なくとも表面上は。


目の前の大きな水槽には主役のイルカたちがいつの間にか現れて悠々と水の中を泳いでいた。

右に左に縦横無尽。楽し気に泳ぐイルカたちに歓声が上がる。


ジャンプしたイルカに「わっ」拍手が起きて、ショーは始まっていないのに観客の目が釘付けになった。


人は続々と詰め掛けて、隙間の無い俺と浅間の距離が出来上がる。

2人の間の雰囲気は悪くなったはずなのに、触れている肩の感触がこそばゆい。


そんな時、温かな温もりを感じて視線を落とした。そっと俺の手に重ねられた浅間の手がそこにはあって、俺の頬が熱くなる。


「浅間っ。」

「いいだろ?それに誰も見てないって。」


そう言って今度はギュッと握ってくる。

そういう問題じゃないって、と文句の一つも言おうと思ったのに、浅間の口元が緩んでいるような気がして俺は言葉に詰まった。


「あのさ……。俺、こんなに楽しいデート初めて。植田と一緒だと何やっても楽しいし、楽しんで欲しくてしょうがない。だから、これもさ、レインコートを用意するとかさ、植田にしかしてないよ。」


耳元に浅間の息を感じる。

喧噪に負けないように、それでも周りに聞こえないように顔を近づけて俺に囁く浅間の声に思わずゾクリと背筋が震えた。


そっか、俺にだけか。


今度はすんなり受け止められて、俺の口元もにやにやと緩んだ。


「なに?嬉しそうだね、植田。」


揶揄うようにそう言われて、慌てて口元を引き締める。


「イルカが可愛いから。それに、こうやって観るの初めてだから楽しみ。……ありがとな、浅間。」


でもやっぱり嬉しくてありがとうと礼を言う。

そう言って笑ってやったら、今度は浅間が頬を染める。


俺たちはバカップルみたいに手を繋いで顔を赤らめながらイルカショーが始まるのを待った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ