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新しい人生|どうして俺は殺された?

 その日。俺は親友の実家で、一年ぶりにお姉さんと会っていた。


「へぇ、お姉さん、今度結婚するんですね」

「ええ、まだ出会って半年くらいなんだけど、すごくいい人なの」


 最後に見た時とは打って変わって明るい彼女の笑顔に、俺はホッとして返す。


「よかったです。お姉さん、アイツがいなくなって、すごく落ち込んでいたから」


 俺には中学から二十三歳まで親しく付き合っていた親友がいた。


 俺も何度もこの家に遊びに来たし、向こうも俺が一人暮らししている安アパートに合鍵を作るレベルで入り浸っていたから、客観的に見てもかなり親しい仲だった。


 その親友が一年前、突然いなくなった。


 しかしどうやら誘拐や殺人ではなく、自分の意思で消えたらしい。思い返せば失踪の兆候は確かにあった。


「せっかくいい大学を出たのに、なんで就職もしないでホストを続けているんだ?」


 アイツは大学在学中から、夜はずっとホストをして荒稼ぎしていた。


 お姉さんには言えないが、いわゆる色恋営業っぽいこともしていたようだ。


「こっちのほうが稼げるんだよ」

「こんな無茶な稼ぎ方して、いったい何が欲しいんだ?」


 アイツには金がかかるような趣味も浪費癖もなかったので、そんなきわどいことをしてまで、なんで金が欲しいんだと本当に不思議だった。


 そんな俺の疑問に、親友はニヤッと笑って答えた。


「新しい人生」


 その時は冗談だと思っていた。


 だってアイツの家はそこそこ裕福で家族仲もよく、特に五歳上のお姉さんのことは『結婚したいくらい好きだ』と言っていた。


 本人もイケメンかつ文武両道で人当たりもいい。


 本気で新しい人生を望むような問題はなかったはずだ。


 ……いや、一つだけ問題はあったか。


 アイツは小学校高学年くらいから、家では一言も発さなかったらしい。


 家族が嫌いで無視していたというのではなく、文章でのやり取りには応じるが、とにかく声を出さなかったようだ。


 外では普通に話していたので、とても意外だったし、今でも意味が分からん。


 けっきょく俺たちが理解してやれなかっただけで、本当は新しい人生を望むほどの心の闇を抱えていたのかな?


 ご両親やお姉さんも当時は『あの不可解な態度は無言のサインだったのかも』と考えて、自分たちを酷く責めていた。


 そんなお姉さんが弟の失踪を乗り越えて、結婚するのは大変喜ばしいのだが――


「えっ? 私の婚約者に会いたいの?」


 俺の非常識な申し出に、お姉さんは当然ながら目を丸くした。


「アイツの代わりに、お姉さんの未来の旦那が変なヤツじゃないかチェックしたほうがいいかなって……すみません、出過ぎた真似ですよね」

「ううん。あなたとも長い付き合いだし、せっかくだから同性目線で厳しくチェックしてもらおうかな?」


 お姉さんは快く俺の奇妙な申し出を受け入れてくれた。


 その帰り道、ふと考える。


 今気づいたけど、俺はお姉さんが好きだったんだな。


 好きと言っても明確な恋心ではなく、ほのかな憧れくらいだけど。


 だから彼女の婚約者が、どんな男か気になったんだろう。


 写真を見せてもらったが、アイツとは違うタイプのイケメンで、お姉さんより年下っぽかった。


 その後。お姉さんの婚約者と会う日が決まった。


 しかし約束の数日前。


 夜。会社から例の安アパートに帰宅すると、俺は部屋に隠れていた何者かに、背後から鈍器で頭を殴られた。


 堪え切れず床に倒れながらも、咄嗟に振り返った顔には見覚えがあった。


 お姉さんの……婚約者……?


 なんで、この人が俺を襲うんだ?


 それに部屋には鍵がかかっていたのに、どうやって中に?


 まぁ、安アパートだけあって監視カメラなどもないから、ピッキングとかができれば、侵入自体はできそうだけど。


 数々の疑問が浮かぶも、頭を強く殴られたせいで意識が朦朧とし、考えがまとまらない。


 声を出せればよかったが、恐怖と激痛で蚊の鳴くような音が口から漏れるだけだった。


 そうこうしている間にも、お姉さんの婚約者は再び凶器を持った手を振りかぶる。


 なんでアンタは俺を殺すんだ?


 頭部にガツンと衝撃が走り、俺の疑問は命とともに弾けて散った。




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■ 解説■

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 なぜか親友の姉の婚約者に殺害された語り手。


 語り手にとっては初めて会う相手だが、殺害されたからには動機があるはず。


 その動機は失踪した親友が関係している。


 失踪した親友は、大金を稼いで新しい人生を始めようとしていた。


 彼の言う新しい人生とは、別人になって最愛の姉と結ばれること。


 友人が小学校の高学年から家族と不仲でもないのに声を一切出さなくなったのは、自分の声を家族に覚えさせないため。


 整形で顔は変えられても、声でバレる可能性を考えてのことだった。


 しかし語り手は自分の声を知っている。


 姉から「語り手があなたに会いたがっている」と聞かされた親友は、声を聞かれて語り手にバレる可能性を恐れて殺すことにした。


 アパートで待ち伏せできたのは、当時の合鍵をまだ持っていたから。

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