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魔王の処刑|この世で最も惨い罰

 ただ豊かになりたかった。これまで理不尽に踏みつけられた分、これからは踏みつける側になりたかった。


 そのために私は禁忌の術に手を染めて、悪魔の力を借りた。


 より大きな力を借りるには、悪魔を喜ばせる必要がある。


 そのために私は地獄に堕ちた悪党どもをこの世に呼び戻し、殺戮(さつりく)と蹂躙(じゅうりん)の限りを尽くした。


 その結果、私は魔王として恐れられるようになり、あらゆる欲望を叶えた。


 けれど、まるで陳腐(ちんぷ)なおとぎ話のように、私の野望は正義の使者たる勇者様ご一行に打ち砕かれた。


 我が力の源だった悪魔は勇者と聖女に退治され、地獄から招いた悪党どもも、自然の強制力によって元の場所に戻った。


 元凶たる私だけがこの世に残り、これから人々を苦しめ世を乱した罰を受ける。


 その罰とは『私を憎む全ての者からの報復を受ける』こと。


 具体的には私を殺したいほど憎む志願者が順番に、思い思いの凶器や処刑法で攻撃するそうだ。


 悪魔の後ろ盾を失い、もともとの魔力まで『魔力封じの首輪』によって奪われた私は、今やただの人間。逃げることも暴力から身を護る術(すべ)もない。


 しかし私は別に処刑を恐れてなどいなかった。


 何千万の人間が私を憎もうと、その報復を受けるのはこの身一つ。


 実際には最初の数人によって私は死に、全ての暴力を受け切れはしない。


 なんならこちらから挑発してやれば、最初の志願者に私を殺させることも可能だ。


 ちなみに私が死ぬか志願者がいなくなるまで続くというこの凄惨な処刑には、始めから終わりまで聖女が付き添うという。


 聖女とは穢れなき心と体の持ち主で、神の力を借りて人々を癒す者。


 その治癒の力は驚異的で、まだ命のある状態なら、四肢を切り落とされた者でも回復できる。


 暴力や憎悪から最も遠いはずの存在が、こんな残酷な処刑を止めずに見守るという。


「神の使いたる聖女殿なら、たとえ罪人でもここまで惨(むご)い罰は止めそうなものだが、あなたはそうではないらしいな」


 私の皮肉に、若き聖女は「おかげ様で」と、やんわり微笑んで続ける。


「あなたが見せてくれた地獄のおかげで、私の心はすっかり闇に堕(お)ちました。もう私にはあなたに大切なものを踏み躙られ悲しむ人々に『それでも暴力はいけない』などと説く初心は残っていません」


 聖女は柔らかな笑みを消して、さらにこう宣言する。


「今の私が望むのは、あなたがその身を持って犯した罪への罰を受けることだけです」


 それから、さっそく裁きがはじまった。


 最初の志願者は三十歳ほどの男だった。


「う、うちの娘はお前が招いた者たちに犯され殺された。十七、八の娘の話じゃないぞ。あ、あの子は、まだ八歳だったのに……!」


 頼んでもいないのに身の上話を始めた男は、娘の死にざまでも思い出したのか、血走った目で泣き叫ぶ。


「ああっ、あんな惨い真似! 絶対に許さない! 許さない! 許さない! お前も苦しんで死ね!」


 こちらから挑発するまでもなく、全力の殺意でもって私の体にナイフを突き立てた。


 私を恨んでいるのは自分だけではないだろうに、自分の恨みだけ晴らせればいいのか。


 この場には聖女の他に、万一トラブルが起きた時にそれを止める兵士が数名と、次の志願者たちがいた。


 しかし大罪人がどうなろうと構わないのか、誰もこの凶行を止めなかった。


 最初の一人によって、私はあっという間に血まみれになった。


 まだ私を害したくて堪らない者が何千万と残っているだろうに、この男一人の暴走のせいで台無しだな。


 内心ほくそ笑みながら、私は静かに目を閉じる。


 後は死にゆくばかりの体に、なぜか生気が満ちてきた。




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■ 解説■

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 魔王として世界中の人間に憎まれる語り手は、最初の一人によって瀕死の状態にされた。


 しかし語り手への罰は『彼を憎む全ての者から報復を受けること』のはず。


 なら最初の一人によって語り手の命があっさり奪われてしまうことは、聖女側の本意ではないはずだ。


 それなのに聖女も兵士も順番を待つ志願者たちも、誰も語り手への行き過ぎた暴力を止めなかった。


 それはこの攻撃によって語り手が死なないことを全員が知っていたから。


 なぜなら、この処刑には始まりから終わりまで聖女が付き添う。


 命があれば、四肢が切り落とされようと治癒できる聖女がいれば、語り手は死の淵から何度でも連れ戻される。


 それが話の最後で『後は死にゆくばかりの体に、なぜか生気が満ちてきた』理由。


 語り手はこれから、普通なら死んでいるほどの苦痛を何千万回も味わう。


 彼への恨みを抱く者が一人もいなくなるまで。

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