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迷宮で鬼ごっこ|目を潰された死体の謎

 俺はどこにでもいる普通の大学生。


 それが今、迷宮と呼ばれる場所でゴースト相手に命がけの鬼ごっこをしている。


 どうして、そんな羽目になったのか? それは悪魔に借りを作ったせいだ。


 免許取りたての俺は、親の車で人をひいてしまった。


 改めて振り返ると、相手は死ぬほどの重傷ではなかったようなのだが、ビビった俺はその場から逃走。


 ひき逃げしちまった。バレたら警察沙汰? 


 どうしよう。どうしようとパニックになっているところに、マスコットみたいな見た目の悪魔が登場。


「今度ボクが主催するゲームに出てくれたら、さっきの事故をなかったことにしてあげる~」


 その誘惑に乗った俺は事故を取り消してもらう代わりに、悪魔のゲームに参加することになった。


 参加者は俺と同様、悪魔に窮地から救われた者たち。


 悪魔によると、この迷宮に三十人集められたそうだ。


「じゃあ、これから皆さんにはゴーストと鬼ごっこをしてもらいま~す。ゴーストと接触したら魂を吸われちゃうので気を付けてね~」


 どうやら悪魔のゲームとは、ただ魂を奪うだけじゃつまらないので、悪魔たちが楽しめるようにエンタメ化したものらしい。


 このゲームは参加者が十分の一以下になるまで続くという。


 その代わり最後の三人になれば、悪魔への借りはチャラになり、生きて解放されるそうだ。


 当然「そんな話は聞いていない!」と抗議する者もいたが、


「ボクはむしろ愚かな君たちに、生還のチャンスをあげているんだけどな~? それが嫌なら、ただちに魂をくださいね~?」


 と即座に魂を奪われて、その場に倒れた。


 生き残るには三人になるまで、神出鬼没のゴーストから逃げるしかない。


 いちおうゴーストは逃げきれない速さではないのだが、実体がないせいで壁抜けしてくるのが厄介だ。


 また威嚇のために物を投げてもスルッと貫通してしまう。


 ゴーストに殺されないためには周囲に警戒しながら、ひたすら逃げるしかなかった。


「うっ、また死体か……」


 ゴーストの犠牲者を見るのは、これで五人目だ。


 うぇ、この死体。目が潰れてやがる。


 これまで見た死体は全て無傷だったから、てっきり捕まっても魂を吸われるだけかと思っていたのに。


 グロイものを見て怯える俺に、背後から「あの」と声がかかる。


 振り返ると、そこには小動物系の美少女がいた。制服姿なので恐らく女子高生だろう。


 彼女は怖いから一緒にいさせて欲しいと頼んできた。


「それは構わないけど、ゴーストには実体がないせいで、どんな攻撃も利かないから、君を守ってあげることはできないよ?」

「でも単純に目が二倍になれば、その分死角を減らせますよね? 二人いればゴーストがどこから現れても、気付きやすいんじゃないでしょうか?」


 彼女の言い分に納得したのもあるし、俺も一人で心細かった。


 それに彼女はすごく可愛い。せっかく一緒にいてくれるというのに、断る理由はない。


 俺たちは体力温存のために周囲を警戒しつつ、その場で立ち話をした。


「眼鏡、すごく似合っていますね。やっぱりお洒落でかけているんですか?」

「いやいや、普通に視力が悪いだけだよ」

「視力が悪いって、どれくらい?」

「全く見えないわけじゃないけど、ここは足場が悪いから、眼鏡を外しちゃったら、まともに歩けないかな」


 迷宮の足場は基本石畳だが、ところどころ土や木の根が露出していた。


「そうなんですね。もし眼鏡が壊れるか何かしたら、私がお兄さんの手を引きますね」

「あ、ありがとう。優しいんだね」


 それからまたゴーストに襲われて走って逃げた先。


「うっ、また死体か。しかもこの人も目を潰されている」

「酷い。誰がやったんでしょう?」

「誰ってゴーストの仕業じゃないの?」

「あっ、そうですよね。アイツら、そういう攻撃もするんだ」


 彼女もゴーストは魂を吸うだけだと思い込んでいたみたいだ。


「私たち、無事に最後の三人の中に入れるでしょうか?」

「気持ちは分かるけど、希望を持たなきゃダメだよ」


 挫けそうな状況ではあるが、弱気になってもいいことはないと励ますと、彼女は躊躇いがちに切り出す。


「でも私、心残りがあって……恥ずかしいけど、もう高校生なのに男の人とキスしたことがないんです」

「そんなの俺もそうだよ」


 思わず悲しい告白をしてしまった。


「あの、じゃあ、よかったら私としてみませんか?」

「えっ!? お、俺と!?」

「はい。お兄さんが嫌じゃなければ」


 こんな可愛い子とキスするのが嫌なはずない。


 動揺しつつも応じると、彼女は少し照れ臭そうに微笑みながら尋ねる。


「眼鏡、邪魔だから取ってもいいですか?」

「う、うん」


 ドキドキしながら答えると、彼女はスッと俺の眼鏡を外し「目を閉じて?」と囁いた。




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■ 解説■

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 最後の三人になるまで、ゴーストに追いかけられるゲームをすることになった語り手。


 語り手は途中で二度、目を潰された死体を発見する。


 彼はそれをゴーストの仕業だと考えた。


 しかしゴーストには実体がないので、物理的に人間に触れることはできない。


 つまりゴースト以外の誰かが、参加者の目を潰したのだ。その理由はなぜか?


 視力を奪われれば、鬼ごっこで圧倒的に不利になる。


 犯人は自分が助かるために、他の参加者の目を奪ったのだ。


 ところで語り手に同行中の彼女は、目を潰された死体を見て、


「酷い。誰がやったんでしょう?」


 と言っている。


 これは明らかにゴーストではなく、参加者の誰かの仕業だと考えての発言だ。


 『自分が残り三人に入るために、他者を蹴落とす参加者が出たのかもしれない』と考えるだけなら、何も怪しくはない。


 問題は、


「誰ってゴーストの仕業じゃないの?」

「あっ、そうですよね。アイツら、そういう攻撃もするんだ」


 と慌てて語り手に話を合わせたこと。


 彼女は他の参加者による蹴落としの可能性を、あえて伏せた。


 それは彼女こそが他の参加者の目を潰して、密かに蹴落としている犯人だから。


 そんな彼女は最後に突然「キスしたい」と言い出して、語り手の眼鏡を奪っている。


 再び目を開けた後、語り手が見るのは彼女の裏切りである。

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