子どもの手紙|涙の再会はより深き絶望へ繋がる
今は別れた妻と暮らしている小学四年生の息子から、こんな手紙が届いた。
『お父さんに告ぐ! この頃はどうですか? 僕はすごく元気でまいにち楽しいです! お父さんも幸せにすごされますように! ハルト』
ハガキの空いたスペースには『新しいお父さん』と書かれた男の似顔絵や『終わらない宿題』に半泣きで取りかかっている自分のイラストが描かれている。その台詞として『へるぷみ~』と気の抜けた文字で書いてあった。
『お父さんに告ぐ』ってなんだよ、と俺はまずそこで笑ってしまう。
この頃はどうとか、幸せにすごされますようにとか、あの子なりに大人っぽい手紙にしようとしたのだろうか?
けれど無理に大人っぽい言い回しをしようとしたせいか、何度も書き間違ったようで消しゴムをかけた跡だらけだ。
『お父さんに告ぐ』の『に』。『この頃』の『頃』。『すごされますように』の『され』。『ハルト』の『ル』。
後は元妻の再婚相手の似顔絵と気の抜けた『へるぷみ~』を書き直してある。
でも消しゴムのかけ方が雑で、修正した跡が丸分かりなのが、いかにも子どもの手紙らしくて微笑ましい。
しかし一緒に暮らしていた頃は人見知りで大人しい子だったのに、こんなひょうきんな手紙を書けるようになったのか。
元妻とはケンカばかりで、あの子にはずいぶん辛い思いをさせた。
少し悔しいけど、前に元妻が言っていたおり、新しいお父さんによくしてもらっているんだろう。
この手紙が俺に届いた直後、元妻から電話でこう言われた。
『あの子がどうしてもって言うから手紙を書かせたけど、これで最後だから。もうあなたはあの子の父親じゃないんだから、二度と会おうとしないで。返事もいらないから』
元妻が否定しようと俺はあの子の父親で、会う権利があると思っていた。
でも今こんなに楽しく暮らしているなら、元妻の言うとおり、俺は邪魔なのかもしれない。
……初めての手紙、すごく嬉しかったよ。新しいお父さんと仲良くな、ハルト。
心の中で返事をすると、俺は静かに身を引いた。
しかしその半年後。俺は思いがけない形で息子と再会した。
二年ぶりに目にした息子は、あの頃とはすっかり変わっていて、俺は涙で前が見えなくなった。
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■ 解説■
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『お父さんに告ぐ!』という変わった一文から始まる少し不自然な文章の手紙。
消しゴムをかけて修正した部分を抜き出すと以下のようになる。
『に』『頃』『され』『ル』
『新しいお父さん(のイラスト)』
『へるぷみ~(台詞)』
これらを組み合わせると『新しいお父さんに殺される』『へるぷみ~(助けて)』となる。
ハルトは実父と会わせたがらない母に「どうしても」と頼み込んで、大人たちにバレないように助けを求めた。
半年後の再会。しかし語り手にとって『思いがけない形』だったということは、手紙の暗号に気付いて、こちらから会いに行ったわけではない。
息子が恐れていたとおりのことが起き、あの頃とは変わり果てた姿で涙の再会を果たしたのだ。
語り手はまだ手紙の真意を知らない。いつか自分が見落としたSOSに気付いた時、より深い絶望を味わうだろう。




