彼からの連絡・後編|あの日、私が孕んだのは……
三か月前、彼が私と会いに一時帰国した日。薄っすら心配はしていたけど、私は見事に妊娠してしまった。
でも彼はハッキリと言葉にしないものの、以前から私との結婚を考えてくれているようだった。だからこそ、あの日も避妊しなかったんだろうし。
だから子どもができたと伝えても、きっと受け入れてくれる。そう信じて彼に報告した。
けれど彼の返事は全く予想外だった。妊娠した彼女に対して「俺の子じゃない」という台詞はよく聞くけど、彼が否定したのは一時帰国そのもの。
確かに一時帰国の後も「会った、会ってない」で揉めたことがあった。彼は証拠として、私と彼が会っていた時間に電話したと言う。
確かに私も彼の着信音を聞いた気もするけど、後で着信履歴を確認したら、その日の連絡はなかった。
今度は「絶対に連絡した、していない」で揉めてしまって、これ以上ケンカしたくないと「私の勘違いかも」ってことにしておいた。
でも、この期に及んで会っていないと否定するなんて……普通ならあり得ないことだけど、彼はとても嘘を吐いているようには思えない。
……それに彼の言うとおり、あの時、確かに彼用の着信音を聞いた気がする。履歴に残っていないのは、もしかして私が知らない間に、誰かがデータを消したから?
だとしたら、あれは誰だったの? 彼には双子はおろか兄弟もいない。他人のそら似なら、私を知っているはずがない。
姿も声も言動さえ、彼と全く同じ別人。そんなものが本当にいるとしたら、それは人間なの……?
お腹に宿った愛しい命が急にエイリアンのように思えてくる。
私はいったい誰の子を孕んだの?
怖い。怖い。怖い。おろしたい。おろしたい。おろしたい。
彼に否定されてから数日。気が狂いそうになる私のもとに、再び彼から連絡がきた。
「えっ、嘘だったの?」
最初に一時帰国を認めなかったのは冗談で、自分の子じゃないと言ったのは、急に妊娠を告げられて驚いて、咄嗟に否定しちゃったんだって。
「じゃあ、あの日私を抱いたのも、お腹の子の父親も、ちゃんとあなたなの?」
彼は「そうだよ。悩ませてゴメン」とバツが悪そうに謝った。
普通は怒るべきところだけど、すごく不安だったから杞憂で嬉しい。しかも今は妊娠を喜んでくれているみたいで「帰ったら結婚しよう」って!
彼との通話を終えた後、私は「よ、良かった~」と胸を撫でおろした。
そして改めて自分のお腹を見下ろす。一瞬でもあなたとお父さんを疑って、おろしたいなんて思ってゴメン。
きっといいお母さんになるから、安心して生まれてきてね。
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■ 解説■
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前編の解説を踏まえると、彼にはどうやら全く同じ姿と声を持つ別人がいる。
語り手のお腹の子は、その別人のものであり、本物の彼には心当たりがない。
それなのに彼は最後「これまでの発言は全て嘘で、本当は一時帰国したし、お腹の子の父親も自分だ」と真逆の発言をしている。
本物の彼なら身に覚えのない行為の数々、それも子どもという大きな問題を認めるはずがない。
だとすると語り手と最後に話し、結婚の約束をしたのは別人のほうということになる。
本物の彼は消されて別人が成り替わった。
真実を知らない語り手は恋人を殺した『何か』の子を産もうとしている。




