↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/55

【閲覧注意】生徒の作文|彼の家には『女の子』がいる

 これは私の生徒が書いた作文だ。


【『僕の家族』 4年3組 青木ユウタ


 うちには僕とお父さんと女の子がいる。


 女の子はもう大きいけど、自分で歩けない。だからトイレに行けないので、いつもオムツをしている。


 そこにうんちやおしっこをするから、女の子はとてもくさくて汚い。


 女の子はうちに来たばかりのころ、毎日のように泣いてうるさかった。でもうちは防音だから外には聞こえない。


 ただ聞こえないのは外だけだから、僕は女の子が落ちつくまで、いつもうるさくて大変だった。


 女の子は歯がないから固いものが食べられなくて、飲むゼリー(おかしではなく、ちゃんと栄養があるヤツです)とか具のないスープとかを飲んでいる。


 歯がないってかわいそうだと僕は思うけど、「この子はこれでいいんだ」と、お父さんは言っていた。


 僕には女の子が気持ち悪く見えるけど、お父さんは可愛いみたいで、たくさん写真を撮っては誰かに送っている。


 お父さんが家にいる時は、女の子はいつも大人しい。


 でもお父さんがいなくなると、大きな声で僕を呼んで「外に出して」と、せがんでくる。


 だけど女の子は立つこともできないから、抱っこして運ばなきゃいけなくて、僕には重くてムリだった。


 それともさくを開けてあげたら、自分でハイハイするのかな? どっちにしても女の子を勝手に外に出したら、僕がお父さんに怒られる。


 だから何もできない僕に、女の子は「ひどい」と泣く。


 どうしようもないことで悪者みたいに責められるのはとてもイヤな気分で、最近はずっと聞こえないふりをしている。


 今はお父さんと、たまにくるおじさんが女の子の世話をしている。


 でももしかしたら、いつか僕も女の子のオムツをかえて、お風呂に入れるように言われるのかも。


 考えるだけですごく気分が悪くて、どうしてうちはこうなんだって叫びたくなる。


 お父さんがいて、お母さんがいて、女の子はいない。ふつうの家に生まれたかった。


(先生が書けと言うから書きました。他の人にはぜったいに見せないでください)】


 最後のカッコ内のメッセージは『先生』である私に向けられたものだ。


 ずっと作文の提出を渋っていた青木君は「他の人には絶対に見せないなら」という条件で、これを書いた。


 その時は理由が分からなかったけど、この作文を読んで理解した。


 作文の中で青木君は頑なに妹を『女の子』と呼び続け、自分の家族だとは認めない。


 お兄ちゃんなのに妹をつい疎(うと)んでしまうことを、お父様に知られたくないのだろう。


 放課後。私は青木君と二人で少し話した。


「青木君。作文を読ませてもらったわ」

「……どう思いました?」


 青木君は子どもらしからぬ暗い目で私に問うた。まだオムツの取れない年齢の子がいる父子家庭とは、そんなに大変なのだろうか?


 とにかく作文を見る限り、青木君が苦しんでいるのは確かだ。


「妹さん、まだ小さくて大変ね」


 当たり障りのない感想を述べると、青木君は急にボロボロと泣き出した。


 突然のことに固まる私に、青木君は泣き顔を両手で覆いながら、


「あんなの……妹じゃないよ……」


 と、またも血縁を否定した。


 かける言葉を見つけられない私に、泣き止んだ青木君は乾いた声で頼む。


「……あの作文、他の人にはぜったいに見せないで。先生がいらなくなったら捨ててください」

「わ、分かったわ」

「……それとお父さんには特に、ぜったいに言わないで」

「え、ええ。もちろん。誰にも言わないわ」


 しかしあの場ではそう言ったものの、青木君の妹さんへの拒否感は『不仲』なんてレベルではない。


 青木君は明らかに情緒不安定だ。


 本人は嫌がっているけど、お父様にも相談して、カウンセラーに診てもらったほうがいいんじゃないかしら?


 とにかく青木君の心の問題は、明らかに私の手に余る。


 そう考えた私はあの作文について、青木君には内緒でお父様に話すことにした。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■ 解説■

━━━━━━━━━━━━━━━━━━




 青木君は一度も『女の子』を妹だと言っていない。それどころか「妹ではない」と明確に否定している。


 つまり彼の家には妹ではない『女の子』がいて、柵の中に入れられて父親に管理されている。


 また女の子はオムツをし自分では歩けず、歯がないことから先生は赤ん坊だと推測したが、青木君は『重くて抱っこして運ぶことができない』と書いている。


 青木君は小学四年生。普通の赤ん坊なら抱き上げて運べるはずだ。


 青木君の家では父親(と、たまにくるおじさん)によって異常なことが行われている。


 さらに先生はよりにもよって、それを青木君の父親に話すことにした。


 恐らくは青木君自身が父親に口止めされていただろう秘密を。


 それが外部に漏れたと父親が知った時、約束を破った息子はどうなるのだろう?

お話をご覧くださり、ありがとうございます。


皆様の応援のおかげで、先日ホラージャンルの日刊ランキング(連載中)6位に入ることができました!


いただいた『いいね』や、ブックマーク、評価の全てが嬉しくて、本当に励みになっています。


今後もコツコツ書いていきますので、これからもよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。