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「なんで逃げたの?」|霊が俺を恨む理由

 ここ三週間ほど謎の怪現象に悩まされている。


 流石に一人では抱えきれなくなった俺は高校の休み時間、友人に相談した。


「俺、幽霊に取りつかれているかもしれない」

「いきなりなんだ?」


 キョトンとする友人に、俺はやつれた顔で続ける。


「最近、夜に一人でいると『なんで逃げたの?』って、恨めしそうな女の声がするんだ……」

「嘘、幻聴、突然の怪談、どれ?」

「どれでもなくて本当なんだよ!」


 必死で訴えると、友人はようやく話を前に進める。


「それが本当だとして、なんか心当たりは? 冷やかしで心霊スポットでも行ったのか?」

「そういうことはしてないけど、実は……」


 俺は友人に、その霊に取りつかれることになった心当たりを話した。


 それは今から三週間前くらいのこと。


 コンビニ帰りに夜道を歩いていたら、


「た、助けて……」


 と女の苦し気な声が聞こえてきた。


 ギョッとして振り返ると暗闇の中、路地裏から女の白い手が伸びている。


 俺は『姿を見たらヤバい!』と本能的に感じて、決して振り返らずに走って逃げた。


 今、夜になると囁いてくる謎の声は、あの時の霊のものと同じだと思う。


 俺の話を聞いた友人は、スマホで何やら調べ始めた。


「調べてみたらお前が通ったっていう道で、それっぽい事件があったわ」


 画面には、およそ三週間前に起きた事件の記事が表示されていた。


 女性が夜道で男に刺殺された。金品狙いの犯行だったようで、持っていたはずの財布やスマホはカバンごと盗まれていた。


 女性は胸と腹部を刺されたものの、すぐには死なず路地の奥から大通りまで這いずった形跡があったという。


 しかし夜遅い時間だったため、誰にも見つけてもらえずに力尽きたようだ。


「うわ~。じゃあ、その被害者の霊なのかな?」

「でもなんで犯人じゃなく、お前に取りついたんだろうな?」

「本当だよ。俺はただ歩いていただけで、何もしてないのに……」


 友人と話していると突然、バンッ! と教室の天井からすごい音がした。


「わっ!?」


 俺は椅子から軽く腰が浮くほど驚くと、天井を見上げて叫ぶ。


「なんだ、今の音!?」


 俺の疑問に、友人は他人事のような態度で答える。


「もしかしてポルターガイストってヤツ? 霊が怒ったみたいな」

「だからなんで俺!?」


 取りつくなら、たまたま殺害現場を通りかかった俺じゃなく、自分を殺した犯人にしてくれよ~!




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■ 解説■

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 語り手は夜道で「た、助けて」と囁く女の霊と遭遇したせいで、取りつかれたと考えている。


 これは女性が殺された事件が、自分が通りかかった日より前に起きたと認識してのことだ。


 しかし実際には語り手が「助けて」という声を聞いたのと刺殺事件が起きた時期は『およそ三週間前』と一致している。


 実は最初に語り手が「助けて」という声を聞いた時、女性はまだ生きていた。


 犯人にスマホを奪われ、自分では助けを呼べずに困っていたところ、偶然通りかかった語り手に助けを求めたのだ。


 ところが語り手は、女性を瀕死の人間ではなく幽霊と思い込み走って逃げた。


 しかも彼自身は未だに、自分が女性を見殺しにしたことに気付いていない。


 その恨みから女性は語り手に取りつき「なんで逃げたの?」と囁き続けているのだ。


 話の最後で「バン!」と音を鳴らしたのも『何もしなかった』語り手への怒りの表明である。

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