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記念日|熱心なファンから届いた最悪のプレゼント

 子どもの頃からアイドルになりたかった。


 幸運にも十六歳でデビューしたけど、その夢はある事故によって二年で断たれて、私は何者でもなくなった。


 こんな自分を誰にも見られたくないと、自宅に引きこもっていた私に『バーチャルアイドル』になることを勧めてくれたのは母だった。


 バーチャルアイドルとは本当の自分の姿ではなく、アニメのような可愛らしいキャラの中の人になる仕事だ。


 女性だけでなく男性のバーチャルアイドルもいて、歌やトークだけじゃなくゲーム配信など思い思いの活動をしている。


 確かにこれなら誰にも今の私を知られることなく、がんばって磨き続けた歌唱力とトーク力を活かせるかも!


 私はさっそく色んな事務所に応募して、二十歳で『バーチャルアイドル』としての活動を始めた。


 それから三年。事務所と先輩たちの応援のお陰で、私は順調に登録者を増やしていた。


 今ではありがたいことにコメントや投げ銭だけでなく、事務所を通じてプレゼントを贈ってくれるファンまでいる。


 もう以前のように踊れないのは残念だけど、たくさんの人に応援されながら、大好きなアイドル活動ができて最高に幸せだ。


 そんなある日。母が私の部屋に小包を持ってきた。


「またルティレさんからプレゼントが届いているわよ」

「えっ、ルティレさんから?」


 ルティレさんは活動一年目から私を応援してくれていて、普段から投げ銭してくれるだけでなく、誕生日など特別な日には、こうしてプレゼントを贈ってくれる。


 どうしてルティレさんが私をそこまで推してくれるのか? それはルティレさんが初めて贈ってくれたプレゼントに同封された手紙に書いてあった。


 私は過去の配信で事故の詳細は伏せつつ、大きな挫折によって一度はアイドルの夢を諦めたことを話した。


 それを聞いたルティレさんは大きな悲しみを乗り越えて、再び夢を追い始めた私の姿に感動してくれたのだそうだ。


 それ以来ルティレさんは、熱心に私を推してくれている。


 ちなみに『ルティレ』は片足で立つポーズを示すバレエ用語らしい。可愛い響きだなぁと気になって前に調べたのだった。このことからルティレさんは恐らく女性で、バレエをやっていたのかなと勝手に推測している。


 しかしプレゼントはありがたいけど、今日は私の誕生日でもバーチャルアイドルとしてデビューした日でも、大きな仕事の発表直後などでもない。


 それなのに、どうしてプレゼントをくれたんだろう?


 でも母以上に私の好みを熟知しているルティレさんからのプレゼントは、いつも素敵なものばかりだから、どんな理由でも楽しみだな。


 ワクワクしながら包みを開けると、箱の中には、


『今日は私にとって最高のアイドルであるあなたが誕生してから五年目の特別な記念日です! これからもアイドルとして健気に立ち続けるあなたの姿を、ずっと見守らせてください!』


 と書かれたメッセージカードと、私好みの可愛い靴が片方だけ入っていた。




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■ 解説■

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 ルティレからのプレゼントは『片方だけの靴』だった。どんなにいい靴でも片方だけではゴミになるだけだ。なら、なぜルティレはあえて片方だけ贈ったのか?


 それは語り手が事故で片足を失ったから。語り手がアイドルを辞めた理由とは、事故による片足の喪失だった。


 語り手に興味を持ったルティレは配信で得た断片的な情報から、公表していない過去を探り出したのだろう。


 そして『片足を失い、子どもの頃からの夢を絶たれたアイドル』という悲劇性に心を打たれて、熱狂的なファンとなり、片足で立つ語り手の姿をイメージして『ルティレ』と名乗るようになった。


 そんなルティレにとっては語り手が片足を失った日こそが、自分の推しが生まれた特別な記念日だった。


 しかしルティレにとっては美談でも、語り手にとって片足の喪失は癒え切らない心の傷であり、誰にも知られたくない秘密だった。


 自分にとって最大の不幸と秘密が、他人に感動と言う名のエンタメとして消費されている。


 この『善意』のプレゼントによって語り手の心はバラバラに砕かれ、他人に無遠慮に秘密を探られたトラウマから二度と人前に立つことはできなくなった。

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