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第十五話 神世代

俺はアイリスの友達、ルークという青年と会うことができ、都内の老舗で話をしていた。


「まぁ改めまして、俺はルークっていいます。アイリスとおんなじ『神世代』の一人ですわ、よろしく!」


「よろしくお願いします。えっと『神世代』って?無知ですみません」


確か、ルイとのトラブルの時も聞いた『神世代』。

そう言えば、これが何なのかは今も知らない。


「あぁそういえば言ってなかったわね。『神世代』っていうのは、『入団試験』を受ける世代の中でも、飛び抜けて才能を持つ人につけられる名誉?みたいなもの。まぁ基準とかは特にないんだけどね」


「そうやな、今『神世代』って言われとるんは、俺にアイリス、ルイにセルフィーの四人やな。まぁルイのやつは、今回の騒動で試験出れんやろうから、名誉剥奪みたいなもんやけど。まぁ自業自得や、アイツの性格は好まん」


ルイを貶すルークは笑いながらコーヒを嗜む。


ルイが試験に参加できないのは薄々分かっていたが、少しやり過ぎた感は否めない、いや否めるね!ルークもあの性格には苦言を漏らしてるし、アイリスを傷つけたんだ、正当な罰だろう。


後悔はない。


それにしても、アイリスが『神世代』となると、俺はとんでもない人たちに拾われたんだな…。

『英雄』の姉に、若き天才『神世代』の妹、そこに『異世界人』の俺。

あれ、字面だけでは負けてないんじゃね?


「それじゃ、ルーク、さん?もめっちゃ強いってことか」


「いや敬称はええで、カケにぃ。あんたの方が年上やろ?アイリスのお義兄さんやし。まぁ強さはアイリスには勝てんわ、メンタルなら、都随一、いや、世界随一やけどな」


自信満々に胸に拳を叩くルーク。


「それじゃルークで。でも確かに、その図太さなら誰にも負けなさそう。アイリスも見習ったら?」


俺がアイリスに提案すると、アイリスが嫌そうにジト目で俺を睨む。


「あのね…、簡単に見習えたら今まで苦労してないわよ」


「え〜いいやん!ちょっと俺の口調真似してみてや」


「はぁ?なんで私が…」


「一回だけ一回だけ、メンタル強化も大事な訓練じゃね?」


ルークの悪ノリに乗ってしまう俺。男子高校生なら仕方のない衝動だろう。

それに、アイリスは押しに弱いので、この追撃はとても有効。


「……あたしはアイリス! 『神世代』で一番の女や……っ! って、もう無理、絶対無理っ!!」


少しの沈黙の後、振り絞って叫んだアイリスが耐えきれず、顔真っ赤にして椅子の上でうずくまる。


案の定、アイリスは沸騰しそうなほど顔を真っ赤にして、膝の間に顔を埋めてしまった。細い肩を震わせて悶絶するその姿は、毒気を抜かれるほどに可愛らしい。

……不覚にも、心臓が跳ねる音がした。


ただし、ルークの笑いに釣られて俺も吹き出してしまった。


「あははははっ!ええやん、似合ってるで」


「どこがよ…死にたい…」


大笑いする男二人に、悶絶し泣きかけてうずくまる少女の地獄絵図の席に、老舗のカフェには似合わない陽気な声が届く。


「どーしたのアイっち、そんな可愛い顔して」


そこには、アイリスと同い歳ぐらいの青髪の女性が立っていた。


背丈はアイリスぐらいで、耳と口には白銀に輝くピアス。

眩しいほどのヘソ出しスタイルに、歩くたびに揺れる極短のミニスカート。

圧倒的な『ギャル』のオーラを纏っていた。


…どの世界にも共通存在なのだろうか、ギャルは。


「あっセルフィー!この男どもが私をいじめてくるの!」


その女性に気づいたアイリスは、席から飛び上がるように立って、その女性に抱きつく。


「よしよし〜可愛いあいっちっ。…っと、ルークは分かるけど、その黒髪っちは?」


彼女は俺を見ると、訝しげに視線を走らせる。


「俺も黒髪なんやけどな…、まぁこの人はアイリスの義兄さんのカケル君や」


「えっと、ルークの紹介通りだけど、カケルっていいます」


すると、彼女は目をまん丸にして驚き、俺の顔を至近距離で見つめてくる。

ギャルの青髪から甘い香水の匂いが漂って俺の鼻を刺激し、ギャル耐性がない俺は何とか自制しようと固まってしまう。


「え、アイリスにお義兄っちいたの?!、…けど全然似てなくない?」


「はは…よく言われます…」


まぁ、血も繋がってないし、生きていた世界も違うから当然なんだけど。


「というか、セルフィーって…『神世代』の?」


「正解だよ〜カケルっち。私は『神世代』の一人、セルフィー。将来はアイっちの嫁!よろしく!」


「ちょっと!嫁って…いつもいつも…」


「へへ〜狙ってんからね、あたし」


突然のセルフィーのプロポーズに、戸惑うアイリス。

突然の百合展開に戸惑う俺。

いつもの事なのか、余裕綽々とコーヒーを流し込むルーク。


「ギャルに関西弁に『英雄』の妹って、『神世代』って、濃っ!メンツ…」


俺はそのカオスな状況に、誰にも聞こえない声量で愚痴るしか出来なかった。








その後、セルフィーが加わり、四人で談笑して数時間が経ち、俺たちは会計を済ませ店の外に出た。


三人とも個性は強いが、仲はとても良さそうだった。

俺も次第に二人に慣れてきて、異世界で初めてとなる『友達』ができて、ハッピー!

と、なるはずだったんだけど…


「何で、俺が全部奢る目に…」


俺はすっからかんとなった財布を眺め、虚空を見つめる。


なぜか、三人に言いくるめられて、四人分のカフェ代を支払うこととなった俺。

自腹で買ったハコスはルイに踏み潰されるし…もうサーラさんからの小遣いも無くなった…。


「そりゃあ、一番年上ですやん」


「そだよーカケッち」


「妹には奢らないとね〜」


俺の事情を知らない二人はいいとして、アイリスが妹の立場を良いように利用してるのは許せん…!


「ああ、これが異世界の青春か……」なんて、ハッピーな気分に浸っていた自分を殴りたい。手元に残ったのは、中身が家出した空っぽの財布だけだ。


「くそガキどもめ…、この恨みはいつか晴らさしてもらう…」


そう、負け惜しみのセリフを吐き捨てるしかできなかった。


「怖いね〜。それじゃ、あたしはアイッちと買い物行くから、お先〜」


「カケル、迷子にならないでね〜」


「なるかっ!」


女性陣二人は俺から逃げるように商店街の方へと行ってしまった。

二人を見送り、残されたのは俺とルークだけになった。


ここからが本番だと、俺は冷静にルークへ視線を戻す。その刹那、空気の密度が変わった。ルークの瞳から陽気な光が消え、底の知れない澱みのようなものが浮かんできている。


「さーて、二人も行ったことやし、本題に入ろうか」


「……ああ」


「単刀直入に言うけど、自分——『異世界人』やろ」


心臓が大きく跳ねた。

敵意なのか、それとも同郷の親愛なのか。

少なくとも、彼の双眸の奥に揺らめくのは、決して綺麗な感情だけではない。


(何か、ある…)


隠しきれない彼の「黒い思惑」が、薄暗い小道の静寂を侵食していった。


次回第十六話『同郷の思惑①』です!

お楽しみに~

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