脈あり|王子君の好きな人
大学近くの大衆食堂。頼んだ料理が来るのを待つ間、テーブルを挟んだ向かいに座る友人が、にんまりと切り出す。
「私、王子君と付き合えるかも」
王子君とは、うちの大学でいちばん女子に人気のある男子のあだ名だ。
見た目がいいだけでなく文武両道のハイスペックで実家も金持ちらしい、まさに王子様。
「どうして、そんな風に思ったの? ミスコンクイーンやモデルまであっさり振るような王子君が、これといってモテた経験のないアンタを好きかもなんて思うのは流石に少女漫画脳すぎない?」
うっかり言いすぎてしまったが、幸い友人は素直に受け止めて話を続ける。
「普通ならとても釣り合わない相手なのは分かっているよ! でも私と王子君には意外な接点があるんだって!」
去年の大学祭で迷子になったこの子のおばあちゃんを、王子君が助けてくれたそうだ。
それが縁でおばあちゃんと仲良くなり、それからよく家にご飯を食べに来るようになったらしい。
なんと、その頻度は週に二回。それもタダ飯目当てというわけではないようで、毎回気の利いた手土産を持参してくれるという。
流石は王子君の異名を持つだけあって、礼儀正しいようだ。
「それだけじゃなく、うちのおばあちゃんをテーマパークや温泉旅行にも連れて行ってくれたの! うちは父子家庭で、しかも飲食店やっているから忙して、あんまりおばあちゃん孝行してあげられなかったから、すごく助かっているんだ!」
孝行してあげられないどころか、私の知る限り、幼くして母を亡くした友人は、現在進行形でおばあちゃんの世話になりっぱなしである。
まぁ、この子のおばあちゃんはまだ六十五歳だし、家事万能だから、つい甘えたくなるのも分かるけど。
「確かにすごい接点だけど、仲がいいのはアンタじゃなくて、おばあちゃんじゃない?」
今の話だと、恐らくおばあちゃん子の王子君が、この子の祖母に懐いただけにしか思えない。
「でもおばあちゃんは携帯を持っていないから、王子君と連絡しているのは私だし。それにこの間は私の誕生日に二人で出かけて、欲しいものを買ってくれたんだよ? けっこう高いものを買ってくれようとするから『悪いよ』って言ったら『結婚したら家族になるんだから遠慮するな』って!」
「えっ!? すごい! 相手はもう結婚を意識しているってこと!?」
「そう! だから多分、おばあちゃんだけじゃなく、お父さんにもよくしてくれるんだと思う!」
つまりこの子との結婚を見越して、相手方の家族ともうまくやろうという考えなのか。
「……でも冷静に考えたら、まだ付き合ってもいない女と結婚を考えているってヤバくない?」
「私は好きな人に限り、ヤバいくらい愛されたい派だから大丈夫!」
友人は力強く親指を上げると、ほくほく顔で話を続ける。
「それに多分そろそろ告白してくれると思うんだよね」
「どうして?」
「おばあちゃんがこの間、王子君に『女性が二人きりで会ってくれたり旅行してくれたりするのは、脈ありだと思っていいですか?』って聞かれたらしいんだよね。だから今度は私を旅行に誘って、OKしたら脈ありってことで告白してくれるのかなって」
ちなみに、おばあちゃんは「何かあったら困るような相手とは、流石に泊まりで出かけないと思うよ」と答えたらしい。
ともかく王子君には、自分が相手にとって脈ありか気になる女性がいるようだ。
これにさっきの「結婚したら家族になるんだから」が加われば、確かに友人のことかもって思う。
「確かに。最初は信じられなかったけど、そこまで聞くと脈ありかも」
「だよね! だよね!」
はしゃぐ友人を見て、私もなんだか嬉しくなってきた。
単に友人の幸せが嬉しいのもあるけど、身近な人が目の前でシンデレラストーリーを繰り広げるのを見たら、自分の恋愛にもちょっと希望が持てるし。
と思ったのも束の間、ふと食堂のテレビが目に入る。
「うわ……」
「どうしたの?」
「いや、今のニュース。若い女性が男に殺されたって」
テレビを指差すと、友人もニュースを見た。
「動機は『交際を断られたから』? って付き合ってもいない男に殺されたってこと? 酷いね」
「なんかたまにこういう脈ありって勘違いして、告白を断られたら、逆上して相手を殺す事件あるよね」
「こういう勘違い野郎とだけは生涯無縁でいたいね~」
しかし友人はそれから一週間後、まさにこういう勘違い野郎に大事なものを奪われた。
男に気を持たせるって、こんなに危ないのかと、私は恐ろしくなった。
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■ 解説■
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友人の男性関係について、作中で存在が示されているのは彼女の父親か王子君だけである。
しかし友人の父親が『告白を断られて逆上する勘違い男』であるはずがない。
だとすると最後、友人の大事なものを奪ったのは王子君ということになる。
けれど友人は彼の告白を受け入れるつもりでいた。
では王子君の期待を裏切って逆上させたのは誰か?
作中で王子君と懇意にしていたのは、友人ではなく彼女の祖母である。
大学生の王子君は六十五歳の女性に恋をし、色々と尽くした末に、脈ありだと思ったのも束の間、告白を断られて凶行に及んだのだ。




