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夫婦の危機|義妹からのあり得ない誘い

 共働きが当たり前になった昨今。女性でも専業主婦は珍しい中、俺はエリート妻の稼ぎおかげで、家事に専念させてもらえている専業主夫だ。


 妻は会社員時代の上司で十歳上。臨機応変な対応が苦手なせいで仕事ができずに病んでしまった俺を、親身に助けて最後には結婚してくれた。


 家事を舐めているわけではないが、これなら自分のペースでできるし、行き届かない部分は妻が助けてくれる。


 正直かなり年上で容姿もよくない妻に恋愛感情はないのだが、生活をともにするパートナーとしてこれ以上の人はいないと確信していた。


 そんなある日、妻からこんな話を聞いた。


「妹が病気になっちゃって。自分じゃ医療費を払えないと言うから、私が出してあげるしかないかも。あなたにも迷惑をかけちゃうけど、構わないかな?」

「えっ、妹さん、病気なの? いつから?」


 俺の質問に、妻はこう続ける。


「判明したのは最近らしいけど、実は病気って性病なんだよね。性病って潜伏期間があるらしいから、いつなったかと言われると分からないの」

「せ、性病? 性病って、あのセックスで感染するヤツ?」

「あなたには結婚式以来、あまり会わせないようにしていたから知らないかもしれないけど、実はうちの妹、昔から男遊びが酷くてね。友だちの彼氏でも平気で手を出すし、恋人がいても浮気するような子なんだ。だから性病にかかったのも当然と言うか……」


 真面目な妻は昔から、奔放な妹のせいで苦労してきたのだろう。ため息交じりに、


「正直お金が無いからって、なんで都合よく私を頼るんだろうってモヤモヤするよ……」


 と嘆いた。


「……あの、その性病だけど、具体的にはどんな病気なの? 一口に性病って言っても軽い重いがあるだろうし……」

「重症化すれば命に関わるらしいよ。妹もかなり悪いみたいで、流石に落ち込んでいた」


 命に関わる病気だと聞いた俺は、ビクビクしながらさらに尋ねる。


「……妹さん、色んな人と関係を持っていたって。それ男にもうつるのかな?」

「私もあまり詳しくはないけど、普通は男女ともに感染するはずじゃない? 性病の人と性交したら、無症状でもうつっている場合が多いらしいから、早めに病院に行ってくれるといいけどね」


 翌日。俺は妻の仕事中に、内緒で病院に行って性病の検査を受けた。


 そう。実は俺も妻の妹が関係を持った色んな男の一人だった。


 見目がよろしくない妻に反して、妹は女子アナ並みの美人。しかも姉より十歳若く俺と同い年だった。


 妻も『友人の彼氏でも平気で取る』と言っていたが、それは姉の夫も同じらしい。


 と言っても、彼女は本当に移り気のようで、最後にしたのは三か月前。


 その後は他にお気に入りの男ができたようで、最近はほとんど会っていなかった。


 俺の不倫に対するスタンスは『誘われたら弱いけど、自分から積極的に行くことはない』といったところ。


 妻に養ってもらっている身で離婚のリスクを冒(おか)してまで追いたい相手でもなかったので、縁が切れるままにしていた。


 それがまさかの性病発覚。


 もし俺も感染していたら?


 自分の命も心配だが、俺は妻と妊活に励んでいた。


 よって俺から更に妻へうつっている可能性がある。


 もし妻も性病になったら、俺がうつしたって即バレる。


 相手が妹とまでは分からないだろうが、不倫したことは明らかだ。


 捨てられたらヤバいのもあるが、妊活の甲斐あって妻の腹には俺の子どもがいる。


 もし俺のせいで妻も性病になっていたら? 子どもに悪影響が出るかもと不安で仕方ない。


 しかし肝心の検査結果は……まさかの陰性だった!


 最後の性交から三か月経過した状態での検査で陰性なら、潜伏期間中とかではなく感染していなかったとみて、ほぼ間違いないらしい。


 また俺が感染していないなら、そもそもうつす菌が存在しないので、妻も大丈夫のようだ。


 良かった! これで不倫もバレないし、妻子も無事だ!


 万一にも子どもができないようにコンドームはしていたが、大事なところを舐めたり舐められたりはしていたから普通にアウトかと思った。


 神様、奇跡をありがとう!


 感謝したのも束の間、妻の妹から急にメールが届く。


『彼氏と別れちゃった。サービスするから慰めて~』


 ……は? 性病にかかっているくせに、まだ男と寝ようっていうのか?


 人にうつすリスクを少しも考えていないのだろうか?


 しかも医療費は妻に出してもらうつもりらしいのに、その夫を誘惑するって、マジで倫理観どうなってんだ?


 やっぱりいくら見た目が良くても、身持ちの悪い馬鹿女とは付き合うべきじゃないなと、俺は心底彼女に呆れた。




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■ 解説■

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 最後に語り手のもとに届いた義妹からのあり得ないお誘いメール。


 語り手は義妹の非常識として片づけたが、妻の話では『妹は流石にショックを受けて治療を望んでいる』とのことだった。


 治療を望んでいるなら自分の健康のために、医師の指導には従うはず。治療中の性交渉は人にうつすリスクだけでなく治りが遅くなるらしい。


 なので義妹が『性病が悪化したり長引いたりしても構わない』という特殊な考えの持ち主でなければ、今回のお誘いメールはあり得ない。


 そのあり得ないメールがなぜ送られたのか?


 それは義妹が性病にかかっていないから。


 つまり『義妹が性病にかかった』という妻の話は嘘だったのだ。


 妻がそんな嘘を吐いた理由は、夫と妹の不倫を疑ってのこと。


 妹が性病だと嘘を吐けば、その時の夫の反応で肉体関係の有無が分かるはず。


 更に「重症化すれば命に関わる」と言えば近日中に病院へ検査に行くだろう。


 語り手はバレずに済んだと喜んでいたが、妻は全てお見通しであり、子どもを身ごもった今、不実な夫は用済みである。

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