無期懲役からの逆転無罪|獣を檻から出す理由
俺は強姦と殺人で無期懲役になった。
強姦のほうは今回は明るみにならなかっただけで他にもしたが、殺したのは一人だけだ。
それも相手がしつこく抵抗するから、つい勢いでという形だった。
裁判では相手を従わせるための暴力であり明確な殺意はなかったと認められたが、それでも俺は無期懲役になった。
恐らく相手が十五歳の女子高生だったのもあるだろう。
単なる性犯罪ならすぐに出られるヤツも多い中、なんで運悪く相手を死なせただけの俺が、こんな厳罰を受けなきゃならないんだ。
無期懲役の場合、仮釈放の審査が受けられるのは、基本的に三十年以上服役した者だけだそうだ。それも審査を受けたところで仮釈放が認められる可能性は、ごくわずからしい。
つまり俺はよくて三十年の服役、悪ければ一生塀の中。
ところが絶望する俺の前に「ある人物に、あなたの弁護を依頼された」という年配の弁護士が現れた。
今回の事件で親にも縁を切られた俺の弁護をいったい誰が頼んだんだ?
弁護士はその疑問には答えず、
「あなたが素直に判決を受け入れて塀の中で罪を償いたいというなら、この件は忘れてくれて構いません。しかしもし『不当に重い罰だ』とお思いでしたら、私が必ずあなたをここからお出ししましょう」
と、ただ俺がどうしたいか尋ねた。
こっちは別に殺すつもりはなかったのに、勝手に死んだ小娘のために、一生を棒に振りたいわけがない。
だから逃れられるものなら逃れたいと、正直に答えた。
すると弁護士は見事に、逆転無罪を勝ち取ってくれた。
普通なら無期懲役になった事件が、無罪になるなんてあり得ない。
しかし今回は弁護士が、俺の罪を肩代わりする人物を用意してくれた。
弁護士によると、その男の命は長くなく、犯罪者の汚名を被ったところで迷惑がかかる身内もいないので、俺の身代わりになってもいいと引き受けたそうだ。
弁護士に依頼した人物といい、俺の身代わりになった男といい、なんで赤の他人が助けてくれるのか謎だ。
出所後。弁護士はさらに俺のために、住む場所まで用意してくれた。
それは人里離れた山奥に建てられた別荘。
裁判では逆転無罪を勝ち取ったが、一度は無期懲役になった俺を怪しむ者は多い。
だから世間が事件を忘れるまでは、ここで身を潜めていたほうがいいとのことだった。
俺は別荘で弁護士が淹れたコーヒーを飲みながら、改めて質問する。
「今更だけど、どうしてこんなによくしてくれるんだ? アンタが誰かに頼まれたとして、あの事件の真犯人は俺なんだぜ? 殺人はわざとじゃなかったとはいえ、連続強姦犯を世に放って良心が痛まないのかい?」
「つまりせっかくやり直しのチャンスを手に入れたのに、あなたはまた同じ罪を重ね続けると?」
咎めるような老いぼれの眼差しに、俺はかえって面白がって答える。
「そりゃ俺だって進んで危ない橋を渡る気はないさ。でもまた馬鹿な女が暢気に目の前を歩いていたら分からないな」
暗に再犯をほのめかす言葉。
てっきり俺を解き放ったことに青くなるか、それとも憤りに震えるかと思いきや、弁護士のじいさんはニッコリと言う。
「なるほど。それを聞いて安心しました」
「は? 安心? なんで?」
訝しむ俺を無視して、弁護士は急にソファーから立ち上がる。
「では私はそろそろお暇しましょう。あなたも眠くなる頃でしょうし」
「アンタが帰るのは勝手だが、別に眠くなんか……」
しかしそう言った矢先、急に睡魔が襲ってくる。
思わずテーブルに突っ伏す俺に、弁護士は立ったまま声をかける。
「それとあなたは私の依頼人や身代わりになった男性が自分を助けた理由を知りたがっていましたが、誰もあなたを助けてなどいませんよ。もちろん私も」
弁護士はそう言い残すと、その場を立ち去った。
その不可解な発言の意味を、俺は次に目が覚めた時に知った。
あのじじいの言うとおり、人を檻から出す理由は助けるためとは限らない。
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■ 解説■
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本来なら無期懲役のところを、ある依頼人が寄越した弁護士のおかげで逆転無罪になった語り手。
しかし弁護士は最後に『自分も依頼人も代わりに罪を被った男も、語り手を助けたわけじゃない』と明かす。
助ける以外に犯罪者を檻から出す理由はなんだろうか?
檻がある限り手を出せないのは、犯罪者だけでなく被害者側も同じこと。
そのままではのうのうと生き続ける憎しみの対象を殺すには、自分が檻の中へ行くか相手を外に出すかしかない。
だから依頼人は弁護士を語り手のもとへ寄越した。
罪を逃れるチャンスを与えても、大人しく罰を受けるなら無期懲役で許してやろう。
しかしその罰さえ逃れる気なら、自分たちが直々に罰してやると。
依頼人の正体は語り手によって傷つけられた被害者の遺族や関係者たち。
身代わりになった男性も、語り手ではなく彼らの計画のために残り少ない命と自分の名誉を犠牲にした。
再犯をほのめかす語り手に、弁護士が「安心した」と答えたのは、これから待ち受ける凄惨な私刑が相応しいクズだと分かったから。
語り手が急に眠くなったのも、弁護士がコーヒーに入れた睡眠薬によるもの。
次に語り手が目覚めた時、人里離れた山奥の別荘は復讐者たちの集う処刑場へと変わっている。




