成りすまし|事件は勝手に解決した?
休み時間の教室。私は同じクラスの友人から、急にこんな質問をされた。
「ねぇ、アンタってSNSやっていたっけ?」
「やってないけど」
「でも、これアンタの写真じゃない?」
スマホに表示された画像には、確かに私が写っていた。
スタンプで顔は隠されていたけど、うちの高校の制服だし、私が撮った写真なので見覚えがある。
けれど私は、ある理由からSNSが大嫌いなので断固やってない。
それなのに、どうして私の写真がネットに上がっているの?
「アンタに心当たりがないんだとすると、もしかして成りすましってヤツ?」
「誰かが私のふりをして、勝手に投稿しているってこと? なんの目的で?」
顔をしかめる私に、友人はスマホに目を落としながら答える。
「それは分からないけど……プロフィールには『普通の女子高生。色んな年代の人と仲良くしたいです! 彼氏も募集中(笑)』って書いてあるね。で、フォロワーは『俺とかどう?(笑)』って女子高生狙いのキモい男で溢れている」
友人の淡々とした報告を聞いて、私はゾッとしながら自分を抱き締めた。
「何それ気持ち悪い。これ、どうすればいいの?」
「ちょっと待ってね……」
友人は私の代わりに、スマホで対処法を検索してくれた。
「直接相手に苦情を言うとトラブルになる可能性があるから、運営に通報するのがいいみたい」
「私、そういうの分からない……」
思わず弱音を吐くと、友人が助け船を出してくれる。
「あたしが代わりにやっておこうか?」
「いいの?」
「ただ今日はちょっと忙しいから、もしかしたら明日になっちゃうかも」
「できる時でいいよ! ありがとう!」
頼りになる友人のおかげで少し救われた。
でも事が事なので自分の胸に納めておけず、家に帰ってから母にも相談した。
「と言うことがあってさ」
「大変だったわね。でもお友だちが通報してくれるなら、もう安心ね」
本当はまだ不安だけど、このくらいで警察に相談したいって言うのは、やっぱり大袈裟なのかな?
私は本音を誤魔化すように、他の疑問を口にする。
「それにしても、どこから写真が漏れたんだろ? 私はネットに写真を上げたりはしていないのに……」
私はふと、あることを思い出した。それは私がSNS嫌いになった理由。
「お母さんは、もう私の写真をネットに上げていないよね?」
母は昔、私の育児ブログを書いていた。
物心ついてから、自分の写真やエピソードが勝手に赤の他人に晒されていたことを知った私は激怒。
父に味方してもらって、二度としないと母に誓わせた。
だけど母は今も私の写真を成長記録としてよく撮る。それだけでなく私が撮った写真も送って欲しがった。
だから一緒に撮った子たちと母だけは、同じ写真を持っている。
けれど母は苦笑いで疑惑を否定する。
「もうアンタのことを勝手に書いたりはしていないわよ。今はもらった写真を個人的にコレクションしているだけです」
「だよね。疑ってゴメン」
謝罪する私に、母は気遣いの笑みで返す。
「今はマルウェアとかで勝手に人の情報を抜き出すこともできるらしいから、そういうところから漏れたのかもね」
『まるうぇあ』ってなんだろ? コンピューターウイルスみたいなものかな?
成りすましだけでも頭が痛いのに『まるうぇあ?』だかに感染しているかもだなんて。
もうスマホなんて捨てて、原始に帰ってやろうかな?
しかし夜、そのスマホに友人から吉報が届く。
「えっ? あのアカウントがなくなったの?」
『うん。あれから調べたら通報の前に証拠を取っておいたほうがいいって書いてあったから、スクショしようと思ったんだけど、検索したらもう削除されているみたいで』
自分でも検索してみたけど、本当になくなっていた。
『もうアカウントもないんじゃ通報もできないと思う。ゴメンね』
「いいよ。ちょっと気持ち悪かっただけで実害があったわけじゃないし」
変なアカウントが消えただけで、大分ホッとした。
ついでにマルウェアについても相談すると、感染しているかチェックする方法を教えてくれた。
それによると感染はしていないようだった。
じゃあ、どこから写真が漏れたんだろうって疑問は残るけど、変なアカウントは一応消えたから、これで良かったと思おう。
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■ 解説■
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誰かに自分の写真を使ったアカウントを勝手に作られた語り手。
しかしその偽アカウントは、存在に気付いたその日の夜に削除された。
語り手は『マルウェアには感染してないっぽいし、アカウントも削除されたからいいか』と片付けたが犯人は野放しのまま。
本当に犯人を特定する手段はないのか?
否、犯人特定のヒントは出揃っている。
ネットに上げておらず、マルウェアで盗まれた形跡もない語り手の写真を入手できたのは?
通報されて問題が大きくなる前に、アカウントを削除できたのは?
上記の二つが可能なのは友人か、語り手の母だけ。
しかし犯人が友人なら、語り手に成りすましを教える必要がない。
とすると、娘の写真を勝手に使って女子高生のふりをしていた犯人は語り手の母である。
昔、育児ブログを書いていた母は、見知らぬ人と交流する楽しさを忘れられなかった。
さらに女子高生のふりをすれば、自分よりも若い男性に口説かれる疑似恋愛も楽しめる。
ただ『女子高生』というエサを使って異性を釣ったなら、その相手が画像や投稿から身元を調べて、じかに接触しようとするなどの危険もあり得る。
それにもかかわらず母は、自分の快楽のために我が子を危険に晒したのだ。




