第十七話 同郷の思惑(2)
「あ゛あ゛あ゛ぁあ!!!!」
襲う鋭痛と恐怖から、俺は絶叫する。
何で何で何で…、盾はどうした…?
俺は空を見上げると、そこには傷一つない石盾が五個、健存していた。
「な、んで…」
その問に意気揚々と答えるのは、打ち終え地面に着地したルーク。
ルークが指を鳴らすと、刺さっていた矢が光の粒子となって消えた。
「俺の能力の権能:『物質貫通』や。簡潔にいえば、俺の矢は一切の障害物にジャマされず、対象をブチ抜く」
なるほどな、と俺は安心した。
「……は、はは、はははは…!」
突然の俺の狂気めいた笑いに、いつもの笑みが警戒へと変わるルーク。
「なんや…痛みで気狂ったんか」
俺が笑ってるのは、痛みでも恐怖でもない。
ただ、賭けに勝ったからだ。
「はは…、いや、違う。ルーク、お前、俺を殺せない、んだろ?」
二つ目の案、交渉だ。
「…何を根拠に」
「今も、さっきも、お前は俺の右腕しか狙ってない…。確かに、初めに利き腕を潰すのは、戦略として効果的、だが、今も右腕を狙う必要、あったか?」
「…」
「図星だろ?殺す気だったら、お前は俺の脳天を、突き刺せば良かったはず。それを、しないのは何か出来ない理由が、ある」
「…理由ってなんや」
「まぁ…単純に、アイリスたちに、俺とお前が同行してるのは知られてるから、だろ?俺の死体が見つかったら、真っ先に疑われるのは…お前だからな」
俺の考察が当たったのか、ルークは両手を上げ、お手上げだと言わんばかりに息を吐いた。
「はぁ…まぁ半分正解や。俺はカケ兄を殺すつもりはない」
「…それじゃ、お前は俺をどうする、つもりだったんだ…」
殺すつもりはないにしろ、ルークの思惑がバレたとなったら、俺をそのまま帰すことはできないだろう。
「まぁ、大切な人材やし、少し脅して言うこと聞かせようとしたんやけど…バレたんならこれ以上脅しても意味ないな…」
ルークが顎に手を当て、狭い路地裏をウロウロ徘徊する。
「ん〜あ、そや!カケ兄、俺と『契約』しようや」
「『契約』…?」
「そう、『契約』、互いのためにな。そいで、内容はな…」
ルークが俺に提示した契約内容は三つ。
I:互いが異世界人であることを他言しない。
II:先ほどの作戦を他言しない。
そして──
「Ⅲ:元の世界へ戻るために協力する。…」
「そうや、アンタにもいい話やろ?」
俺としては、戻るために協力するのに問題はないが…
「ただ、ルークの言う、あの作戦には協力できない。俺は俺自身で別の方法を模索する、でいいか?」
ルークは俺の提案に小さく頷く。
「あぁ、そう言うと思ってたで。俺はこの条件を呑んでくれるんなら、これ以上危害は加えん。ただ無理というなら…な?」
ルークが不適な笑みを浮かべ俺を見下ろす。
今の俺の力じゃ、ルークには勝てないだろう。
さっきの攻防で一目瞭然だ。
「あぁ、分かった。それでいい。ただ、口約束だと破ったか、どうか分からなくないか?」
「そうや、だからこの世界にある便利なシステム:『命ノ契約』をしようと思う」
「『命ノ契約』…それはただの契約とは違うのか?」
「そう名前の通りや。この契約を破った際、代償として『命』を捧げる。まぁ、簡単に言って死や」
「なるほど…、それなら破る心配はない、か」
「信頼できるやろ?」
「あぁ、その契約でいい…」
「了解、それじゃ始めんで――」
ルークは了承得ると、目を瞑り何かを唱え始める。
「―――天に証を、地に楔を。我れらが血の一滴、我れが命の灯火を以て、此処に誓約を成さん。『命の契約』」
ルークが唱え終えると、俺の脳に直接情報が流れる。それは先ほど提示された契約内容だった。
「はいっ、契約成立。それじゃ、ホイッ」
「えっ、あっととと…」
ルークが投げたものを、左手で慌ててキャッチする。
それは水色の液体が入った、多角形に切られたガラスのビンだった。
「それは高級回復薬や、貫通したぐらいなら治る。高かったんやから感謝してな〜」
ルークはそう吐き捨てて裏路地の闇に消えていった。
「そういえば、俺の腕って貫通してるんだったな…クソいてえ…」
緊張の糸が切れ、突如矢で射貫かれた部分に燃えるような痛みが襲う。
すぐさま受け取ったポーションを患部に注ぐと、出血は止まり、みるみると射貫かれた腕は、元の万全な状態へと回復していった、痛みも全くない。
「これがまさに回復薬…異世界すげぇ。けど…後で高額請求とかされないかな…」
俺は異世界の常識離れした現象に感嘆しつつ、自身の懐の危機に苛まれた。
そして、俺は地面に鎮座し、路地裏の闇の中で思案に耽る。
これから、俺は異世界へ戻る別の方法を考えなくてはならない。
今は何も案などないし、ルークがいつまで待ってくれるのか分からない。
ただ、ルイの言っていた作戦、それだけは阻止しなくてはいけなかった。
さっき成立した『命の契約』的には、ルークの作戦を漏洩することはできないが、妨害することは可能なのだろう。
なぜ、それをしなかったのかは分からない。
できなかったのか、それともわざとしなかったのか…。
ただいずれにしろ、阻止しなければ──
「……十万人が犠牲になる」
そうして、俺はその場で立ち上がり、ルークに続く形で路地裏を出たのだった。
次回第十八話『試験に向けて(1)』です!
お楽しみに〜




