011 不穏
さてさて、どうしようか?
煙突は……目標の部屋から遠すぎる。
やはり窓か。
でも、霊素感知に反応がある部屋に窓が無いな。護衛がしやすいからか?
部屋に直接入った方が警備に見つかり難くそうだと思ったのに、残念だな。
〔廊下には人があんまりいないみたいだから、すぐ近くの廊下の窓から入るか。〕
〔はい、そうしましょう。〕
エルムは屋根の縁を掴み、そのまま前転。
勢いを殺しつつ壁を背に、窓枠の端に足を掛けて静止した。ーーーますます忍者っぽい。エルフはバランスが良いのかな?
エルムは慎重に窓を確認する。
あーやっぱり鍵掛かってら。
でも当然、木製の窓枠だった。
代行者がタワーを作っている時、何もせずにいた訳ではない。
こんなこともあろうかと、エルムに協力して貰って樹木魔法なるものをしっかり研究していたのだ。
エルムの樹木魔法で木枠を変形して外す。勿論ガラスを割らずに、だ。
少し割れそうで心配だったが何とか成功した。
エルムは窓が外れた所にスルリと体を滑り込ませた。
侵入成功。お邪魔します。
〔あの角を曲がって突き当たりの部屋だな。〕
エルムは素早く、それでいて静かに廊下を進む。
そして角から少し顔を出すと、顔の側の壁から木屑が弾けた。
〔は?〕
矢が刺さっていた。
部屋の手前の廊下には、西洋の甲冑を身に纏った騎士が2人もいた。1人は剣、もう1人は弓を構えている。
感知に反応はなかったのに何故?
そんな事を考える前に剣の騎士が素早く踏み込んできた。
剣が左下から右上に鋭く動く。
エルムはそれを樹木刀で受け流し、甲冑の左足と右腕の隙間を鋭くほぼ同時に切り裂く。相手の手から剣が落ちた。
その後、相手の後方から矢が飛んできた。
どうやら切り結んだとき、動きが止まる瞬間を射抜くつもりだったようだ。
だが思惑は外れた。エルムは矢を叩き斬り、その勢いであっという間に間合いを詰める。
相手は弓を捨てて小刀を腰から引き抜くも、エルムがその腕を使えなくする方が速い。
2人の騎士は痛みで悶絶した。
〔なるほど、峰打ちね。〕
〔死んでしまっては後々厄介なことになりますから。〕
はーよかった。
躊躇無く振り斬った時にびびった、とかそんなことはないからな!
始め甲冑の隙間を切ったように見えたのも、いつの間にか刀をひっくり返していたようだ。
更に1人目の時の三撃目と2人目の二撃目は、痣から察するに後頭部に入ってる。
速すぎて見えなかった。まるでスキルがエルムの感覚を拾い損ねたようだった。
〔それにしても、何でこいつらの反応がなかったんだ?〕
〔おそらく、この鎧に原因があるかと。〕
〔そうか、調べてみるか。〕
ーー〈解析〉ーー
名称 : 聖騎士の鎧
組成 : 元素50、魔素30、霊素20
効果 : 「〈ex〉[身体強化][魔力強化][大音声][潜伏][防御強化][精神攻撃無効]」
〔へー、潜伏exか……エルム、この効果だったらもっと苦戦しないか?〕
エルムに情報を共有する。
〔装備に対して、使用者が未熟ですね。〕
バッサリ言うね。
なるほど、使いこなせていないのか…それでも感知に引っかからなかったのは不味くないか?
おっといけね。物音でばれたかも。
人は確認出来ないが、空気中の微量な魔素を押しのける様な動きがある。
潜伏スキルは、待ち伏せにはいいが移動するとバレやすくなるようだ。
一旦知りたい事は置いておこう。
〔さっさと済ませないとややこしいことになりそうだな。〕
エルムは廊下を再び進み始めた。
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私の名前はレイナ。今年で16になる。
数週間前から黒い痣ができる未知の病に体を蝕まれていた。
症状は身体機能低下。
一括りにするとそうだけれど、様々な合併症が起こるのでとても辛い。
今では呼吸することすら難しく、魔法道具で空気を肺に送り込むしかない。
医者に聞かなくても、自分でハッキリとわかる。
あと1日保つかどうかの命だと。
私は……もっと世界を見たかった、聞きたかった、知りたかった。
もっとお父様やお母様と色々なことを見て、話し合い、楽しく過ごしたかった。
冒険者になって世界中を旅することなんて、何度夢想したことだろうか。
……………何故、何故私なのですか?
どうしてこんなことに?
「い゛ぎだい゛」
でも、今この部屋には誰もいない。誰も聞いてくれない。誰も助けてくれない。
【その願い、聞き届けよう。】
ーーーーーーーー?!!
目を開け、ドアの方に視線を向けた。
するとドアの前には、生気が迸る美丈夫のエルフがいた。
それを見た私の目に、出し切ったと思っていた涙が溢れた。
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この女性がお嬢様か。
美人だな。エルラは美しいと言うよりは可愛いと言う要素の方が強いが、この人は美しくて清楚な感じだ。
ただ、病人だからか頬は瘦せこけてしまっている。
「あ゛な゛だば?」
「私はヘリス=ワルド様を敬う者です。貴女を助けに参りました。」
声が痛ましいほどかれている。状態は悪そうだ……
どうにか詳しく知る方法はないか?
【解析を推奨します。】
お?………あれ?なんで俺、解析することを考え無かったんだ?
よくよく考えてみるとハルドも解析しなかった……
怪しいと思っていたのに。
まるで、解析を無意識のうちに忌避するような?
【スキル[思考誘導]ですね。】
何その物騒なやつ。バリバリ犯罪臭がする。
何でそんなスキルが?いや、その前に誰がそんなことを?
【位の高い者達は、思考誘導+解析・鑑定妨害スキルを高めることで情報の流出を防ぐことが多々あります。】
へー、やはり狙われるからか?
人攫い対策の影武者を用意しても、解析とかされるとバレるよな。
【yes、ちなみにこの情報は一部の特権階級のみが知る機密事項です。】
なるほど、聞かなかったことにしよう。
今思ったんだが、ステータスやスキルって認識されてるのか?
【一般の解析・鑑定スキルは代行者の解析能力ほど優れていないので漠然とですが、そう言うものがあることは知られています。】
そうか。ま、それは置いといて解析ーーーー
(ドタドタドタ)
(おい、賊が侵入している。探し次第拘束しろ。)
(はっ。)
(ドタドタドタドタ)
(こちらは居なかった、そちらは?)
(こっちも居ません。)
(今度はあちらを探して見ろ。私はお嬢様のご様子を伺ってくる。)
あーなんか修羅場の予感。
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コンコンコン
「お嬢様、失礼します。」
1人の騎士が入って来た。
高くて若い声だ。
他の騎士に指示を出している節があるから、年の割になかなかの地位にいるのではないだろうか?
え?エルムはどこにいるかって?
それは勿論ーーーーベッドの下だ。
すぐバレるかと思ったが、実はそうでもない。
[潜伏]は全開にしてるしこの部屋は薄暗い。
何より、騎士達はお嬢様や何か重要なものを狙っていると思っているだろう。
この部屋はお嬢様が無事ならスルーされる可能性が高い。
あとはお嬢様が俺達を信用してくれるかどうかだが、他に助かる方法がないとわかっているならば望みは大いにある。
少し、いやなかなかの綱渡りだが、渡りきる自信はある。
「お加減はいかがですか?」
「マ゛リ゛ア゛、私゛は゛大丈夫゛。」
あーここで衝撃の事実。
この凛とした声の騎士はーーーー女だ。
いや、びっくりだ。
前世でこそ女性の社会進出が活発になっていたが、こんな貴族とか王様が出て来そうな、古いしきたりに囚われそうな世界でかなりの地位にいるのはすごいと思う。
でも、前世と考えが違うところもあるのかな?
採用基準の低い冒険者と言うのがあって、魔法やスキルがあるから戦闘職に就きやすいのかもしれないな。
「そうですか、良かった。ハルド団長が必ず御神木の実を持ち帰ります。ですからそれまで踏ん張って下さい。」
「ゔん゛わ゛がっ゛だ。」
「では、私は仕事に戻ります。ゆっくりお休み下さい。」
「ゔん゛」
マリアという女性騎士は部屋を出て行った。
ふー、ハラハラした。あの女性、相当強そうだった。
ああいうのとは敵対したくないな。あ、また解析するの忘れた。
まあいいか、敵対しなかったらいいんだし。
〔エルム、女性騎士が充分離れた。お嬢様を助けよう。〕
エルムはゆっくりとベッドの下から這い出た。
刺激しないようにゆっくり立ち上がり、お嬢様を見た。
「ぞれ゛で、な゛に゛を゛じでぐれ゛る゛の゛?」
「貴女を救うよう、ヘリス様から仰せつかっております。」
エルムはそう言って一つの実を取り出した。治癒の実だ。
代行者、今の内にお嬢様の状態を解析してくれ。
【了解。】
エルムは実をお嬢様の口へ近づけ、口の中に汁を垂らした。
これで元気になってくれたらいいんだけどな。
【解析した結果、個体名エルラを状態異常に陥らせた魔力と類似する魔力を検出。契約の実による排除を推奨。】
ちょっと待て。今すっごい重要なことを言わなかったか?
エルラは偶発的にあの特殊な状態異常になったのではない?
故意に変な魔法でやられた?
【その通りです。そして、侵食速度は異なりますが個体名レイナも99.9%類似した魔力で蝕まれています。】
この人はレイナというのか…いや、それより。
〔エルムごめん。治したら帰って良いかと思ってたけど、そう言う訳にも行かなくなった。〕
あの森にいた奴の中に、お嬢様を殺そうとしている者がいる。
間が空いてしまいました。
ブックマークして頂いている方には誠に申し訳ありませんが、この頃忙しくて次の投稿が大分先になってしまいます。
気長に待って頂ければ幸いですm(_ _)m
お読みいただきありがとうございました。




