第十六話 同郷の思惑(1)
気付いているとは思っていたが、こんなにもハッキリと宣告され、少し焦ってしまう。
「ええよ、そんな警戒せんで。俺も『異世界人』や、この関西弁でわかるやろ」
「…それは、確かに。ってことはルークって名前は偽名?」
「そうやな、本名は本田ルク。この関西弁も偽モンや。まぁ、何年も使ってきて慣れてもうたけど」
「俺は黒野翔。…なんで関西弁を使おうと?」
「簡単、君みたいな日本人なら、この関西弁に必ず反応するからや。今回君も、俺の口調を聞いた時に少し反応しとったで」
「…それで、何かあるんだろ?同じ『異世界人』の俺に」
ルークが関西弁を使って『異世界人』を探しているのは分かったが、目的が不明な点、警戒を解くことは許されない。
彼の黒い目には、ただの『仲間探し』が理由ではないことは明白だった。
「話が早くて助かるわ。そう、俺は君がここに来た経緯とかには興味ない。ただ、君にお願いっていうか協力して欲しいことがあってな。こんな運命的な出会いに乗じて」
微笑するルークが、大通りとは反対の薄暗い裏道へと歩く。
「ついてきて」
「…」
「大丈夫やで、君に危害は加えへん。ただ互いに異世界人って事はあまり聞かれへん方がええやろ?」
その言葉に直ぐに「はい」とは言えなかった。
行くべきなのだろうか。
確かに、彼は怪しいが殺意はない。
「…あぁ」
それに、断った時の方が危険だと、直感的に理解し俺は首を縦に振る。
俺はある程度、ルークとの間隔をあけ、ルークの後に続いた。
そして、数分歩いた後、ルークは俺の方に身体を振り返る。
そこは、さっきよりも薄暗く、狭い路地裏だった。通行人など全くいない、密談するには最適の場所だった。
「よし、ここなら誰にも聞こえへんやろ」
「それで…お願いって何?」
「そうそう、話っちゅうもんは、『元の世界への帰還方法』についてや」
「『帰還方法』…?そんなのがあるのか?」
ルークが口にする『帰還方法』。
俺もこの世界に来て、元の世界に戻る方法について考えた事はある。
「そうや。けど、戻る方法ってのが少し大変でな、だから同じ『異世界人』としてカケ兄に協力を仰ぎたいっちゅうわけ」
「…別に帰れるなら協力は惜しまないけど、わざわざこんな路地裏で話すってことは、そんな良い方法では無いんだろ?」
俺の推察を聞いたルークは口角を上げて不敵に笑う。
「察しがいいなぁ、話が早くて助かるわ。まぁそや、この方法ってのは気持ちのええもんじゃない」
「…内容を聞いても?」
「ええで、それはな――――」
ルークから語られた『帰還方法』について。
それは、明らかな非人道的な方法であり、俺の許容を遥かに超えた残虐な作戦だった。
俺はその方法の残酷さに言葉を失う。
「…は?そんなのダメに決まってるだろ。膨大な犠牲者が出る。俺たちとは関係の無い人まで巻き込んでしまう」
「そうや、だから気持ちの良いもんちゃうって言ったやろ?ただ、不可能では無い」
「不可能じゃないけど…、それが本当に上手くいくのかも不明なんだろ?なら、もう少し他の方法を考えた方が…」
「俺だって、他に方法があるならとっくにやっとるわ。この世界に来て約七年間、探し続けてこれ以外に収穫はなかった。もうこの方法しかない。早く元の世界に帰ってやらなきゃいけん事があるんや」
「やらないといけないこと?」
「アンタにそれは関係ない。俺が聞きたいのは、この作戦に協力するか否かだけや」
俺を見つめるルークの目の温度がさらに低くなる。
おそらくだが、次の俺の返事次第で一触即発は免れないだろう。
俺は腰にかかる剣の柄に手を添える。
「答えはNOだ。ルークのやり方には賛同できない。俺たちのために関係の無い人まで傷つけるのは、俺にはできない」
「そうか、残念だよ──」
──『視認速度上昇II』
キンッッッ!!
「なっ…!」
ルークの陽気な関西弁が消えた刹那、俺は右腕に放たれた銀色の何かを、身を横に捻りながらかろうじて弾く。
「これは、矢…?」
矢の形をした物体が地面に落下する。
その矢の全身は白く輝いており、普通の矢とは違う雰囲気を発していた。
矢を放ったルークは、白銀に輝く弓を構えており、俺が動くことを許さない。
「そうそう、俺、弓使いやねん。正直、君が反応するとは思わんかったけど、やっぱ『風の英雄』さんが育ててるだけあるわ」
ルークは余裕そうに、戻った陽気な関西弁で微笑する。
(ルークだって、アイリスと同じ『神世代』…。おそらく、今の俺では…)
勝てない。それが俺の出した結論だった。
俺は、弓を構え獲物を仕留める様な目で睨むルークに留意しながら、この場を切抜ける方法を絞り出す。
『逃げる』てのもありだが、弓使い相手に遠距離戦に持ち込むなど、自分の首を絞める行為他ならない。
それならば――と、不意に俺の脳に二つの案が浮かぶ。
ただ、どちらも不確定、一か八かだ。
─―『移動速度上昇Ⅱ』
俺は、コンクリのように硬い地面を踏みしめ、発散。そして一気に加速する。
高速で迫る俺に、ルークは弓を構えたまま動じる様子はない。
弓使いなのなら逆に接近してしまえばいい、それが俺の一つ目の案だった。
ルークへ、薄暗い路地裏に白銀に輝く剣が迫る刹那。
俺の浅はかな考えは、直ぐに打ち砕かれた。
「皆そうする。分かりやすいねん、アンタの考え」
俺の渾身の横払いが、何も無い空間を斬りさく。
「…上っ?!」
俺は慌てて声の方向、頭上を見上げると、そこには4、5m上の空中で弓を構える青年が、俺を見下す様に嘲笑っていた。
そして、空から放たれる『音速』の光の矢。
「『構築』っ!!」
俺は咄嗟に五枚の石盾を空中に連続するように並べ、防御耐性に入る。
魔獣の爪でも壊されない石盾、今までに俺の命を何回救ったことか分からない。
今回も防げる、と心のどこかに余裕があった。
「あの騒動の時に、ちゃんと把握してんねん、能力ぐらい」
この冷血に発せられた言葉を聞くまでは。
「『物質貫通』」
「はっ…?!?」
視界が赤い血しぶきで染まる。
右腕に人生で味わったことの無い激痛が走る。
広場での騒動とは違う、身を鋭い何かで刺されたような鋭痛が全身に伝播する。
俺は痛みにもがきながら激痛の根源を探る。
すると、右腕にはルークの放った矢が突き刺さっていた。
「あ゛あ゛あ゛ぁあ!!!!」
俺の絶叫が、音のない灰色の路地裏に木霊した。
次回第十七話『同郷の思惑②』です!
お楽しみに~




